一點星 北村透谷
眠りては覺め覺めては眠る秋の床、
結びては消え消えては結ぶ夢の跡。
油や盡きし燈火の見る見る暗に成り行くに、
なかなかに細りは行かぬ胸の思ぞあやしけれ。
罪なしと知れどもにくき枕をば、
かたへに抛(な)げて膝を立つれど、
千々に亂るゝ麻糸の思ひを消さむ由はなし。
今見し夢を繰り回へし、
うらなふ行手の浪高く、
迷ひそめにし戀の港は何所なるらむ。
立出てまどをひらけば
外(と)の方は、
ゆきゝいそがし暴風雨を誘(さそ)ふ雲の足、
あめつちの境もわかで
黒みわたるぞ物凄き。
しばし呆れて眺むれば、
頭(かしら)の上にうすらぐ雲の絶間より、
あらはるゝ心あり氣の星一つ。
たちまちに晴るゝ思ひに憂さも散りぬ。
人は眠り世は靜かなる小夜中に、
音づるゝ君はわが戀ふ人の姿にぞありける。
引き続き秋の詩です。
秋の夜、胸に消えぬ想いを抱いて――
北村透谷の詩「一點星(いってんせい)」です。
眠っては覚め、覚めてはまた眠る。
夢と現実のあわいに漂う心のうちに、一つの星があらわれます。
暗く重い雲の切れ間から射す、その微かな光。
それは、絶望の底にあってもなお、人の心に宿る希望の象徴のようです。
透谷の詩は、孤独と痛みの中にあっても、
決して光を見失わない強さを秘めています。
どうぞ静かな夜に、この詩を感じてみてください。
