後ろ向きも、たまには必要
母の余命宣告を受け、うつ状態に陥っていた昨年の5月。ある人から「自分をコントロールできるようにならないと駄目だ」と言われたことがあります。
確かにその通りなのですが、うつ病の本質は「自分をコントロールしたくてもできなくなること」にあります。
健康な時には容易にできていたことが、病によって阻害されてしまうのです。
だから苦しんでいるのです。
それはどの病気でも同じではないでしょうか。
たとえば、ぎっくり腰になれば起き上がることすらままなりませんし、食あたりで激しい下痢を起こせば、排泄を自力で制御するのは困難です。
うつ病で感情や行動のコントロールが効かなくなるのも、それらと同じ「病気による不可抗力」なのです。

それにもかかわらず、未経験者からの「自分を律せよ」というアドバイスを真に受けて無理をすれば、症状をさらに悪化させかねません。
うつ状態特有の自己評価の低さも相まって、思うようにいかない自分を過剰に責め、自己肯定感をますます削り取ってしまうからです。
最も大切なのは、これ以上悪化させないことです。
重症化すれば、回復に何年も要したり、最悪の場合、慢性化して一生付き合わざるを得なくなったりする恐れもあります。
そうなれば、それこそ本当に自分をコントロールする術を失ってしまいます。
うつ病を悪化させないためには、うまくコントロールできない自分を責めるよりも、「今のこの状態も、今後の自分にとってプラスになるきっかけを与えてくれるかもしれない」と発想を転換して受けとめるほうが効果的です。
前向きに考えられず、後ろ向きな考えが次々にわいてくるなら、後ろ向きになることのメリットを探してみるのも手です。
うつの時は、苦しくてこれ以上走り続けることができず、体や心が悲鳴をあげ、休息を求めている状態です。
その時に後ろ向き(内省的)になることがなぜ必要なのか、車にたとえて考えてみましょう。
運転に疲れて休憩をとるために駐車場へバックで駐車する際、後方を確認することは不可欠です。

走行中でも、車線変更や右左折をする際、後方をしっかり確認する必要があります。
日常生活においても、時には人生を振り返ってみることは有益です。
もしそれで、うつ病になった理由が「自分の生き方」にあると見えてきたら、本当にやりたいことは何か、自分を幸福にする生き方は何かを考えてみましょう。
そうすることで、本当に進むべき道が見えてくれば、後ろ向きだと思っていたことが、新しい道に進むために必要なことであったと、後になって振り返った時に思えるはずです。
うつ病で休んでいるときは、まさにそのチャンスです。
前に進むだけが能ではないのです。
初めての目的地に行くには、時には迷って戻ってみたり、右折をしたり、左折をしたりするものです。
目的地までの道は、直線の一本道ではないはずです。
前に進むことだけにこだわっていたら、むしろ目的地から大きく外れ、気がついたら、とんでもない場所に来ていたということになりかねません。

迷うことや休むことは、時には必要なのです。
辛くなったら休む。泣きたいときには泣いて、気分をすっきりさせる。
無理をしていつも前向きな自分を演じ、ひたすら走り続ける人よりも、立ち止まって後ろ向きになる自分を許せる人のほうが、本当は自分をコントロールできているのではないでしょうか。

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