キスサプリメントω
某食品メーカーの商品開発部で、部長と部下が頭を抱えていた。
「困ったことになったな、クサキ君」
「ええ。新商品の《キスサプリメント》に、あんな副作用があるなんて想定外でした」
「まったくだ。私も顔が疲れて仕方がない」
「僕も、まさか部長のキス顔を2時間近く見続けることになるなんて思ってもいませんでした」
「すまないねクサキ君。私の魅力で君をドギマギさせてしまったようだね」
社運を賭けて開発された《キスサプリメント》。1粒で1日分のキスを補給できる画期的な商品だったが、2時間近くキス顔になってしまうという副作用も確認された。
「これでは商品にならんな」
「部長、実はすでに改良品を開発しています」
「なんだって。さすがクサキ君だ。早速見せてくれたまえ」
「こちらです。《キスサプリメントX》」
「キスサプリメントX!」
「では部長、どうぞ」
部長は、クサキが差し出したサプリを飲み込んだ。
「いかがですか、部長」
「う~む。じんわりとキス感で満たされていく」
すると、部長の顔が変わりだした。
「こ、これは。またキス顔になっていくぞ! クサキ君失敗だ!」
「落ち着いてください。ここからです」
部長の右手がゆっくりと持ち上がり、手のひらが唇に押し当てられた。「チュ」とクサキに向かってその手が放たれる。
「クサキ君! これはまさか!」
「投げキッスです。これでキス顔の不自然さがなくなります」
「なるほど、木を隠すなら森の中というわけだな。……副作用増えてないかクサキ君!? そして私はいつまでチュッチュしてればいいんだ!?」
「試験用ですので5分です。それはつまり、僕が部長の投げキッスを5分間受け続けることを意味します」
5分後。
「ようやくおさまったか」
「地獄でした」
「すまないクサキ君。私の投げキッスに君もメロメロだっただろう。しかし、これでは商品にならんな」
「部長、心配無用です。すでに改良品を開発済みです」
「なんだって。早速見せてくれたまえ」
「こちらです。《キスサプリメントXX》」
「キスサプリメントXX! ツインサテライトキャノンでも撃てそうな名前だな」
「では部長、どうぞ」
部長は、クサキが差し出したサプリを飲み込んだ。
「いかがですか、部長」
すると、部長は自分の手の甲にキスをし始めた。
「クサキ君! これはいったいどういうことかね!」
「中年男性の投げキッスはキモ過ぎるので、手の甲にキスをするように改良しました」
「なるほど。淑女の手の甲にキスをする紳士というわけだな。これならおかしくはな、投げキッスと一緒じゃない!?」
5分後。
「やっとおさまったか」
「5分って意外と長いですね」
「すまない。私の紳士的な振る舞いで君を虜にしてしまったようだね。しかし、これも商品にならんな」
「部長、すでに改良品を開発済みです」
「早速見せてくれたまえ!」
「こちらです。《キスサプリメントZ》」
「キスサプリメントZ!」
「では部長、どうぞ」
「飲んだら髪の毛が逆立って金色になったりしないだろうね。ところで、何のためらいもなく上司を実験台にする君もなかなか振り切れてるな」
部長は、クサキが差し出したサプリを飲み込んだ。
「いかがですか、部長」
すると、部長は足で床を激しく踏み鳴らしながら踊り始めた。
「クサキ君、これはどういうことかね!? もしかして私は今フラメンコを踊っているのか!?」
「部長は今フラメンコを踊っています」
「私は今フラメンコを踊っているんだな! カスタネットがないのが悔やまれる! せめてバラを口にくわえ、キス関係なくない!?」
5分後。
「はあはあ。中年男性が5分間もフラメンコを踊り続けるものではないな。すまないクサキ君。私の魅惑の踊りで君をうっとりさせてしまったね」
「さっきから気になってたんですけど、自分の魅力に対する部長のその自信はどこからくるんですか」
「これもダメだな。もはや副作用などというレベルではない」
「安心してください部長。すでに最終形態を開発済みです」
「最終形態!」
「こちらです。《キスサプリメントω》」
「キスサプリメントω!」
「この《キスサプリメントω》には、一切の副作用がありません」
「なんだって! すでに完成していたのか! じゃあ最初からそれを出してくれたらよかったのに!」
「そのかわり、一切のキス効果もありません」
「ぎゃふん!」
でもせっかくなので発売した。
