子が産まれて、母が生まれる─わたしとある所#006
同僚と、事務作業中に—
「あなたの心に残る場所や自分の存在を実感した場面はどこですか?」
出会う人にエピソードを尋ね、対話を再構成し、人と場所のつながりを探求している記録です。
──質問をする時は、
「この人のエピソードを知りたい」と思う気持ちを大切にしている。
単調な事務作業が続いた時に、
質問を自然に受け止めてくれそうなSさんに聞いてみたいと思い立つ。
──あの、急に変な事を聞くんですけどね、
趣味でエピソードを集めてまとめているんです。
Sさんは、どこか自分の存在をものすごく実感したような場所とか場面ってありますか?
「えー、なんでしょうね…。」
「場所とは違うと思うんですけど…出産ですね」
──なんと、すごい。
「それはやはり、ものすごく嬉しいとか、感動したとか?」
「感動というより、もう戻れない責任みたいな。
自分よりも守るものができた事への戸惑いと実感がものすごくありました。」
──ガーンとくる答えだった。
子供のいない私には到底想像できない境地。
子が産まれて、母が生まれる当たり前のことを実感する。
仕事で子供向けワークショップをする時の戸惑い、
「子供だから」という理由で、無条件にかわいいとは思わない心情を吐露すると、「わかる、わかりますよ」と聞いてくれるSさんだからこそ、余計に答えの重さを感じる。
Sさんの自分の尺度をもち、そこを大切にしているところがいいなと思う。通り一遍ではなく、エピソードを美化せず、100を120にしない人。
そういう人の言葉は信用できるし、仕事や生活もすっきりしているように感じる。
──数日後。
どうアーカイブするか模索中だった私に、「参考になるかと思って」と活版印刷のZINEを持ってきてくれた。
お気に入りの喫茶店に置いている、店主の『覚えている事だけ日記』だそう。それは飾らない文章でとても好きな日記だった。
添えてくれたクッキーも滋味あるおいしさ。
仕事モードの職場でこの話をするのはどうかしらと、躊躇する気持ちもあったものの、
本当に少しずつ問いを共有し、
エピソードを話してくれる方が増え、
Sさんのような方がいて、これは「喜び」だと気づく。

When it was just the two of us at the office

The Place Where It Is Born
Sさん 43歳|1981年 団体職員

Text & Illustrations by Shogar Hariko
First Draft: July 22, 2024
Edited: April 29, 2025
