独りよがりの被害妄想
特別なイベントの後に行きたくなる、お気に入りのお店がある。
老舗のビアホール、バイエルン(仮名)。
名物料理をはじめ、和洋折衷なんでも美味しい。
そして何よりこだわりのビールが最高だ。
このお店は重厚感がある。物理的に。
入り口の扉が重くて開けるのが大変だし、椅子も重たいし、メニュー表も表紙がしっかりしていて重たい。
だから、オシャレな白髪の爺やがエスコートしてくれる。
雰囲気はありつつも、全体的にはカジュアルで、お値段も良心的だ。
冬のイルミネーション、夏の花火大会。
終了した後は、最寄りの駅に向かう人もいれば、街に繰り出して食事やお酒を楽しむ人もいる。
ゾロゾロと人混みが大移動していく。
わたしはバイエルンへのはやる気持ちを抑えられない。
早く行かないと満席になってしまう。
もどかしい。
でも今は通行規制に従ってゆっくり移動する他ない。
バイエルンは人気だから、きっとみんな今から行きたいと思うはずだ。
あの夫婦も、あのお兄さん達も、あの派手な女の子達も、みんなバイエルンをめざしている。
きっと、わたしの目に映る人、全員がバイエルンに行くんだ。
何万人、いや、何十万人。
全員が。
全員がバイエルンに殺到して、わたしはあのビールにありつけないんだ。
そこまで心配しながらも、バイエルンに着くと、案外あっさり席に案内されたりする。
わたしってめちゃくちゃラッキーやん。
わたしは被害妄想のおかげで幸運に巡り合うことが多くある。
わたしは特にスイーツ女子というわけではないが、バウムクーヘンは好きだ。
10年以上前のこと。
遠方にある有名な洋菓子店が、近くの百貨店に催事出店し、バウムクーヘンを限定販売するという情報を入手した。
非常に人気が高いバウムクーヘンなので、百貨店も厳戒態勢のようだ。
おひとり様2つまで。
開店時刻の10時から整理券配布。
整理券は終了次第打ち切り。
わたしだって臨戦態勢だ。
10時から整理券配布ということは、それより前に行って並んでおく必要がある。
何時がいいのか。
タッチの差で整理券を逃すだなんてこと、あってはならない。
集客予想と綿密な計画のうえ弾き出した答えは、8時50分。
1時間前から並ぼうとする人はいるかもしれない。
そんな彼らに勝たなければならない。
当日、わたしは早起きし、電車に乗って百貨店に向かった。
電車に乗っている時間がもどかしい。
研究に研究を重ねて弾き出した8時50分という自らの計算式が、不安になってくる。
あそこで吊り革を握っている女性も、ドアにもたれかかっている男性も、優先座席の上品なマダムも、みんなバウムクーヘンを求めている。
きっと、この車両の人みんな、いや、隣の車両も、隣の隣の車両の人も、全員がバウムクーヘンの整理券の列に並ぶんだ。
全員が。
わたしが着く頃には、既に長蛇の列ができていて、整理券が手に入らないんだ。
そして、バウムクーヘンは買えず、手ぶらのままトボトボ帰るんだ。
そんな心配をしながら、シャッターが閉まった百貨店の入り口に辿り着いた。
誰もいない。
かの人気のバウムクーヘンの整理券、配布開始1時間10分前に、誰もいないなんてことあるだろうか。
ここで場所あってる?
百貨店には大抵入り口が何ヶ所かあるため、別の入り口に並んでいるのかもしれない。
どこだ。
出遅れたかもしれない。
気落ちしながらも、わたしは列を探した。
ようやく、だいぶ離れたところに列を見つけた。
こんなところに並んでいたのか。
すでに数十人が並んでいる。
リュックを背負っている男性、メガネをかけた男性、チェックのシャツの男性。
みんなバウムクーヘンを求めているんだ。
息を切らしながら、念の為前に並んだ人に尋ねた。
「これってバウムの列で合ってますよね?」
怪訝な表情で男性は答えた。
「派遣のバイトの送迎バスです。工場行きです」
被害妄想のおかげで、あやうく知らない工場でバイトしそうになった。
バウムクーヘン工場なら喜んで行ったけど。

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さて、次回の #クセスゴエッセイ は
「遅刻魔・アリサ」
をお届けします
お楽しみに〜
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