AIエージェント時代のUX論「Agentic UX」について考えてみた
この記事は「Goodpatch Design Advent Calendar 2025」の9日目の記事として執筆しました。25日に向けて他のグッドパッチメンバーの記事も投稿されていくので、ぜひ読んでいただけたら嬉しいです。
グッドパッチのUXデザイナーの黒子です。最近はデザインとテクノロジーの間で活動しています。
このnoteでは、自分が関心があるAIのテーマであるAIエージェント時代のUX設計論「Agentic UX」について触れたいと思います。これから本格化するであろうと見越して、思考ログとしてAgentic UXについて自分の理解をまとめていきます。
対象の読者:この記事はエンジニアリングについては深く触れていません。UXデザイナーやUIデザイナーを対象に書いています。
Agentic UXが必要になっている背景
Agentic UXについて考えるために、まずはAIエージェントによる環境の変化について考えてみます。
2025年は、ユーザーからの入力をもとに自律的にタスクの意図を解釈し、タスクを設計し、ツールを使いながら実行することができるAIエージェントを取り入れたツールやサービスが多く登場し、エンドユーザーにも行き渡り始めました。特に開発環境では、CursorやClaude CodeなどのAIエージェントがない状態には戻れないほどの環境の変化がありました。
同時に、これらのAIエージェントツールを使いこなすためにはたくさんの試行錯誤も行われています。
既存のソフトウェアではボタンを押せば期待通りの反応が得られる一方で、AIエージェントツールでは、コンテキストの状況や依頼の仕方によって生成される回答が異なります。そのため、例えばClaude Codeでは、CLAUDE.mdのようなAIエージェントの管理するルールの設計やSub AgentsとしてAIエージェントごとに役割・振る舞いをもたせて、自分の意図をスムーズに通すための事前準備が重要になります。
このようなAIエージェントを前提としたツール・サービスで重要な概念が「Agentic UX」です。
Agentic UXとはなにか?
Agentic UXでは、これまでのデジタルプロダクトのUXデザインようなユーザーの体験や行動、価値観だけではなく、AIエージェントの役割、判断プロセス、行動範囲、環境、データスキーマ、ワークフロー、そして人との信頼の作り方(≒期待値)などがデザインの対象に含まれてきます。
誤解を恐れずに言えば、Agentic UXは「ユーザーがインターフェイスを操作する体験」のデザインから、「ユーザーがAIエージェントと共創してゴールを達成するまでの体験」のデザインのシフトとも言えます。

これらの違いを踏まえてAgentic UXの定義は以下のようにまとめることができます。
AIエージェントの「振る舞い」と「環境」を設計し、ユーザーの意図を受け取ったAIエージェントのゴール達成をスムーズにするための体験の設計
ただこの定義もまだ発展途上なので変わると思います。「Agentic UX」を初めて使ったとされるイギリスのデザイナーKwame Nyanning氏も模索しながらこの言葉を定義しているようです。(もしAgentic UXの起源を知っている方がいたら教えて下さい)

AIエージェントのデザインの観点
では、Agentic UXを前提として、AIをサービスに組み入れる際、どのような観点で設計に取り組むべきでしょうか。デザイナーAlex Slakas氏は記事「Agentic UX is the new black」の中で、これからのデザイナーは「スクリーン(画面)」ではなく、以下の3つの要素を設計する必要があると説明しています。少し解釈も加えて説明します。
振る舞いの設計 (Behaviors): エージェントがどのように思考し、判断し、行動するかというロジックを設計。単なる入出力だけでなく、エージェントの「推論プロセス」や「性格」を含めた振る舞いそのものが、ユーザー体験の中核を担う。
境界の設計 (Boundaries): エージェントが自律的に行ってよい範囲と、行ってはいけない範囲(ガードレール)の定義。エージェントの権限を明確にし、予期せぬ暴走や誤作動を防ぐための「活動の枠組み」を作る。
信頼の設計 (Trust Frameworks): ユーザーがエージェントを信頼してタスクを任せられるための仕組みの設計。エージェントの思考過程を透明化したり、適切なタイミングで人間が介入できる確認フローを設けたりすることで、人とエージェントの間に信頼関係を構築します。
これらの3つの概念がAgentic UXを設計する際に考慮が必要になります。
また、特に「信頼の設計」で求められる考え方が「Human-in-the-Loop」です。
従来、HITLは機械学習の精度向上のために人間がデータ修正を行うプロセスを指すことが多かった概念ですが、Agentic UXにおいては「AIと人間が協働するための関係性のデザイン」としての役割もあります。
今後、意識の有無にかかわらず複数のエージェント(場合によっては数十〜数千)をユーザーが扱うようになったり、Agent to Agent(A2A)のようにAgent同士でタスクが実行されるようになったりすると、人が認知できる範囲外でのタスクの実行が増えてきます。その時に、人がコントロールやオーナーシップを失わないようにするために、Human-in-the-Loopの設計が必要になります。
すでにHuman-on-the-LoopやAI-in-the-LoopといったAIと人の関わり方を段階的に整理する概念もありますが、今後Agentic UXを前提としての見直しが行われるかもしれません。
今後、デザイナーはこれらの観点を踏まえて、AIエージェントサービスを設計する必要があると思います。
Agentic UXで求められる「意図」のデザイン
では次に、よりUXの観点にフォーカスしてAgentic UXのデザインについて考えてみます。
Agentic UXにおいて重要な概念になるのが、ユーザーとAIをつなぐインターフェイスである「意図(Intent)」のデザインです。
Agentic UXの世界観では、ユーザーはボタンやテキスト入力をして操作するインタラクションから、AIエージェントに「意図(Intent)」を伝え、自律的に計画・実行させるリクエストへとシフトしています。つまり、「何をするか(How)」を入力する代わりに、AIエージェントに情報や入力を渡し「何をしたいか(What)」を伝えることがより重要になります。
ここで、Amazon AWSのデザイナーZhenni Wu氏の説明がわかりやすいので紹介します。
これまでのインターフェイスのデザインでは、情報設計を行い、階層的に目的のオブジェクトにたどり着けるようにするデザインが主流でしたが、Agenticなデザインでは、ユーザーの文脈を汲み取り、直接的に目的にたどり着くインターフェイスの設計が必要になります。

このようにユーザー自身がゴールに向かって動くのではなく、ゴールをAIエージェントに伝えて、処理はAIエージェントが自律的に実行する。そのような世界観の設計になります。これがユーザーの意図を起点としたAgentic UXのデザインのポイントの一つになります。
ただし、ここでやっかいなことはユーザーの入力やリクエストが曖昧なことです。例えば、「この文字起こしを要約しておいて」と依頼をしたとしても、要約の仕方や重点ポイントはリクエスト(プロンプト)から抜けてしまっています。
RAGを構築した際に、検索品質を上げるために検索クエリを補強する「クエリ拡張」というテクニックがありますが、そのようにユーザーの意図を汲み取り解像度を高めるために、関連情報をインプットとしたり、ユーザーのコンテキストを活用したりするためのシステムのデザインも必要になります。
ユーザーの行動や入力から意図を汲み取り、それをAIエージェントに伝えることで、AIエージェントのゴール達成をスムーズにするための体験やAIエージェントを含めたエコシステムやインターフェイスの設計がAgentic UXで重要になってきます。
Agentic UXを支える4つのデザイン観点
Agentic UXを実現するためには、「意図」のデザインだけでなく、それを支える「環境」「信頼」「制御」の観点も必要になります。これら4つのデザイン観点についてもまとめてみます。
1. 意図(Intent)
前述の通り、ユーザーの曖昧なゴールをシステムが理解可能な形に翻訳し、構造化するプロセスの設計です。これがユーザーとAIエージェントをつなぐAgentic UXの基礎になります。
2. 環境(Environment)
意図をスムーズに実現するためには、AIエージェントが活動しやすい「環境」を整えること、もしくは環境の要件を定義することにデザイナーも関わるようになります。
例えば、ClaudeのSkillsやCLAUDE.md、CursorのRulesやCommandsのように、エージェントが特定のタスクを実行するための「道具」を定義をすることで、ツール操作を通じてタスクを再現性を持って正確に実行できるようになります。
また、AIエージェントが複数いる場合はオーケストレーション(統合)による環境構築も重要になります。ClaudeのSub Agentsの概念のように、タスクやドメインに応じて責務を分離した複数のエージェントを連携させていきます。各AIエージェントの役割を明確にするために、前述したガードレールの整備など「境界の設計」の観点が重要になります。

また、AIエージェントのタスクの実行をしやすくするために、ワークフローの構築やデータを受け渡すためにスキーマ(データの型)などの設計も必要になります。
このようにAIエージェントによる実行力を高め、かつコントロールするような「見えないインターフェイス」のデザインが生まれてくると思います。
3. 信頼(Trust)
AIエージェントへの過度な信頼はリスクを伴います。UXデザインのゴールは、AIの能力の限界を正しく理解させ、ユーザーの期待値を適切に調整する「信頼の較正(信頼のキャリブレーション)」にもあります。
そのためには、あえての確認のステップや使いにくさといった「意図的な摩擦」も重要になります。確信度が低い場面では確認ステップを強制するなど、ユーザーに熟慮的な判断を促す設計が求められます。CursorやClaude Codeでコマンドを実行する際の許可などがイメージしやすいかもしれません。
4. 制御(Control)
AIが自律的であればあるほど、人間が実質的な制御能力を持つための「操縦可能性」の確保が求められます。
例えば、メール送信やシステムの設定変更などの「高影響アクション」の直前には必ず人間が承認するステップを設けたり、AIの思考プロセス(Chain of Thought)を可視化してブラックボックス化を防いだりすることなど。AIに任せつつも、人間がいつでもハンドルを握れる状態を担保することが、Agentic UXにおける人の安心感につながります。
Agentic UXを探求していこう
Agentic UXはAIエージェントの発展やサービス開発とともに重要になるトピックだと思います。
AIエージェントをサービスに取り入れ、社会実装を進めていく際には、それを受け入れられるシステム・構造に仕立てて、人との接点を設計することが重要です。
変化が求められる時代ですが、UX/UIデザイナーはAIエージェント時代にも人とシステムの関係性を設計する存在だと思います。領域をデザインに閉じず、ストレッチしながらAgentic UXに取り組んでいきましょう。
Agentic UXやこのような取り組みに興味がある方、XやAI関連のイベントで気軽に話しかけてください。
お付き合いいただきありがとうございました!
