なぜ男の脱衣所だけ異性が入れるのかーー銭湯・サウナ・トイレが暴く、日本社会の”見えない性差別”
はじめに――ある日常の非対称
スーパー銭湯の男性脱衣所で、突然引き戸が開く。入ってきたのは清掃用具を抱えた女性スタッフだ。男性客たちは着替えの途中で、なかには全裸の者もいる。女性スタッフは慣れた様子で「失礼します」と一言告げ、洗面台周りを拭き始める。
——こうした場面は、日本全国の銭湯やスーパー銭湯、ホテルの大浴場で、今日も日常的に繰り返されている。
筆者が複数の知人男性から耳にしてきた感想は、おおむね二つに分かれる。「別に気にしない」と「正直、嫌だ」だ。だが、「嫌だ」と思った者でも、その場で声を上げた人間はほとんどいない。
では逆のケースを想像してほしい。
女性脱衣所に男性清掃員が入ってきたとしたら、何が起きるか。おそらく即座に苦情が寄せられ、施設はその日のうちに謝罪声明を出し、担当者は処分されるだろう。SNSでは炎上し、メディアが「性犯罪リスク」として取り上げるかもしれない。
この非対称は、偶然でも例外でもない。日本社会に深く埋め込まれた、男性の身体を「公共財」として扱う構造の産物だ。本稿はこの問題を、法的・ジェンダー論的・比較文化的・労働構造的な複数の視点から解剖し、それが日本における男性への「見えない逆差別」の最たる例であることを論じる。
I. 現象の実態――何が起きているのか
まず事実を整理しておく。
男性施設への女性スタッフ立ち入りの実態は、想像以上に広範だ。銭湯・温泉施設の男湯・男性脱衣所への女性清掃員の立ち入りは、業界慣習として長年にわたり行われてきた。スーパー銭湯やフィットネスジムの男性ロッカールームへの女性スタッフの定期清掃も珍しくない。公共トイレについては、「清掃中」の看板を立てながら営業時間中に女性清掃員が男性トイレに入る光景は、駅・商業施設・オフィスビルを問わず全国で標準的慣行とされている。
一方、逆のケース——女湯への男性スタッフ立ち入り、女性トイレへの男性清掃員——はほぼ皆無に等しい。あったとしても即座に問題化される。弁護士への法律相談、施設への苦情、SNSでの告発という流れが定番だ。
この非対称が最も鮮明に現れるのが、「逆は問題、正は問題にならない」という社会的反応の差である。ネット上では「男湯に女性スタッフが掃除に入ってくるのは嫌じゃない?」という問いかけが幾度となくバズり、「男性のプライバシーは守られないのか」「逆は犯罪なのになぜ許されるのか」という声が可視化されてきた(2022年頃から特に増加)。にもかかわらず、施設側の方針は変わらず、法制度も沈黙したままだ。
選択権の不在、これが問題の核心である。女性は「女性専用施設」「女性専用時間帯」を選ぶことができる。だが男性には、「異性スタッフが立ち入らない男性施設」という選択肢が制度的に保障されていない。清掃員が入ってくるかどうかは、その日その瞬間に施設側が決めることであり、男性客には事前の拒否権も事後の正当な苦情申し立て手段も、事実上存在しない。
II. 法的空白――なぜ「違法」にならないのか
弁護士たちの見解は、問題の構造をよく示している。
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