(短編小説)人の上には立てますか?⑥
「おはよーございます」
始業1時間ほど前だ。
言ってみたところで、
ほとんど誰も来ていない。
自分の席に向かう足取りが、
迷わなくなったのは最近の事で。
少し前まで条件反射で、
以前の席に足が向いていた。
かつての上司が座ってた席につく。
ココが席になって、1ヶ月。
ようやく少し慣れてはきたが、
今だに少し落ち着かない。
一応、代々管理職用の席だ。
イスには肘掛けが付いているが、
ほとんど活用していない。
落ち着いて深く腰掛けた事、
それすらほとんどない気がする。
姿勢はいつも、少し前のめりで。
周囲の事が気になって仕方がない。
「この余裕のなさが、
俺のダメなとこだよなぁ、、」
誰もいない席で、一人つぶやく。
まぁそう言いながら、
缶コーヒーを飲んでるんだから、
以前よりは余裕あると思うんだけど。
そう言えば退任した上司は、
「この席で、朝はのんびり新聞でも読む」
それが理想だと、言ってた事がある。
「いや、仕事して下さい」
と、心の中だけで反論したものだが。
管理職が誰よりも早く来て、
雑務に励んでいてはいけない気はする。
思えば新井が入社した頃のこの席の主は、
始業寸前に出社してくると、
長い時は1時間、ずっと新聞を読んでいた。
「会社って、そんなんでいいの?」
社会人になりたてだった当時の新井は、
正直その姿が好きではなかった。
「何か仕事すればいいのに」
そう反感を持ったものである。
もちろん、心の中だけでだが。
思えば当時から「この席の主」が、
会社で新井のストレスの対象だった。
入社から20年以上、主は何人か変わったが。
そのほとんどに不満をもっていた。
その席に、今自分がいる事。
それが、不思議でしょうがない。
今は自分が、他人のストレス対象なのだろうか?
そうならないよう努めるべきか。
上司だからストレスでいいのか、、、
「部長、おはよーございます」
そんなこんなを考えてると、
あっという間に時間は過ぎて、
始業時間になっていた。
残っていた缶コーヒーを慌てて飲み干す。
やっぱり、自分には余裕がない。
「何かを考える時間」
会社にいると「そーいう時間」
意識して作らないと、案外ない。
それを思えば若い頃嫌いだった、
「朝イチから新聞を読んでる行為」
あれも「そーいう時間」だったのかもしれない。
「立場変われば、意見異なる」
その程度の事は、わきまえてたつもりだったが。
本当に「つもり」だった気がする。
そう思うと、反感を持ってた当時の偉い人達に、
頭を下げたい気持ちになっていた。
まぁ、買い被りなのかもしれないけれど、、、
筆者の日々の会社員生活について。
事実ベースで創作を加えて、書いております。
過去の自伝小説の延長線上の話ではありますが、
登場する人物名・団体等は一切存在いたしません。
(登場人物)
・新井 ・・・ 筆者の分身(総務部長 40代)
・森野 ・・・ 同じ部の同僚(社歴・数ヶ月)
・
・
・
日中も、新井が落ち着いて座ってる事は少ない。
何かを思い付いては、立ち上がり。
気になる事を見つけては、立ち上がる。
同僚達の方が、落ち着いてるくらいだ。
今も腰を浮かせたその瞬間、
郵便配達の姿が目に止まった。
どーせ立ち上がったのだからと、
ついでに郵便を受け取りに行く。
大した事ではないのだが、、、
「すいません、部長!
動かせてしまいまして、、」
自分の部で一番社歴の浅い森野さん。
郵便を渡すと、開口一番このセリフだ。
この子は、本当に良く分かっている。
自分がこの子の位置にいた時、
このセリフが言えただろうか?
自分でなくても出来る事を、
自分が率先してやってはいけない。
人に任せて、自分は別の事をする。
そうしないと、
いつまでたっても、今より良くなる事はない。
今まで自分がやってた事を人に任せて、
自分は「今まで出来てなかった事」
コレをやらないといけない。
「分かっている同僚」の言葉に励まされ、
イスにちょっと深く腰掛けてみる。
そうしていると、単純なもので。
落ち着きなく立ち上がる事、
減らせそうな気がしてくる。
けど、そう思っていると。
「部長、この伝票誤字があるんですけど。
私が直しといても良いですか?」
何もかも、確認を求めてくる同僚。
一方では、「パソコンの入替作業をする」と
何日も前から伝えているにも関わらず、
パソコンの席から動かず、
ずっと「何か」やってる別の同僚。
共に社歴は長い人達だ。
正直、自分で考えて動いて欲しい。
それとも、そう言う事すらも。
自分が「そうなるように」動かないと
いけないのだろうか、、、
深く腰掛けたばかりのイスから立ち上がり、
いつものように、せかせか動く。
やっぱり、自分は小心者だ。
人に任せて、じっと座っていられない。
「部長、こっちの設定は私がやりましょうか?」
そこまで察してくれているのか?
相変わらず自分で動く、森野さん。
今は1人でやらなくて良いだけでありがたい。
いつか、このイスにゆっくり腰掛けて。
考え事に集中したい。
そう思うと退任した上司が言っていた、
「この席で、朝はのんびり新聞でも読む」
それが理想と言っていたのは、
理不尽な話ではなかったのかもしれない。
「部長、プリンタ印刷してくれませんw」
せかせか動いてる方が、自分らしい気はする。
イスに深く腰掛けて、のんびり座ってる。
自分のその姿は、正直想像できなかった。
けど、そうしないといけないんだろうな。
その思いは、頭の中にありながら。
中々、形にはならないのである。。。
次回に続く(多分)
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