【創作大賞2026応募作品】あと何回、君と息をする #42― 卒業までの時間 ―
【創作大賞2026応募作品】
あと何回、君と息をする #42
― 卒業までの時間 ―
冬はゆっくり終わろうとしていた。
二月。
冷たい風の中にも、
少しだけ春の匂いが混ざり始めている。
高校生活も残りわずかだった。
卒業。
その言葉が現実味を帯びてくる。
教室の空気もどこか違う。
進学先が決まった人。
引っ越す人。
遠くへ行く人。
それぞれの未来へ向かって歩き始めていた。
放課後。
葵は窓際から校庭を見ていた。
夕陽が差し込んでいる。
この景色もあと少し。
そう思うと少し寂しい。
「何見てんの」
後ろから声。
颯太だった。
「学校」
「毎日見てるだろ」
「そうだけど」
葵は笑う。
毎日見ていた景色。
でも。
もうすぐ終わる。
そう思うと全部が特別に見えた。
二人は校門を出る。
いつもの帰り道。
いつもの川沿い。
冬の夕陽は低い。
川が赤く染まっていた。
ベンチへ座る。
沈黙。
心地いい時間。
やがて。
葵が小さく言う。
「卒業したくないな」
本音だった。
高校生活が好きだった。
友達がいた。
学校があった。
そして。
颯太がいた。
颯太は少し考える。
それから言った。
「俺も」
葵は顔を上げる。
少しだけ驚く。
颯太も同じだった。
「でも」
颯太は空を見る。
「終わるからいいんじゃね」
風が吹く。
川の水面が揺れる。
「終わるから思い出になる」
その言葉に。
葵は少しだけ考える。
確かにそうかもしれない。
永遠に続くものはない。
だから大切なんだ。
だから今を好きになれるんだ。
夕陽が沈む。
空が少しずつ暗くなる。
「なあ」
颯太が言う。
「ん?」
「卒業してもさ」
少し照れ臭そうに笑う。
「隣にいるから」
その一言だった。
葵の胸が熱くなる。
涙が出そうになる。
でも。
今度は悲しい涙じゃない。
未来が楽しみになる涙だった。
「うん」
小さく頷く。
卒業は終わりじゃない。
きっと。
新しい始まりだ。
そう思えた。
二人は並んで夕暮れの道を歩く。
未来へ向かって。
同じ歩幅で。
(第43章へ続く)
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『あと何回、君と息をする』
黒羽KUROHA
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黒羽 -KUROHA-