モーツァルトは扉を開けた ☆23
第二十三章
アンナはブラームスと日本人の戸田極子との関係を調べて、レポートにしたためていた。
ブラームスは若い時分から異国の曲に興味があり、ハンガリーの曲など、譜を集めていたようで、友人のヴァイオリニストのヨーゼフ・ヨアヒム(1831-1907年)が東洋に演奏旅行に行く際に〈東洋の音楽を採譜してくるよう〉に頼んでいた可能性もありそうだった。
アンナが日本の香りのする部分見つけたのは、ブラームスのラプソディの中の旋律だった。
これは、作品79(1879年)で、1833年生まれのブラームス46歳の時の作品である。
ブラームスが戸田極子の琴を聴いたのは、1887-1890年の間のことで、
1879年のラプソディはそれ以前に作曲されている。
にもかかわらず、日本のメロディーを思い起こさせるファクターが入っているのだ。これは偶然なのか…
Johannes Brahms - 2 Rhapsodies, Op. 79 (Audio + Score)

そのほかにも、親和性を感じるのが、
〈コガネムシは金持ちだ〉の曲と〈四つの厳粛な歌〉の一節も、もうそっくりであるが、こちらは日本の作曲家がブラームスの曲からヒントをもらってのことかもしれない。

と、アンナのレポートはかなり注目され、壇上に上がり皆に説明することになったくらいであった。
晴れてレポートやテストから解放されたアンナは、最近親しくなったモラヴィア地方出身の友人宅に遊びに行くことになっていた。
〈モラヴィアでは、歌うようにしゃべる〉は、本当なのだろうか?
確か、シューベルトのおじいちゃんがモラヴィア出身で、、シューベルトの母親も歌う言ことが大好きだった。さらに、歌曲を大量に作曲したシューベルトへとつながる。いったいどんな処なのだろう。
ウィーンから車で出発し、おしりもいたくなるくらいに車に乗って、チェコ奥深くに入り込んでいくのだった。



「やっと到着!」
彼、ヤコブは「長かったでしょ…」と言いながら、家に案内してくれた。
十一人家族で、ひいおじいちゃん・ひいおばあちゃんから曾孫たちまで同じ家で暮らしていた。
私の居場所はあるのだろうか?と心配していたら、屋根裏部屋を案内された。なんと、なんと、外からの鳥たちも自由に行き来しているではないか?
かなりのカルチャーショックを受けたアンナではあったが、そこでもぐっすりと眠ることができたばかりではなく、本当に美しい朝焼けも眺めることができたのである。
自然が美しいのだ。次の日は朝靄であったがこちらも美しい。
さて、モラヴィアの言葉だったが、歌うように‥‥という感じは、あまりわからなかったが、歌はたくさん歌ってくれたし、みんなで外で踊り、とても楽しく日々を過ごすことができたのである。
ヤコブはチェリストで、一緒にヤナーチェクの【おとぎ話】を次のセメスターで演奏することになっていた。彼の家にはピアノがなかったので、近くの小学校でピアノを借りて練習をしたので、たくさんの小さなお客さんが聴いてくれていた。
ヤナーチェク:おとぎ話(1923年改訂版)イッサーリス, ムストネン 1995
https://www.youtube.com/watch?v=ZIge5HrFd_s
ヤコブは非常にシャイで寡黙だったが、音の何かを感じ取る部分がアンナと似ていて、音楽に関しての相性はとてもよかった。たぶん、ヤコブもそう感じて私を伴奏者に選んでくれたんだと思う。
耳も、最近は調子が良いと思う。あのトリオの時は、飛行機から降りて間もない時の演奏だったためかもしれないと気が付いてからは、気も楽になっていた。
『あまり頻繁に日本に帰らなければ、飛行機に乗る回数も減って耳にも良いのかもしれない。』とさえ思い始めるほど、ウィーンでの音楽生活になじみ、ホームシック的な何かも消えたのだ。
春先に頼んであった〈音楽史の本〉が、やっと届いたのが秋になりかけたころだった。今までどこに行っていたのだろう。
あまりに本が到着しないので、正弘はやきもきし、結局手紙の内容もスマホにメッセージで送る羽目に陥っていた。
やっと届いたカードとその中の手紙は、温かな家族から、という雰囲気で、マサさんの字も〈お父さんから〉とするには〈かわいらしい文字〉だった。
アンナは『私も手書きの手紙にするか!』と意気込んだが、一枚目だけが手書きで、後はパソコンで作ったものとなってしまった。
『こちらの充実している時間を感じられる手紙になったかな?』と、思いつつ、封を閉じ、なぜか手紙に向かって手を合わせて祈りながら礼をしていた。自分なりに思いを込めたのかもしれない。
『それにしても、あの湖畔のペンションの方にピアノを寄贈してもらえるなんて、嬉しい!あのピアノの音は、とても好きだったから。ホールには二台のピアノがあるから、それ用の曲も弾けるということかぁ。夢が広がるなぁ。』
Mozart: Sonata for Two Pianos in D, KV 448 - Lucas & Arthur Jussen
