第4章 英雄誕生 ― 人魔大戦 ― 第6節 別れそして再会
僕は魔人の一人に向かって突撃を開始する。
うまく行く保証はどこにもない。
大体一度もこの兵器を出したこともないのだから。
だが試す余裕もない事が何となくわかっていたので、これもぶっつけ本番でやるしかなかった。
「でーーーーーっ!」
「また突っ込んできやがったぜ!」
「慌てるな、兄弟。また傷でもさせられたら仲間の笑いものになるぜ」
「ああ、今度は迎撃してやる!」
魔人は右の拳を振りかぶって僕に振り降ろしてきた。
動き自体それほど速くなかったので僕はジャンプして避ける。振り降ろされた地面から砂埃が巻き上がった。相当な威力だ。まともに受ければ即死するだろう。
「ちきしょう、当たらねぇ。どこに行きやがった!」
しめた。相手は見失っている。
砂埃の外周を回り、魔人の後方から再び突撃した。
「後ろだ!兄弟!」
「なにっ!」
今頃気づいても遅い。迎撃は間に合わないはず。
僕は腕輪に意識を集中する。
次の瞬間――
僕は突撃した反対側に立っていた。
「ぎゃあああああっ!」
「き、兄弟ーーー!」
魔人の体は横一文字に真っ二つに割れ、多くの血しぶきと共に無残に地面に落ちる。
僕自身、何をしたのかよく覚えていない。
無我夢中だったと言うしかないだろう。
その直後だった。
クレフ「ぐああああああああっ!」
なんとも言えない激しい頭痛が襲う。
あまりの激痛に僕は地面に膝をついた。
これが兵器を使用した代償なのか……。
「き、貴様ーーー!よくも兄弟を!」
もう一人の魔人は逆上し、膝をついている僕に拳を振り降ろそうとする。
当然迎撃する余裕などない。
やられる!
ラグドウ「クレフ!畜生!間に合わん!」
ラグドウさんが駆け寄ろうとするが距離がある。
間に合わない。
ここまでか……。
僕は死を覚悟して目をつぶる。
衝撃が走った。
だが、不思議と痛みは来ない。
恐る恐る目を開けてみると――
目の前に僕を庇う小さな背中があった。
クレフ「!!」
ラグドウ「!!」
マウイだった。
僕と魔人の間に割って入っていた。
振り下ろされた拳は、マウイの小さな背中にめり込んでいる。
「よかった……兄ちゃん……間に合った……」
クレフ「マウイ!!!」
マウイの体はぐったりとしていた。
普通の大人でも即死しそうな一撃だ。
「クレフ……兄ちゃん……勝って……」
それだけ言うと、マウイは僕に寄りかかるように倒れ――
そのまま動かなくなった。
「なんだ?このガキは?」
魔人は冷たく言う。
「どこから来たか知らないが、ほんの少しだけ長生き出来たな。あの世でちゃんと謝れよ」
魔人は再び拳を振り上げた。
「おい!勝手にあきらめるな!」
ラグドウさんの大剣が、その拳を受け止めていた。
「小僧の犠牲を無駄にする気か!小僧の気持ちを少しは汲んでやれ!」
だが魔人は笑う。
「ほほう、この俺の拳を止めるとは大した力じゃないか」
そしてもう片方の腕を振り上げた。
「だが、お前が両腕で受け止めているのに対して俺は片腕だ」
その爪がラグドウさんを狙う。
その時だった。
「がっ!」
叫び声が響く。
だが叫んだのはラグドウさんではなく――魔人の方だった。
魔人の背中に一本の矢が突き刺さっている。
「魔力解放」
静かな声が響いた。
次の瞬間、魔人は光に包まれ、そのまま消滅していった。
森に、急に静けさが戻る。
ついさっきまでの殺気が嘘のようだった。
「クレフ!」
茂みから姿を現したのは、薄汚れた魔道着を着たクリスだった。
クリスの視線が、僕の腕の中に落ちる。
「……その子、残念だったわね」
「なんでなんだ?」
「えっ?」
「なんで、もっと早く来てくれなかったんだ!もう少し早ければ、マウイは……マウイは!」
僕は完全に号泣していた。
はっきり言って僕が言うのはただの言いがかりだ。助けて貰っておいてそんな言い方はないと思う。だが言わなければやりきれない気持ちだったのだ。こうなったのは自分の責任、それを素直に認めたくない。
クリスもそんな僕の心情を悟ってか特に何も反論しなかった。
ラグドウは言う。
「……とにかく、小僧の墓でも作ってやらないとな。嬢ちゃん、手伝ってくれるか?」
「あっ!は、はい!」
ラグドウさんとクリスが作業している間、僕は無意識のうちにマウイの亡骸を抱きしめていた。
僕を庇ったマウイはどんな思いだったんだろうか?
たったの二、三日の付き合いだったとはいえ、マウイは僕を実の兄のように慕い、僕も実の弟のように可愛がっていた。これからだって時だった。それなのに……。
「クレフ……いいか?」
「はい……」
ラグドウさんは丁寧に僕からマウイを引き離す。
マウイの顔は笑っていた。
何かをやり遂げたような、そんな達成感がにじみ出た笑顔だった。
今の僕にはその笑顔が苦痛に見える。
……そんな笑顔もあるんだな。
「僕にやらせてください!」
僕は頭痛が治まっていない状態でも、マウイの亡骸を埋める作業の志願をした。これは僕がやらなきゃいけない。そう思った。
こうしてマウイの墓は完成し、三人で黙祷を捧げる。
「さて、そろそろ行くぞ」
僕たちは様々な思いを考え切れないまま、その場を後にした……。
最終節へ続く
第4章の中でも、大きな転換点となる節です。
クレフは初めて魔人を倒す力を発揮しました。
しかしその直後、マウイという大切な存在を失うことになります。
守れた命と、守れなかった命。
この出来事はクレフの心に深く刻まれ、これからの戦いにも大きな影響を与えていきます。
そして――
ここでクリスが再び姿を現しました。
止まっていた歯車が、再び動き始めます。
