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クスノキ出版活動記録 #15:ようこそ、探偵団へ。──加須児童館 おはなし会記

加須の児童館で、子どもたちとのおはなし会を開いていただきました。

2026年7月17日(金)の午後、加須市の加須児童館で、「楠柾さんとのおはなし会」にゲストとしてお招きいただきました。夏休みに入る直前の金曜日。小さなお子さんから小学校高学年まで、保護者の方々も含めて、たくさんの方が集まってくださいました。

今日は、その一時間で子どもたちと何をして、何をお話ししたのか──そして、会が終わったあとに教えていただいたことを、書き残しておこうと思います。


まちがいさがしに込めた「よく見る力」のこと

会の中盤、子どもたちと「まちがいさがし」をしました。

題材に選んだのは、会の川親水公園と、どんとこい祭りです。A4サイズのものを一人ずつお配りして、同じ絵を大きく引き伸ばしたものを壁に貼らせていただきました。見つけた子が前に出て、指を差して教えてくれる。ずいぶん賡やかな時間になりました。

この町の子なら見たことのある景色を選んだのには、理由があります。知らない場所の絵では、心は動きません。「あ、ここ知ってる」から始めたかったのです。

まちがいさがしを持っていったのは、時間をつぶすためではありませんでした。

間違いを見つけられるのは、よく見たからです。それは、探偵のいちばんの力だと思っています。悠人たちが謎を解けるのも、加須の町をよく見て、かくれていた宝物を見つけたからでした。

言葉にはしませんでしたが、夢中になって絵を見比べている子どもたちを眺めながら、私はそんなことを考えていました。帰り道に、ひとつだけ「はじめて気づいたもの」を見つけてくれたら。そうしたら、その子はもう探偵団の仲間だ、と。

このシリーズで伝えたいことは、ずっと一つです。足元にあるものの価値に、子ども自身が気づいてほしい。それを言葉で説明するのではなく、遊びのほうから渡したかった。まちがいさがしは、そのために選んだ道具でした。

加須のことを問題にした「かぞクイズ」も用意させていただきました。


二百枚だけ作ったシールのこと

この日、参加してくださった全員に、シールをお渡ししました。

このシールは、二百枚だけ作ったものです。会の中でも、そうお伝えしました。同じデザインのシールは、これから先も作るつもりがありません。

数を絞ったのは、希少なものにしたかったからではありません。この日ここに来てくれた子と、私だけが持っているもの。そういう一枚であってほしかったのです。何年か経って引き出しから出てきたときに、「そういえば、児童館で作家さんの話を聞いたな」と思い出してもらえたら。それだけを考えて枚数を決めました。
シールには、こんな言葉を入れました。

「たいせつなのは こころ」

デジタルのスケッチパッドを持った悠人が、そう言っています。この物語には「技術は、人の心を証明するためにある」という言葉が出てきます。道具がどれだけ進んでも、それを使う人の心が先にある。子どもたちの手元にずっと残る一枚だからこそ、いちばん伝えたいことを書いておきたかったのです。

たいせつなのは こころ

嬉しかったのは、そのシールを受け取った子が、こう言ってくれたことです。

「シールにも、サイン書いて」

本ではなく、シールに。渡したばかりの小さな一枚を、その子はもう自分の宝物として扱ってくれていました。作ってよかった、と思いました。


子どもたちからの質問──「どんな小学生でしたか」

質問は、参加申込のときに児童館の方が集めておいてくださいました。事前にいただいていたので、こちらもゆっくり考えてお答えすることができました。

「どんな小学生でしたか。得意な教科は何でしたか」

正直にお答えしました。勉強は、全然していませんでした。毎日友達とゲームばかりしていた小学生です。ただ、ひとつだけ変わっていたのは、遊ぶだけで終わらずに、自分でゲームを作るのが好きだったこと。本気で勉強を始めたのは、大人になってからでした。

だから、いま勉強が苦手な子も大丈夫。好きなことの中に、学びはちゃんと隠れています。そうお伝えしました。

「作家さんになるためには、どんなことを頑張ったらいいのですか」

「文章の練習」と言われると思ったでしょう──そう前置きしてから、お答えしました。もっと大事なのは、いろんなことをやってみることです。ゲームでも、虫取りでも、お手伝いでもいい。やってみたことは、そのまま物語の材料になります。悠人たちが謎を解けるのも、よく見て、よく試すからです。

「なぜ、加須市のことをお話に書こうと思ったのですか」

これが、私にとっていちばん芯に近い質問でした。

私は、何もないところからは物語を作れません。知っているもの、好きなものからしか、物語は生まれないのです。だったら、自分が世界でいちばんよく知っていて、いちばん好きな場所はどこだろうと考えたら──加須でした。みんなが毎日歩いているあの道のことなら、誰よりも深く書ける。理由は、それだけです。


高橋市長にお越しいただいたこと

当日は、加須市の高橋市長にも会場へお越しいただきました。

加須市は、子育て支援に力を入れている市です。その市長が、平日の午後に児童館までお越しになって、子どもたちと同じ時間を過ごしてくださった。これは、素直に嬉しいことでした。


「ようこそ、探偵団へ。」というサインのこと

会の最後に、本をお持ちくださった方へサインをさせていただきました。

扉のページに、縦書きでこう書かせていただいています。

「◯◯さんへ / ようこそ、探偵団へ。 / 楠 柾」

宛名は、必ず「どなた宛にお書きしましょうか」とお尋ねするようにしています。目の前のお子さんのお名前とはかぎらないからです。おうちの方へ、きょうだいへ、お友だちへ。渡す相手がいる子もいらっしゃいます。

「ようこそ、探偵団へ。」という一言を選んでいるのは、まちがいさがしのときに考えていた「よく見る力」と、地続きにしたいからです。気づける子は、もう仲間だと思っています。だからサインは、迎え入れる言葉で締めることにしています。

遊びから始めて、物語の核心を渡して、最後に仲間としてお迎えする。この一時間でやりたかったのは、それだけでした。


会が終わったあとに、教えていただいたこと

後日、加須市のご担当の方から、イベントの後も子どもたちがぬりえを続けていたり、児童館の本を手に取っていたりしていた、と教えていただきました。

先日また児童館へ伺ったときには、館長さんから「参加した子が、楽しかったと言っていましたよ」とも教えていただきました。

私はその場にいません。人づてに聞いた話です。それでも、こういう報告が、いちばん嬉しい。


ご縁のはじまり──思いがけないご連絡

この会が、どのように始まったのかも書き残しておきます。

2026年5月、加須市役所の方から、思いがけないご連絡をいただきました。児童館の館長さんの発案で、館内に私の本を紹介する特設コーナーを設けてくださった、というご報告でした。

順番が、逆だったのです。私が「置いてください」とお願いする前に、もう置いてくださっていた。そのうえで、児童館との交流までお声がけいただきました。

日程を決めるときも、子どもたちが夏休み前で早帰りになる日を選んでご提案いただきました。大人の都合ではなく、子どもの時間割から決まった日程でした。

当日の進行台本も、館長さんが作ってくださいました。開会の言葉から閉会のご挨拶まで、司会の方が話される言葉が細やかに書かれていて、全問正解できなかった子にかける言葉まで用意されていました。誰も置いていかない台本でした。

館長さんは、長く学校で子どもたちを見てこられた方です。招かれた側の私が、いちばん手厚くもてなしていただいた一日でした。


児童館に置かせていただいた、二枚の色紙


児童館には、色紙を置かせていただいています。

一枚目には「物語を共に。」と書かせていただきました。

先日伺ったときに、もう一枚と、大きなポスターを追加させていただきました。二枚目には、こう書いています。

子どもたちの毎日に、物語をのせて。

直筆のサイン

飾りのつもりでは書いておりません。子どもたちが毎日を過ごす場所に、物語がひとつ置いてある。そういう状態を、これからも作り続けていきたいと思っています。


第3巻のこと

8月1日に、シリーズの第3巻『黄金のイチョウと拡張現実の武者』が発売になります。

今度の舞台は玉敷神社です。長い時間を重ねた大きなイチョウの木と、よろいを着た武者の行列が出てきます。加須には、本物があります。読んだあとに、ぜひ見に行ってみてください。悠人たちと同じ場所に立つことができます。

見慣れた通学路が、少しだけ違って見える。その瞬間を作るために、私は加須のことを書いています。


加須児童館のみなさま、加須市子育て支援課のみなさま、お越しくださった高橋市長、そして参加してくれた子どもたち。本当にありがとうございました。

あの日のシールが、いつかどこかの引き出しから出てきて、少しだけ懐かしく思い出してもらえますように。



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