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非財務が財務につながらないのは、「短距離走のルール」で「マラソン」を語っているからではないか

— 非財務は“未財務”なのに、なぜ現場ではつながらないのか —

サステナビリティ開示の仕事に関わる中で、ずっと引っかかっていることがあります。

それは、「非財務は将来の財務につながる」と言われながら、その接続が実務ではほとんど見えないこと」です。

CO2排出量、従業員エンゲージメント、人材投資。

どれも重要だと言われる一方で、

・それが売上にどう効くのか  
・コスト削減にどうつながるのか  

を明確に説明できる場面は、正直多くありません。

そして最近、この違和感の背景には、

単なる測定の問題ではなく、“時間軸と開示マインドのズレ”があるのではないかと感じています。


非財務は“未財務”という考え方

私は、過去にUSCPAの試験に合格し、現在はサステナビリティ開示に関わる仕事をしています。

その立場から見ると、非財務情報は単なる補足ではありません。

むしろ、

まだ財務諸表に現れていない“未来の財務”=未財務

と捉える方が実態に近いと思います。

例えば、

・人材投資 → 生産性向上 → 将来の利益増加  
・脱炭素対応 → エネルギーコストの変動 → 将来の収益性への影響  
・サプライチェーン管理 → リスク低減 → キャッシュフローの安定性  

いずれも最終的には財務に影響を与える可能性があります。

ただし、その影響は長い時間軸の中で徐々に顕在化するという特徴があります。


「つながらない」本当の理由は時間軸にある

非財務と財務がつながらない理由として、

・測定が難しい  
・KPIが曖昧  
・組織が分断されている  

といった点がよく挙げられます。

ただ、実務に関わる中で感じるのは、もう一段根本的な問題です。

非財務は、そもそも時間軸が長すぎる。

特に気候変動の領域では、

・2030年  
・2050年  

といった長期目標が前提になります。

一方で、従来の財務開示は、

・年次決算(過去実績)  
・中期経営計画(3〜5年)  

が中心でした。

つまり、

非財務は“長期の未来”を見ているのに、  
財務は“過去〜中期”を見ている


この時間軸の非対称性が、接続の難しさを生んでいると感じています。


営業時代との対比で見えてきたこと

少し個人的な話になりますが、私は以前営業の仕事をしていました。

そのときに重視していたのは、QCD(Quality・Cost・Delivery)です。  

短期で成果が見える指標が中心でした。

・受注できるか  
・利益は出るか  
・納期に間に合うか  

意思決定の軸は、非常にクリアでした。

一方で、サステナビリティという観点は、正直ほとんど意識していませんでした。

今振り返ると、

・営業で見ていたのは「現在〜短期の財務」  
・今扱っているのは「長期の財務(未財務)」  

という違いがあります。

そして気づいたのは、

意思決定の“時間軸”が変わると、合理性の基準そのものが変わるということです。

短期では合理的でも、長期では非合理になる。

その逆もまた然りです。

このズレが、非財務と財務の接続を難しくしている一因ではないかと感じています。


開示マインドのギャップ

さらに重要なのは、  

将来情報に対する開示スタンスの違いです。

これまでの財務開示では、

・実績情報が中心  
・将来情報は限定的  
・不確実性の高い情報は慎重に扱う  

という前提がありました。

一方で、サステナビリティ開示では、

・長期シナリオ  
・将来のリスクと機会  
・投資計画との関係  

といった、不確実性を前提とした情報の開示が求められます。

ここで感じるのは、

企業はこれまで、「説明できる未来」しか語ってこなかったのではないか

という点です。

しかし今求められているのは、

「まだ説明しきれない未来」を、それでも説明することだと思います。

正直、めちゃ難易度の高い仕事だと思います。


サステナビリティ開示基準が求めているもの

こうした「未来を語る力」が今、制度としても求められ始めています。

その中心にあるのが、世界共通のルールを作るISSB(国際サステナビリティ基準審議会)と、

それを踏まえて日本版のルールを策定するSSBJ(サステナビリティ基準委員会)です。

ざっくり言えば、「世界共通の教科書」と、その「日本版」が整備され、

サステナビリティを財務と同じ熱量で語ることが、企業の公的な義務になりつつあるのです。

こうした中、日本ではサステナビリティ開示基準がすでに公表されており、  

プライム市場上場企業を中心に対応準備が進められています。

SSBJ基準は、国際的な基準であるISSB(IFRS S1・S2)との整合を前提としており、  

投資家向けの情報開示フレームワークとして設計されています。

その中核にあるのが、

財務的重要性(financial materiality)

という考え方です。

これは、

サステナビリティに関するリスクや機会が、企業価値(enterprise value)に影響を与えるかどうか

という観点で情報を開示するというものです。

少し噛み砕くと、

これまで「やりがい」や「環境貢献」として語られてきたものを、 「企業価値にどう影響するか」という言葉で説明することが求められている

とも言えます。

さらにSSBJが求めているのは、

・将来キャッシュフローへの影響  
・財政状態や業績への影響  
・戦略・投資計画との整合性  

といった、財務との接続を前提とした説明です。


理想と現実のズレ

ここまでを整理すると、

・理想:非財務は将来の財務に影響するため開示すべき  
・現実:長期性・不確実性・組織要因により接続が難しい  

という構造になります。

そしてこのズレは、

単なるスキルやデータの問題ではなく、

時間軸・意思決定・開示マインドの構造的な違いに起因していると感じています。


私なりの仮説

このギャップをどう埋めるか。

現時点での私の考えは、少しシンプルです。

「完璧に説明できなくても、つなごうとすること自体に意味がある」

非財務と財務の関係は、本質的に不確実です。  

だからこそ、

・精緻なモデルを待つのではなく  
・仮説でもいいので因果関係を示す  
・見えてきた結果を経営に活かす
・見えてきた結果を基に開示の質を向上させる

ことが重要ではないかと考えています。

そして、具体的に何から始めるか。

一つのシンプルな方法として、

非財務KPI(先行指標)と財務数値(遅行指標)を並べてみる

というアプローチがあります。

例えば、

・離職率(先行) → 採用コスト(遅行)  
・エネルギー使用量(先行) → エネルギーコスト(遅行)  

のように、完全でなくてもいいので「つながりの仮説」を可視化してみる。

この“小さな接続”の積み重ねが、やがて大きな理解につながるのではないかと感じています。

もう一歩踏み込むと、

非財務と財務をつなぐとは、「未来の意思決定を現在に引き寄せること」なのではないか

とも思っています。


まとめ


非財務は、確かに“未財務”です。  

将来、企業価値に影響を与える可能性を持っています。

ただし、その接続は、

・長い時間軸  
・不確実性  
・開示マインドの違い  

によって容易ではありません。

だからこそ今求められているのは、

非財務と財務を、長い時間軸でつなぐ力だと思います。

最後に一言でまとめるなら、

「非財務は未来の財務だが、未来すぎて、責任を持ちづらく、開示の言語が確立されていない」

この違和感に向き合うこと自体が、これからの実務の本質なのだと感じています。

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