NINE
2020年11月、赤坂ACTシアター。
城田優くん主演、咲妃みゆ、すみれ、土井ケイト、屋比久知奈、エリアンナ、春野寿美礼、原田薫、前田美波里。なかなかの実力派豪華キャスト。『NINE』はミュージカルコンサートで"Guido's Song"と"Unusual Way"を聴いたことがあり、確かGleeでもカートが話題にしていたことがあったように記憶していて、なんとなく私の中で「伝説の」ミュージカルと化していた作品。
観てみると、思いのほかダークコメディ的な色合いが強く、大人になりきれない、しょーもない男のグイドが、新作映画の脚本が書けなくてうじうじだらだらぐだぐだしているのを、彼を取り巻く女性たちがそれぞれのやり方で見守ったり、励ましたり、突き放したり。ラストはみんなから見放されるに至って、やっと自分の立ち位置を掴んだグイドに、かろうじて何かが残るのだが、それは何か、というお話に見えた。
グイドはチャップリン以来の天才映画監督と言われており、本人も自分の才能を信じているようで不安を感じる日々となっており、ここに至るまでにネタを出し尽くし行き詰っていた。彼のミューズであるクラウディア(すみれ)からも、前にもやった役はもうやりたくない、違う役をちょうだいと言われて、暗にあなたの映画のキャラクターはワンパターンだと言われているようなものだし、映画評論家のネクロフォラス(エリアンナ)からは今のあなたからは昔のひらめきを感じない、終わってる、と切り捨てられ、プロデューサーのラ・フルール(前田)からは何でもいいからエンターテインメントで観客を喜ばせなさいと叱咤される。
執筆のためにやってきたベネチアに愛人カルラ(土井)が追いかけてきて、妻ルイザ(咲妃)がその場にいるにも関わらず、ホテルの部屋へ電話をかけて誘い出してくる。グイドは女に弱く、彼のインスピレーションはほぼすべて彼女たちから得ているようなものなので、冷たくあしらえるわけもない。
グイドが抱える幼児性には、厳格なカトリックの母(春野)、幼い時に入れられたカトリックの寄宿学校、8歳の時に出会った娼婦サラギーナ(屋比久)が大きく影響していた。ちゃんと、時間をかけて大人になる機会を与えられず、俗世とは頑なに隔離され、女との関係は汚らわしいものと罰せられ、体罰を受けてきたことによる鬱屈が根強く残っており、それらを覆い隠す、あるいは忘れるための派手な女性関係そして創作活動とも言えそうだった。
脚本が出来上がらないまま映画製作が始まり、グイドは崖っぷち。とおとお、色男カサノバ=自分を主人公とし、自分を取り巻く女性たちを登場させた新作を撮り始めてしまった。あきれたルイザはグイドの元を去って行った...
実は、この作品のことはよく理解できないまま帰ってきた。女たらしのグイドが脚本を書けずに追い込まれて、つい自伝的映画を撮り始めるが、自分の内面をさらしたら周りがどんどん去っていき、最後に残ったのは、去ったはずの妻だけだった、という話だと受け止めた。それが精いっぱい。
性愛の相手としてのカルラ、理想を体現するミューズとしてのクラウディア、映画製作に不可欠な金づるのラ・フルール。良識や信仰を強いる規範としての母、彼の自由へのあこがれを屈折した形で開花させたサラギーナ。現在のグイドの才能を疑って認めず、他の女たちとは一線を画すネクロフォラス。
どうしてこうもいろんな女に囲まれながら、誰がいちばん自分を認めてくれるのかを見極められないかなとあきれてしまう。いや、いろいろ居すぎて混乱するということか。グイドのような危なっかしい男が側にいたら、私なら落ち着かなくて嫌だけどなぁ。
本当は母親にいちばん認めてほしいんだよね、男は大抵マザコンだから。でもそれが叶わなかったから、その母親から得られなかった愛情をいろんな形でいろんな女たちから少しずつ得ようというところなのだろうが、それはあまりに節操がなさすぎる。大人になるまでにどこか落ち着きどころを探さないと。
それが出来なかったから、劇中のグイドのキャラクターが出来上がったのだし、その子どもっぽさを残したところが魅力なんだと言われればそれまでだが、私はやっぱり理解不能。フェデリコ・フェリーニ監督をモデルにした話だというが、そういえば、私はフェリーニ監督作品は『道』しか観ておらず、本作『NINE』の元になった『8 1/2』は全く知らない。『道』はジェルソミーナが好きでよく覚えているのだが...ザンパノは嫌いだ。
ここまで書いていて気付いたが、ミュージカル『NINE』はひょっとしたら映画好きな人には面白いのかもしれない。映画の表現ってときに独特で、画面に描き出されていない何かを受け取らないといけないことがあると思うのだが、よくわからないことの方が多い。映画苦手なんだよね。
というわけで、第28回読売演劇大賞の作品賞、男優賞(城田くん)、演出家賞(藤田俊太郎さん)、スタッフ賞(衣装・前田文子さん)にノミネートされ、最優秀演出家賞を受賞するに至った本作が高評価だということは分かるのだが、それと、自分が理解できて好きな作品かどうかということは全くの別問題だということを改めて認識することとなった。
面白くなかったとは言いません、刺激になりました。あと、城田くんはかっこよかったです。咲妃みゆさんとすみれ、土井さん、前田美波里様がとても素敵でした。特に咲妃みゆさんは『シャボン玉とんだ宇宙までとんだ』のお佳代ちゃんもよかったけど、今回のルイザはお佳代ちゃんとはまったく異なるキャラクターで、演技力のある女優さんだと今後も期待しております。土井ケイトさんのいつもながら捨身のセックスアピールは迫力でした。すみれのクラウディアも芸術家としての自負に溢れる自立した女性像で、あの雰囲気が出せるのはすみれならではだと感じました。
あ、エリアンナの毒舌評論家もよかったです。個人的にはあったかみのあるラテン系キャラをやってほしいですが。
