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クスノキ出版活動記録 #03:元・物流マンが、あえて「Amazon直販」を選んだ理由。――デジタル全盛時代に残る「アナログ」の価値と、これからの出版の話

1. はじめに:ベルトコンベアの向こう側で

 埼玉県加須市で「クスノキ出版」という出版社を営んでいる楠柾です。

 実は私、以前は出版関係の物流に携わっていました。 毎日、トラックから吐き出される膨大な量の書籍。巨大な倉庫の中を走り回るベルトコンベア。全国の書店へ向けて出荷される、何千、何万という「知の塊」。 その圧倒的な物量を、肌感覚として知っています。日本の出版文化を物理的に支えているのは、間違いなくあの現場の汗とシステムです。

 しかし、今回私が自分の出版社を立ち上げるにあたり選んだのは、その巨大な流通網(取次システム)を通さない「Amazon直販」という道でした。 なぜ、物流の恩恵を知る私が、あえてそのレールから外れたのか。 そこには、現場で見てきた「痛み」と、これから来る「未来の波」への予感がありました。

2. 「返品」という物流の影

 物流現場にいて最も心を痛めたのは、「返品(返本)」の山でした。 日本の出版流通は委託販売制度が基本です。書店に並んでも、売れなければ出版社に戻ってきます。 新刊として華々しく送り出された本たちが、数週間後には帯が破れ、角が擦れた状態で戻ってくる。そして、その多くは誰の手にも渡ることなく断裁(廃棄)されていく。

 「作る責任、届ける責任」 物流の現場で、私は常にその言葉を突きつけられているような気がしていました。 どんなに素晴らしい物語も、読者に届かなければ、それはただの「在庫」であり「パルプの塊」になってしまう。この構造的な課題を、個人レベルで解決する方法はないか。 ずっとそう考えていました。

3. Amazon PODという「発明」

 そこで選んだのが、AmazonのPOD(プリント・オン・デマンド)です。 これはいわば、「デジタルとアナログのいいとこ取り」です。

  • デジタル: データとして存在するから、在庫リスクも保管コストもゼロ。

  • アナログ: 読者が「欲しい」と思った瞬間に、1冊の本(物質)として生成される。

 物流マンの視点から見れば、これは革命です。 「見込みで大量に作って、余ったら捨てる」という20世紀型の浪費モデルから、「必要な分だけを、必要な人に届ける」という21世紀型のサステナブルなモデルへの転換。 これなら、廃棄に心を痛めることもなく、持続可能な出版活動ができると確信しました。

4. 紙は減る。だが「アナログ」は死なない

 今、急速にペーパーレス化が進んでいます。電子書籍のシェアは年々拡大し、「紙の本はオワコンだ」と言う人もいます。 確かに、情報のスピードや利便性ではデジタルに勝てません。市場規模としての「紙」は、これからも縮小していくでしょう。

 しかし、「アナログの価値」まで消えるかというと、私は絶対にNOだと思っています。 むしろ、デジタル化が進めば進むほど、アナログな「モノ」としての価値は相対的に高まっていくはずです。

 以前、こちらの記事でも書きましたが、かつて「カメラ」が登場した時、画家たちは職を失うのではなく、「心を描く」という新たな価値へ進化しました。

▼ 以前の記事

 カメラという技術が「真実」を映し出す装置なら、絵画というアナログは「解釈(心)」を叫ぶ装置だった。技術が進歩すればするほど、逆に「人の手が介在することの尊さ」が浮き彫りになり……

 これと同じことが、今の出版界でも起きています。 「情報を得るだけ」ならデジタルで十分。だからこそ、わざわざ紙で持つことの意味――好きな作家の本を棚に並べる満足感、ページをめくる指先の感触、誰かに手渡すときの重み――そういった「体験としての価値」は、以前よりも高まっているのです。

 「情報はデジタルでいい。でも、愛着はアナログで持ちたい」 これからの時代、読者のニーズはこのバランス(ウェイト)の中で揺れ動いていくはずです。

5. 「所有欲」を満たすためのPOD

 かつて、本は「情報を得る手段」でした。だから紙が必要でした。 でも今は、情報はスマホで取れます。 そうなると、未来の本の役割は「情報を得る手段」から「所有欲を満たす嗜好品」へとシフトしていくのではないでしょうか。

 Amazon PODは、その過渡期にある現代に最適なツールです。 基本はデジタルで広く展開しつつ、コアなファンや、どうしても紙で手元に置きたいという人のために、高品質なフィジカル(物質)を提供する。

 私は、この「デジタルとアナログの比重が入れ替わる、その波打ち際」にいたいのです。 紙の本が「贅沢品」や「特別なギフト」になっていく未来。そこで、いかに価値ある「1冊」を届けられるか。 それが、クスノキ出版の挑戦であり、Amazon直販を選んだ最大の理由です。

6. 結びに:波をつかむために

 物流の現場で見た「過去」の現実と、テクノロジーが見せる「未来」の可能性。 その二つの視点を持てたことは、私の大きな財産です。

 巨大なコンテナ船のような大手出版社のやり方は真似できません。 でも、小回りの利くボートのようなひとり出版社なら、変化する波をいち早く捉え、面白がって乗りこなすことができるかもしれません。

 「技術(デジタル)は、人の心(アナログ)を証明するためにある」 これは自著『少年探偵』のテーマでもありますが、私の出版活動そのもののテーマでもあります。

 画面の中のデータと、手の中の温もり。 その両方を大切にしながら、これからも「新しい本の届け方」を模索していきます。


📚 マガジン「ひとり出版の生存戦略」

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