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tsumurayoko
母子草をむしる | 風まかせ文芸部
蚤の綴、胡瓜草。
ノミノツヅリ、キュウリグサ。
春にはいつも道傍で見かける小さな小さな草花。
蚤の綴は白。胡瓜草は薄い空色。
1mm、2mmほどのその花を見ると、胸のあたりがきゅっとする。あたたかい日、ほほ笑みを天に捧げているようにも見えて。野暮を言ってしまうけれど、健気な姿がとても愛しい。
毎年、春のよろこびをみせてくれていたというのに、わたしはその名を知らなかった。「この小さな白い花」「丸い花びらの小さな青い花」と思っていた。
最近は便利になり、スマホを持っていればさまざま調べられる。
ようやくそれに気づいて、今年は名を知った。
蚤の綴。
胡瓜草。
どちらも由来があって、納得の名前。
覚えていたい。
──でも。
わたしの知っている、あの小さな草花のことだろうか。まだ、この名前にはときめくことができないでいる。あたたかな空気にひかるあの小さな花の姿。その絵を、この言葉が纏っていない。
いつかこの先、結ばれるだろうか。
春の草の名前でいえば、母子草がある。
先端に丸くて黄色い小さな花を固めて咲かせる。
茎や葉は細かな綿毛に包まれていて、白っぽく見える。春の七草の御形。それには詳しくないのだけれど。
いつのことだろう。
わたしは幼かったのか、すでに大人になっていた頃か。その曖昧さが、ずいぶん前のことのように思わせる。
母がこんなことを言った。
「お父さんがね、『母子草』はあるのになんで『父子草』がないんだって、不満そうにいうの」
母はうれしそうだ。
なんだかわたしもうれしい。
父のこの一言に、母とわたしは、それだけで笑った。
庭の母子草をむしりながら、そんなことを思う。
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