【創作大賞2026応募作品】あと何回、君と息をする #32― 初めての秘密 ―
【創作大賞2026応募作品】
あと何回、君と息をする #32
― 初めての秘密 ―
付き合い始めてから一週間。
葵は毎日少しだけ幸せだった。
朝の「おはよう」。
帰り道。
何気ないメッセージ。
全部が特別に感じる。
でも。
一つだけ問題があった。
誰にも言っていないことだ。
クラスメイトはまだ知らない。
美咲ですら知らない。
正確には。
言うタイミングを逃していた。
昼休み。
教室は今日も騒がしい。
葵は窓際でパンを食べていた。
その時。
美咲が突然言う。
「ねえ」
嫌な予感がした。
「何?」
「最近仲良くない?」
葵の手が止まる。
「誰と」
「颯太」
心臓が跳ねた。
危うくジュースを吹きそうになる。
美咲はニヤニヤしている。
絶対に何か気づいている。
「別に普通だけど」
「ふーん」
全然信じていない顔だった。
そして。
小さく笑う。
「まあ、頑張って」
意味深すぎる。
葵は顔を伏せた。
放課後。
川沿い。
いつものベンチ。
颯太は笑った。
「バレてるじゃん」
「絶対バレてる」
二人は同時にため息をつく。
風が吹く。
川の水面が揺れる。
「言う?」
葵が聞く。
颯太は少し考える。
「まだいいんじゃね」
「そう?」
「もう少しだけ」
少しだけ。
その言葉に安心する。
恋人になった。
嬉しい。
でも。
二人だけの秘密も嫌いじゃなかった。
今だけの特別な時間。
誰も知らない。
二人だけの関係。
夕陽が川を照らす。
颯太が隣で笑う。
葵も笑う。
その時だった。
突然。
颯太が言った。
「なあ」
「ん?」
「手」
意味が分からない。
数秒後。
ようやく理解する。
葵の顔が赤くなる。
「外なんだけど」
「だから?」
平然としている。
ずるい。
本当にずるい。
でも。
葵は少しだけ笑った。
そして。
そっと手を伸ばす。
指先が触れる。
少しだけ震える。
それでも。
温かかった。
夕陽の中。
二人は黙ったまま歩く。
言葉なんてなくてもいい。
今だけは。
この時間がずっと続けばいいと思った。
(第33章へ続く)
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『あと何回、君と息をする』
黒羽KUROHA
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黒羽 -KUROHA-