三百年後の昔話
むかしむかし 人がまだ地上に暮していた頃
その頃は 時々 地上に冷たい夏がやってき
て 人々は泣いたんじゃと
米ができず 木の花には蜂も来ず 実がなら
ず 泣いたんじゃと
けれど、その後 もっと恐ろしいことが 始まった。
来る年も来る年も、どんどん どんどん暑くなりそれはもう地球が燃えているようじゃった。山火事が 年中起きて 洪水に人々は押し流された。
それでも 愚かな国は戦をやめなかった。
気に入らない国を 燃やし続けた。
気に入らない というだけで。
更に 地球は 燃え続け
百年の後
北極の氷は溶けて 南極大陸に黒い大地が現れた。
アマゾンの森は焼け 湿地は干からび 地上から 森が 林が あっという間に枯れ果て 灼熱は広がることを止めなかった。
人々は 遂に 地上に住めなくなった
1%は 月へ逃れ
多くの民は 地下へ逃れた
少数の技術のある民は 海中へ逃れた
今 みんなが居るこの地下は 始めは ただの洞穴じゃった。多くの民が死んていった。地下に馴染めぬ人々が たまらず地上に出ては 死んでいった。それでも 戦を止めない愚かな国が 地下を焼き払ったこともあった。
けれども やがては その愚かな人々も亡くなり 愚かでない人々もたくさん たくさん 亡くなった。
残った普通の人々が 地下に入り それぞれの国で 地下に村を築き 地下に育つ作物を栽培することに力を注いだ。
少しずつ 少しずつ 民は地下の暮しに慣れていった。
人々が地下に暮すようになって百年が経った頃 勇気ある民が 時々 地上に探検に出かけることもあった。まだ地上のどこかに奇跡のように残された森があるかもしれない、或いは 蘇りし楽園が 泉が、林が あるかもしれないという希望を 捨てきれなかった。そしてそれは 誰の胸にも埋火のようにあった。まだ、聞伝えの記憶が濃く残っていた。水と緑に溢れた国が至る所にあった記憶が。
地上の大部分は 砂地と岩山。熱い風が吹き荒れておった。地下で人々が水を使うために地上はいっそう 乾燥の荒地となった。そして、ひとたび雨が降れば たちまち大洪水になり 炎熱と豪雨はさらにくりかえされて、次第に砂漠が広がった。
月に逃れた人々は 彼らもまた月での暮しをより良いものにする為に懸命に力を注いでいるに違いない。月のことは、もう誰も知らない。
ある時、探検に出たまま帰らぬ人を探しに出ることになった。長い地下生活が続き 居住区は地下へ地下へと伸び、身体は地下に適したものになっておった。地底深くに暮す民は 眼や皮膚が問題じゃった。 地上にでられる時間は限られておるので 地下の浅い場所の民がチームをいくつも作り 順番に送りだし チームを回す作戦をたてた。
そのようにして 繰り返し 繰り返し 何度も地上に出ては探すことを試し続けたけれど、徒労に終わった。探検に出た者が帰ることはなく、それでも、また新たな探検者は現れた。
そうして地底に生きることに人々が疑問さえ持たなくなっていたある日、
それは 起こった。
大地は動き 大噴火が起こり 地下は押し潰され さらなる地下への通路も断たれ、やむなく地上へと吐き出された人々は あちこちの海中に逃れた民に助けを求めた。
始めは 快く受け入れられた。
というのも、その中には地底民の探検者が 放浪の末に助けを求め海中民として暮しておったからじゃ。元地底民は 避難民の世話を懸命にした。
海中民との間をとりもったんじゃ。暫くは 互いに 相手を思い合うことができたが、海中民と地底民の数のバランスに軋みが生まれておった。
やがて争いが起こった。海中の民と地底の民は 考えが違いすぎた。海中のタブーと地底のタブーの衝突が始まりじゃった。ともに もっと もっと もっと良くしたい と考えを進めた結果が さらに違いを生んでおった。
どちらも
限られた空間に棲んできた苦労は同じはずじゃたのに、その苦心や苦労の歳月や心を分かち会えなんだ。
あろうことか、戦が起こった。海中民 対 地底民。 あちこちで人々の間に戦が起こった。
奇襲につぐ奇襲。地底も海中も焼き払われていき 一つ また一つと 心血注いだ苦心の住処が潰されていった。
しかし 全ての場所で争いが起こったわけでは無かった。折り合いをつけ 話し合い 助け合うことができた処も たくさんあったんじゃ。そういう処が 今も残っておるんじゃ。けれども 余りにたくさんの戦があり、人々は それを恐れ
次第に 今在る塊の中で暮していくことを望んだ。
そうして、今 このように離れ離れの小さな塊となり 交信を絶ち 国も無く 極秘の地下 極秘の海中 遠い月 に それぞれ極秘に暮すようになったんじゃ。月の民が 今も居るかはわからんままじゃ。
むかし むかし、人々は 地上に国を築き
共に暮していた時代があったとさ
夢のようじゃ
