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事務方クエスト(15)~人の見極め、できますか?

「・・・事務員を募集するんですか?」

「えぇ、ヒロトの骨折も長引いてるし、
 リカさんも復帰の目途が立たないし。
 猫の手も借りたいくらいなもんでね」

戦士長に呼び出され出向いた、戦士団詰所。
事務仕事がまわっていない戦士団は、
新人募集に踏み切ることを決めたようだ。

「でも、新人が入ったところで、
 教える人がいないんじゃないですか?」

「そう、それなんだけどね。
 無事新人が入ったら教育の方は、
 クリスさんにもご協力お願いしたいね」

(こっちもわりと、忙しいんだけどな)

今の戦士団に、新人を教育できる人がいない。
その事情は分かるんだけど。
クリスにしてみても3人の部下達は、
能力はともかくとしても、
みな経験は1年前後の新人なのだ。
他所の心配をする余裕などない、のだが・・・

(ハルカさんを紹介できたら即戦力なんだけど、
 ・・・無理だろうしなぁ。
 かと言って、ターラさんを返す!とか言ったら、
 怒るだろうなぁ、戦士長もターラさんも・・・)

無能のレッテルを貼られて戦士団を退職したターラを、
クリスは特別待遇で雇っている。
その事実が戦士団から白い目で見られていることを、
クリスは痛いほど知っていた。
リカが体調を崩した原因にしても、
ターラが大きな要因なのは間違いない。
その負い目がある以上、クリスとしては、
戦士団の頼みを無下には断りにくかった。

「・・・分かりました。
 とりあえず募集をかけてみます。」

(優秀な人が来ればいいですよね。
 多分、ムリだろうけど。)

クリスはそう思ったが、声には出さなかった。
モリノさんの例もある。
『奇跡の人材』が来る可能性だって、
ゼロではないはずなのだ・・・

「賢者様ぁ~
 通信魔法に早速応募が来てますよぉ~」

楽しそうなアイラの声に誘われて、
通信用クリスタルを確認すると、
『事務員応募1名』の文字が浮かんでいた。

性別:男 職業:書士希望
学歴:冒険者学校卒(2年前)
職歴:なし 資格:なし
PR:ただ今、熟考中です

「学校出てから2年間、職歴なし。
 資格なし、自己PR・・・熟考中!?」

「中々にハードな経歴ですね。
 この時点で自己PRができないとか、
 もう『不採用』でいいんじゃないですか?」

モリノの意見は冷たいようだが、的を射ている。
正直クリスも、この応募者に何の魅力も感じない。

「まぁでも、他の募集者も今のとこいないし。
 とりあえず履歴書と、熟考中のPRの書類、
 そのくらいは送らせてみようか」

「送ってきたら、判断しなくちゃいけませんよ?
 ムダなタスクは削った方がいいと思いますが」

「・・・うん、その通りなんだろうけどね。
 でも、せっかくの応募だし。
 熟考中のPRとやらも、見たい気もするし」

クリスは『書類の送付をお願いします』と、
手早く返信した。
モリノはまだ少し不満そうだったが、
クリスが判断した以上、重ねて反論したりはしない。

「今からなら、3日後くらいには届くだろうし。
 急ぎの募集ではあるしね」

【・・・1週間後】

「賢者様ぁ、書類届きませんねぇ?」

『3日もあれば来る』そう思っていた書類は、
1週間たっても届かなかった。

「他の仕事が決まったか。
 それとも、働く気がなくなったか。
 そんなとこじゃないですか?」

最初からこの応募者に期待をしてない、
モリノの評価は辛辣だ。
本当に他に決まったのなら、
通信魔法文の1つも送ってくればいい。
こちらから、様子を伺ってみようか?

そう思っていた時、通信クリスタルが輝いた。

「あっ、コレ応募してきた子からですよ!」

「このタイミングで来るって、
 ホントに他所に決まったのかもね」

担当者様へ
想定外の体調不良で書類の作成ができません。
もうしばらくお待ちください。

「想定外の体調不良・・・?」

「体調不良は想定外なものです!
 そもそも書類なんて、
 応募した時点で用意しとくのが常識です。
 もう『不採用』でいいんじゃないですか?」

モリノは完全に呆れているようだ。
確かに、その通りなんだけど。

「まぁでも、他の応募者もきてないし。
 厄介な呪いとかにかかってる可能性も、
 ゼロではないし・・・」

モリノは、何も反論しなかった。

【さらに1週間後】

「賢者様、ガチで来ませんねぇ」

さすがにクリスも、イライラしてきた。

【応募者1名】

その時、またも通信クリスタルが輝いた。
『あの子か?』そう思った通信文は、
別の新たな応募者だった。

性別:女 職業:書士
職歴:神殿で事務経験あり
資格:書士 治療師
PR:事務・後方支援何でもできます。

「言うことない経歴ですね。
 この子を採用して最初の子は『不採用』
 それでいいんじゃないですか?」

「まぁでも、この子の書類待つんなら、
 もう少し時間はあるわけだし。
 面接するなら同時にしてもいいしね。」

「賢者様、まだ待つんですかぁ?
 アイラもさすがに、この子はナシだと思います!」

それは俺も分かってる。
分かってはいるんだけど・・・

「最初の子には、他の応募者も来たから、
 期限を切って『この日までには送って』で、
 通信文送ってみるよ。
 それで来なけりゃ、それまでだけど」

モリノだけでなく、
アイラまでもが怪訝な顔になった。
彼女たちの言い分は、もっともだ。
もっともなんだけど。

「戦士長も、男の新人欲しがってるし。
 とにかく2人の書類が揃ったら面接するから、
 準備の方よろしくね。
 俺は戦士長に、そう報告して来るから!」

そう言うクリスを見送って、
モリノとアイラは、顔を見合わせた。

「賢者様、なんでこの子にこだわるんですかねぇ?
 地雷臭、マシマシなのにぃ」

「賢者様には、何かお考えがあるのかもだけど。
 今回は想像もつかないですね」

「考えなんて、あるんですかねぇ?
 でも私は『この子』面白そうだから、
 雇って欲しいですけどねぇ~♪」

2人の話に割って入ってきたのは、
珍しく朝から出勤しているターラだ。
最初から、ずっと楽しそうに話を聞いていたのだ。

(・・・アナタは楽しければ、
 何でもいいんでしょうけどね!)

モリノとアイラは、ターラの言葉には答えなかった。

2人の応募者の書類が揃ったのは、これから3日後。
後から応募してきた女の子が2日後に届き、
最初の子の書類が届いたのは、その1日後だった。

    ・
    ・
    ・

「事務仕事でも負傷者の手当てでも、
 何でもやります!
 明日からでも働けますので、
 ぜひ、よろしくお願いします!」

面接当日。
最初に面接したのは、後から応募してきた女の子。
資格、経歴、やる気に受け答え。
どれをとっても、非の打ちどころがない。

「アイラはあの子、好印象です。
 絶対採用すべきって思いましたっ!」

「でも、アイラさん。
 この子の能力、私達より断然事務方向きですよ。
 この子がウチに来て、私達が戦士団行き。
 そんな未来もありそうですけど。」

モリノの冷静な分析に、アイラの笑顔が凍り付く。

「やっぱりこの子、まだ若すぎですねっ。
 考えの甘さが、顔に滲み出てますですっ!」

「いや、君達を戦士団に回すつもりないから。
 落ち着いてくれる?」

実際、クリスにはそんな気は更々ない。
もちろん、上からの命令が来れば、
そんなわけにもいかないが。

「さて、じゃぁ2人目の男の子。
 アイラさん、呼んできてくれる?」

「ホントに面接するんですか?
 すでに消化試合じゃないですか!」

「やらないわけにはいかないだろ。
 会ってみたら『奇跡の人材』
 その可能性も捨てきれないし」

自分でそう言っておきながら、
『それはないだろうな』とは、
クリスも思っていた。
だが、クリスはこの子が気になるのだ。
どれだけみんなに、怪訝に思われようと。

    ・
    ・
    ・

「職歴が何もなしになってるけど、
 冒険者学校出てからは何してたの?」

「色んなとこで、不採用になってました」

「その間に仕事はできたと思うけど。
 バイトとかはしなかった?」

「はい、特に何も」

「書類が届くのに随分時間がかかったけど、
 何か悪い持病でもあるのかな?」

「何か新しいこと始めようとすると、
 昔から激しい頭痛に襲われるんです。
 今回もそれがひどくて」

(聞けば聞くほど、採用の線がなくなるなぁ)

プラス要素が全く出てこない。
本人はこれで採用されようと、
本気で思っているんだろうか?
後ろで聞いてるアイラとモリノは、
『まだ続けるんですか』
そう表情で訴えかけてくる。

(最後、最後にコレだけ聞いてみよう)

「もし『採用』ってことになったら、
 いつから働けるかな?」

「それは・・・2週間、
 いや、1ヶ月もらえれば。
 万全の状態に整えれるかな、と」

(・・・ダメだ)
クリスは心の中で、今度こそ諦めた。

「1ヶ月で万全の状態って、
 一体何の準備をするのかな?」

「それは・・・心の準備とか、
 そのくらい時間が欲しいかなって」

「・・・分かりました。
 結果は後日、通信魔法を送りますので。
 本日はお疲れ様でした」

     ・
     ・
     ・

「なんであそこまで、
 あの子にチャンスをあげたんですか。
 書類の時点で、お分かりでしたでしょ?」

肩を落として帰る、応募者の背中を見送りながら、
モリノが問いかけてきた。

「何かあの子の経歴見てたらさ、
 自分の若い頃を思い出しちゃって、さ。
 ワンチャン、やる気出してくれないかなって、
 思っちゃったんだよねぇ」

「賢者様の若い頃って・・・
 確か、最初は戦士見習いだったんですよね?」

「うん、ホントにもう役立たずでさ。
 剣なんて持ってるだけで重かったし、
 馬にもまともに乗れなくてさ・・・」

もう、20年以上も前になるのか。
クリスは、あの応募者くらいの年齢だった頃、
その時のことを思い出していた・・・

【次回予告】

賢者クリスが思いおこす、冒険者協会新人時代。
仕事が見つからず『やるしかない』と挑んだ、
戦士見習いの仕事。
剣をふれない、馬にも乗れない。
前代未聞の役立たず戦士見習いは、
果たして、冒険者協会の戦力になれるのか?
次回・過去編 「新人戦士見習い・クリス」
に、こうご期待!

次回から20数年前の『過去編』です

【第16話に続く】(執筆中)

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くりす 日々の色々を面白おかしく書く事で、日常を楽しく色付けできればと思ってます。書く事はもとより好きなので「毎日更新」頑張ります。よろしければ応援お願いします!