高度経済成長の力になった昭和の非常識
今回は、2025年9月8日にNHKで放送された『映像の世紀 バタフライエフェクト』について語ります。
その回のタイトルは「シリーズ昭和百年(3)高度成長 やがて悲しき奇跡かな」
高度成長の時代を人々はどう生き、それがもたらした問題を当時の映像とともに振り返っていました。
私がこの番組に興味をもったのは、父母の青春の頃の日本の様子が見られると思ったからです。
映像で見ると、教科書から得る知識とは違い、日本が高度成長ができた理由がよくわかりました。
まず、働き方が尋常でないのです。
ブラック企業なんて言葉が吹っ飛ぶくらいの、働きぶり。
高度経済成長の頃の流行語に「猛烈社員」というのがありましたが、映像で見ると想像以上にすごい。
深夜の1時に会議をする映像が流れ、わずかな睡眠時間で必死に働いていました。
そのうえ上司が厳しい。
「やる気のないものは去れ」と檄を飛ばし、まるで軍隊のよう。
おそらくパワハラは日常茶飯事。平和な時代に育った今の私たちには耐えられない職場環境です。
考えてみれば、昭和30年代は戦争が終わって10年しか経っていません。
つまり日本経済を担っていたサラリーマンの大半は、兵隊であった人たちなのです。
戦争は終わったけれども、戦場は職場に変わっただけ。
職場でも軍隊生活と同様に鬼軍曹がいて、軍隊式のマネジメントで「戦争で負けても、経済で勝つぞ!」をスローガンに統率されていたのです。
これに多くの人がついていかれたのも、軍隊で鍛え上げられていたからだと思います。
その頃の職場は男社会で、女性が活躍できる環境ではありませんでした。
しかしドアが閉まらないほど電車に押し込まれて通勤し、ろくに睡眠をとれず、休みもほとんどとらず、がむしゃらに働く真似は女性には無理です。
これで男女平等であれば、むしろ女性を不幸にしてしまいます。
そうなるのを防ぎ、妻子を守るために自分が犠牲になる覚悟で男性は歯を食いしばって働いていたのだと思います。
昭和50年以前の男性は60代で亡くなるのが普通でしたが、この働きぶりを見れば長生きができるわけがないと納得できました。
その当時の女性の役目は、次の戦士となる子どもを優秀な人材に育てることでした。
夫は家庭を犠牲にして働いているので、家事も子育ても女性が引き受けざるを得なかったのです。
それに家電用品も今のように充実していなかったので、何をするにも手作業。家事は片手間でできるものではありませんでした。
子供が多く、家事に育児に大忙しで、専業主婦でないとこなせなかったと思います。
次の戦士を育てるために、進学塾もスパルタ式でした。
冒頭の映像では、海軍出身の塾長が成績の悪い生徒を竹刀で叩く光景が流されていました。
今の時代にそんなことをしたら「体罰だ」と炎上してしまうでしょう。
男性は会社の発展のために猛烈に働き、女性は夫を支え、次の戦士を育てる。
全体主義的に国民一丸となって日本株式会社のために命を懸けて働けば、経済成長をしないわけがありません。
しかも焼け野原からのスタート。右肩上がりに急成長をするはずです。
人口ボーナス(生産年齢人口の比率が従属人口《子供と高齢者》の比率に対して高くなることで、経済成長を後押しする現象)であったことも、高度経済成長ができた要因にあげていましたが、これも戦争が関係しているでしょう。
体力のない高齢者が厳しい戦中戦後を生き抜くのは難しかったと考えられるからです。
幸運もありました。戦争特需です。
朝鮮戦争の勃発によって、アメリカ軍からの日本国内の各種企業に対する発注が急増。 そのおかげで、日本経済は戦後不況から脱することができたのです。
日本が世界の工場になれたのも、日本が大国を相手に戦争ができる能力と技術があったからです。
その地力を土台に、安い賃金で会社に滅私奉公し、戦時中の兵隊と同様に命がけで働けば、他国が追いつけるわけがありません。
努力の成果が目に見えて会社や国が発展し、給料があがっていくのも、ハードワークに耐えられる張り合いになったでしょう。
こうして昭和30年から18年間、日本は毎年10%近い成長を続けましたが、様々な問題も引き起こしてしまいました。
たとえば、環境問題です。
家庭や職場から汚水が川に垂れ流し、ごみのポイ捨ても当たり前なので道路はゴミだらけ。
私たちは観光にくる中国人のマナーの悪さに眉をひそめていますが(中国では道路にゴミを片づけてくれる清掃員がいるので、ごみのポイ捨てをしても問題ないそうです)、かつては私たちもそうであったのです。
長時間勤務の常態化も問題でした。
劣悪で過酷な勤務に耐えられず、蒸発する人も多くいたそうです。
家庭を犠牲にしたので、様々な家庭問題も生じました。
子供たちは仕事に家庭に大変な大人を見て、自分はこんな大人になりたくないと反発したり、受験地獄が原因で家庭や学校が荒れたりしました。
経済を最優先にしたことにより、人命も軽視され、たとえば東京五輪の突貫工事で命を落とす作業員が多く出てしまいました。
現代は過去の失敗を反省し、職場も環境対策も教育も改善されています。
しかしその改善による新たな問題も発生し、解決に苦しんでいます。
例えば、鬼軍曹や猛烈社員がいなくなった代わりに、日本の競争力が低下してしまったこと。
汚水やばい煙を巻き散らかす公害は少なくなったけれど、地球温暖化が進み、環境危機におびえていること。
健康寿命は延びているけれど、少子化が進んで、人口減少に歯止めが利かなくなっていること。
物価上昇に収入増が追いつかず、生活が苦しくなっていること。
今の私たちの悪戦苦闘も、何十年後かメディアで「映像の世紀」のような番組で振り返られるかもしれません。
どのような知恵を使ってこの困難を乗り越えられているか。それとも暗い時代へ突き進む序章なのか。
前者の道に進めるよう、歴史に学んで、点でなく線で見る大局的な視点をもって行動する必要がありそうです。
なお、この番組は9月18日(木)午後11時50分から再放送されます。
興味のある方は、ぜひ。
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