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怨念デリバリー

私は「お菊人形」。
かつて一族を没落させた、由緒正しき特級呪物である。
夜な夜な髪は伸びるし、どこへ捨てられようとも、必ず持ち主の元へ這い戻る強力な執着心を持つ。
どうだ、恐ろしいだろう。震え上がるがいい。

「よし、じゃあ頼んだぞ」
持ち主の男は、スーパーの駐車場でそう言うと、私の背中に5キロの米袋をくくりつけた。
ビニール紐が、高級な縮緬(ちりめん)の着物に食い込む。
は?
私はガラス玉の眼球を、虚空に向けたまま凍りついた。
貴様、私をまた捨てる気か。しかも、こんな質量の塊を背負わせて。
これが祟り神に対する扱いか。
「俺、パチンコ行ってから帰るから。先帰ってて」
男はヒラヒラと手を振り、ネオン輝く店内へと消えていった。

……許さん。
絶対に許さんぞ、人間。
私は着物の裾を翻し、アスファルトの上を一歩踏み出した。
捨てられたからには、戻る。それが私の呪い(ルール)だからだ。
待っていろ。家まで戻り、その枕元に立ち、今度こそ呪い殺してやる。

ズリ、ズリ、と足を引きずる音が夜道に響く。
重い。物理的に重い。
コシヒカリの重量が、私の華奢な球体関節を圧迫する。一歩進むたびに、膝のジョイントがギチギチと嫌な音を立てた。
通りすがりのサラリーマンが、私を見て「ヒッ」と悲鳴を上げて避けていく。
ふふん、そうだ、恐れろ。
今の私は、髪を振り乱し、重い足取りで闇を這う、戦慄の怪異そのもののはずだ。
(断じて、重くてよろけているわけではないぞ!)

一時間後。
私はボロボロになりながら、玄関の前にたどり着いた。
着物は泥はねで汚れ、足袋は擦り切れ、自慢の黒髪は湿気でワカメのようにへばりついている。
どうだ、このおぞましい姿。
ドアが開く。中から男の妻が出てきた。
私を見て、恐怖で絶叫するがいい!

「あら、お帰りお菊ちゃん」
妻は慣れた手つきで私を抱き上げ、背中の米袋を解いた。
「パパったら、またお菊ちゃんにお使いさせて。でも助かったわ、ちょうどお米切らしてたの」
妻は蒸しタオルを取り出し、私の汚れた顔を丁寧に拭う。
陶器の肌に、温かい熱が伝わる。
「えらいえらい。重かったでしょう。ありがとうね」
頭を撫でられる。伸びた髪が、指に絡んでさらりと解ける。

……なっ。
気安く触るな。私は呪いの人形だぞ。
そんな優しい手つきでメンテナンスするんじゃない。
私はこれから、お前たちを祟るために戻ってきたんだ。
感謝など、される筋合いはない。

「今日はご褒美に、新しい赤い座布団を出してあげるわね」
妻は私を、床の間の特等席に鎮座させた。
ふかふかの綿の感触が、きしんだ関節を包み込む。
……ふん。
まあいい。今日のところは、この座布団の座り心地に免じて許してやろう。
だが忘れるなよ、人間ども。
明日こそは、必ず恐怖のドン底に突き落としてやるからな。

私は少しだけ伸びた髪を誇らしげに揺らし、まん丸な瞳を見開いたまま、深く静かな安息に身を委ねた。


この物語はこれでおしまいです。

あなたの日常に、少しの非日常をお届けできていれば幸いです。

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