決まらない男ほど、高く払う──結婚相談所「お茶代=男性負担」経済学の不都合な真実
炎上したのは、業界の外側からではなかった
2024年の夏、Xで一つの投稿が炎上した。
投稿主は、IBJ(日本結婚相談所連盟)加盟の結婚相談所を営む仲人である。内容はおおよそ次のようなものだった。
ホテルのお茶代が近年どんどん高くなっていて、男性の負担が重くなりそうだ。いずれは男性の全額負担ではなく、割り勘が許容されるようになってほしい。ただし割り勘になれば女性の負担も増えるのだから、ホテルのラウンジではなく、もっと手頃なカフェでもいいのではないか。手頃なカフェの情報を募集します──。
読み返してみても、ここに攻撃的な要素は一つもない。会員双方の金銭的負担を軽くしたいという、サービス提供者としてごく穏当な提案である。にもかかわらず、これは炎上した。
私がこの一件に興味を持ったのは、批判が誰から来たかではない。業界の内側から出た、コスト削減という最も無難な種類の提案が、なぜ潰れるのかという一点である。普通のビジネスであれば、顧客の負担軽減提案は経営者に歓迎される。それが歓迎されないとき、そこには必ず、口に出されていない機能がある。
この記事は、その機能を特定する試みである。
感情的な告発をするつもりはない。
使うのは会計と価格理論の言葉だけで、参照するデータは業界自身が公表した一次資料に限る。それだけで十分に足りる。
1. これは「マナー」ではなく、明文の規則である
まず事実関係を確定させる。
IBJが加盟相談所向けに配布しているガイドライン(令和8年2月1日改定版)には、お見合い時のお茶代は男性側の負担とする旨が明記されている。加えて、お見合いに同席する相談所スタッフ(仲人)のお茶代については、原則として申込みを受けた側の相談所の方針が優先されるとも定められている。
つまりこれは、婚活記事によくある「男性が払うのがマナーとされています」という曖昧な社会通念ではない。日本最大の結婚相談所ネットワーク──2026年1月時点で10万人を超える会員を擁し、2024年には16,398組の成婚を出し、これは同年の日本の婚姻件数499,999組の約3.3%、およそ30組に1組にあたる──を運営する民間企業が、加盟各社に対して明文で課している運用規則である。
ここで一つ、見落とされがちな事実を添えておきたい。IBJは全期間にわたって男性の負担を求めているわけではない。公式サイトの案内によれば、交際に入った後については、毎回のデート代や食事代を男性がすべて負担するというルールは存在しない。むしろ、食事代は男性が持ち、カフェ代は女性が持つといったバランスの取り方が例示され、男性が「やや多めに」払うことが推奨されるにとどまる。
規則として固定されているのは、初対面の一点だけなのだ。
交際が深まり、二人の関係が個別化していく局面では、費用分担は当事者の裁量に委ねられる。しかし、まだ何者でもない二人が初めて向き合うその1時間だけは、支払い主体があらかじめ決められている。この非対称は偶然ではない。ここに設計意図が露出している、というのが本稿の見立てである。
2. 前提の検算──「結婚相談所は男女平等である」という擁護
この話題を持ち出すと、ほぼ確実に返ってくる反論がある。マッチングアプリと違って、結婚相談所は女性からもきちんと料金を取っている。だから男女平等であり、お茶代くらいで騒ぐのは筋違いだ、というものだ。
前提そのものは正しい。業界メディアの調査を見ても、結婚相談所の女性料金は男性と同額のケースが多く、女性無料の相談所はほとんど存在しない。ハイスペック男性を集めることを売りにした相談所では、女性側の料金の方が高額に設定される例すらある。IBJ加盟店でも、男女同額が一般的だとされる。
さらに言えば、入会条件の面では男性の側が明確に不利である。多くの相談所で、男性は年収証明書の提出を求められる。女性にその義務はない。所得を証明する書類を出さなければ市場に参加できない側と、出さずに参加できる側がいる。この時点で「平等」は既に一枚岩ではない。
だが、ここで議論を止めてはいけない。料金表が男女同額であることは、表示された価格が同額であるという以上の意味を持たない。問うべきは、その料金表に書かれていない支払いがどこにどれだけ発生しているか、である。
以下が本稿の核心にあたる。
ここからは不都合な真実のためペイウォールを設置させて頂く。
3. 簿外化された補助金
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