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戦略の前に現場へ。タオルが「生き物」だと知った2ヶ月。 | 里海への航海 #02

2025年6月、経営企画として楠橋紋織に入社した私が最初に取り組んだこと。それは、戦略を立てることではなく、2ヶ月間「現場の実習生」になることでした。

外から来た経営企画を担う人間として、私が自分に課したミッションは、実はとてもシンプルなものでした。それは、楠橋紋織の「真の強み」を明確にし、その強みを活かして社会課題を解決する。つまり、私たちの技術と社会のニーズの「接点」を探り当てることです。

ロジックとしては明快です。しかし、それを机の上だけで考えても答えは出ません。 私は入社前、最終面接の場で、あるお願いをしました。 「最初から戦略を立てるのではなく、まずは2ヶ月間の現場実習をさせてください」と。

それは、自分の目でタオルのプロセスや現状を見て、これから共に歩む仲間に名前と顔を覚えてもらうための、私なりの覚悟の表明でもありました。

企画室から配送課まで。バトンの流れを追う

電子部品のエンジニアとして「ものづくり」に向き合ってきたつもりでしたが、タオルの現場は、これまでの私の常識が通用しない未知の世界でした。
まずは企画室に配属され、タオルの「設計図」である規格書の見方を学びました。そこから、撚糸(ねんし)、整経(せいけい)、製織(せいしょく)、さらに仕上げ、検品、出荷を担う配送課まで。

6月、7月の今治の工場は、蒸し返すような熱気に包まれます。私は各現場で、とにかく邪魔にならないように、自分にできる雑用をこなしながら、タオルという一本のバトンが多くの人の手を経てお客様に届くまでの流れを、一つひとつ実地で追いかけました。

レシピ通りにはいかない。「生き物」を扱う職人技

そこで知ったのは、タオル作りは驚くほど繊細で、変数に満ちているということです。

セラミックの電子部品の世界では、決まったレシピを決まった条件で焼成すれば、期待通りの特性を持つ電子部品を再現性が高く得ることができます。その条件を含めたレシピの探求こそが、エンジニアの一つの醍醐味でした。

でも、タオルは違います。ある意味で「生き物」を扱っているような感覚なのです。それもそのはず、タオルの原料は綿花、まさに生き物です。同じ綿を使った糸でも日により表情を変えます。そのため、糸の状態、その日の気温や湿度によって、職人たちは織機の設定を微調整します。昨日と同じ設定で動かしても、今日うまくいくとは限らない。職人たちはまさに糸と対話しながらものづくりをしています。

特に驚いたのは、私たちの会社の「強み」でした。

「なんでこんな難しい糸でタオルを織るんや」

一見、不満を口にしながらも、その表情はどこか楽しそうで、誇らしげ。他社では敬遠されるような、すぐに切れたり絡まったりする「扱いづらい厄介な糸」を、職人たちがどうにかこうにか織り上げてしまう。その粘り強い技術力と、それを支える勘所。それは、効率化の論理だけでは測りきれない、圧倒的な実直さの集積でした。

タオル作りは、「水」で決まる。

2ヶ月の現場実習を終えて、私にとって一番の発見だったのは「水」の存在でした。

タオルの会社に入って初めて、タオル作りには何よりも「良質な水」が欠かせないことを知ったのです。それまで品質を決めるのは糸の選定や織りの技術だけだと思い込んでいた私にとって、水そのものが品質を左右する主役であるという事実。それは新鮮な驚きでした。

今治のタオルを、今治タオルたらしめているもの。 次回は、今治のタオル作りを根底で支える『水の循環』のお話です。

95年目の私たちの航海の記録をマガジンにまとめています。
私たちが目指すこれからのものづくりと、里海の美しい未来へ。 創刊号(第1回)をはじめ、これまでの物語は以下のマガジンからご覧いただけます。ぜひフォローして、これからの航海を一緒に見守っていただけたら嬉しいです。

小川  |  楠橋紋織  村田製作所、桑沢デザイン研究所、トランクデザインを経て2025年6月より現職。楠橋紋織のこれからの航海を公式noteで発信していきます。一方で、島への移住、地場産業と向き合う日々の葛藤などは、👉個人noteにて綴っています。


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