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クスノキ出版活動記録 #01: 元・モバゲー作家の私が、流通の壁を越えて地元の図書館へ本を届けた話。

実は私、かつて「出版流通」の現場で働いていました。 本が印刷所から取次(とりつぎ)へ渡り、そこから全国の書店や図書館へ運ばれていく——そんな物流の裏側を、20年以上見てきました。

だからこそ、誰よりも痛いほど知っていたんです。 「個人の作家が作った本を、公立図書館の棚に置いてもらうこと」 それが、業界の構造上、どれほど高く、絶望的な壁であるかを。

通常、図書館に入る本は「TRC(図書館流通センター)」などの大きなルートに乗らなければなりません。個人が出版した本(特にAmazonのオンデマンド出版など)が、そのルートに乗ることはまずありません。門前払いです。それが常識です。

でも、私はその「業界の常識」を無視して、Amazonのロゴが入ったダンボールを抱え、地元の図書館へ飛び込みました。 なぜ、そこまでしたのか。 今日は、そのお話をさせてください。

17年前、発売したばかりのIPhoneの中で「世界」を作っていた私

私が小説を書くのは、今回が初めてではありません。 記憶にある方もいるかもしれません。まだスマホが発売したばかりで、多くの方がガラケーをポチポチしていた17年前。「モバゲー」という場所で小説を書いていました。

代表作は『蒼眼の蟻と五つの魂』。 ありがたいことに、当時の「事務局注目作品」に選出いただき、多くの読者に読んでいただきました。当時は、古代文明や異世界など、ここではない「遠くのファンタジー世界」ばかりを描いていました。 顔の見えない、ネットの向こうの読者に向けて。

それから月日は流れ、私は42歳になりました。 久しぶりに筆を執ろうと思った時、書きたいと思ったのは、遠い異世界ではありませんでした。 私が生まれてから42年間、ずっと暮らし続けているこの街——「埼玉県加須市(かぞし)」でした。

灯台下暗し。42年目の「再発見」

若い頃は、当たり前すぎて気づいていなかったのかもしれません。 空を悠々と泳ぐ、世界一の「ジャンボこいのぼり」。 冷たくてコシのある、絶品の「加須うどん」。 そして、この街の産業を支え続けてきた、豊かな「水環境」

ずっとそこにあったけれど、近すぎるがゆえに見過ごしていた「地元の魅力」。 大人になって改めて見渡した時、そこには守るべき歴史と、語り継ぐべき物語の種がたくさん埋まっていることに気づきました。

灯台下暗しとはこのことです。 「この街の景色を、エンターテインメントとして書き残したい」 そうして書き上げたのが、4作目となる最新作『少年探偵のデジタル・スケッチパッド』です。 加須の街を舞台に、少年たちが「地域の宝」を守るために奔走するミステリー。

これを書き上げた時、私は強く思いました。 「Amazonで売るだけじゃダメだ」と。

Amazonのダンボールを抱えて、図書館へ

この本を一番読んでほしいのは誰か。 それは、かつての私のように、まだ地元の本当の価値を知らないかもしれない子供たちです。 そして、この街を愛し、守り続けてきたお年寄りの方々です。

でも、子供たちはKindleを持っていません。お年寄りもネット通販はハードルが高い。 彼らに届けるには、「地元の図書館」に置いてもらうしかないんです。

ここで冒頭の話に戻ります。 私は流通のプロでした。「個人の本なんて図書館は受け取ってくれない」という常識を知っています。 「迷惑かもしれない」「断られるのが怖い」。そんな葛藤もありました。

でも、今回は「業界人」としてのプライドを捨てました。 一人の「地元作家」として、Amazonから届いたばかりの自分の本を箱に詰め、加須市立図書館のカウンターへ向かいました。 震える手で、こんな手紙を添えて。

(寄贈のご挨拶より) 「私は生まれてから42年、この街で暮らしています。 本作は、加須の歴史や風景をモチーフにしたミステリーです。 あくまで物語ではありますが、未来を担う子供たちに、エンターテインメントを通じて『自分たちの住む街には守るべき宝があるんだ』と伝えたかったんです」

「郷土資料」として、棚に並ぶ

結果はどうだったか。 図書館の担当者の方は、私の突然の訪問と、暑苦しいほどの手紙を、温かく受け入れてくれました。

そして今、加須市立図書館の検索機で「楠 柾」と打つと、私の本が出てきます。「郷土資料」という、特別なラベルを貼られて。

業界のルートなんて関係ない。 「届けたい」という熱意があれば、壁は越えられるんだと、この街が教えてくれました。

無事に図書館に架配されました

第2版&第2巻、同時リリース!

そして、この物語はまだ終わりません。 2月1日(土)に、デザインを一新した「第1巻(第2版)」と、 待望の続編である「第2巻」を同時にリリースしました!

第2巻のテーマは、夏休みといえばこれ。「幽霊」です。 加須の神社に現れた「青白い光」と、30年前から止まったままの少女の想い。 論理的思考(ロジック)を武器にする主人公・悠人が、初めて「科学では説明できないもの(オカルト)」と向き合います。

もし、加須市にお住まいの方がいらっしゃいましたら、ぜひ図書館へ行ってみてください。(図書館にあるのは、レアな旧表紙版です!) そして、遠方の方は、Amazonで新しい表紙の物語を手に取ってみてください。

かつてモバゲーで私の作品を読んでくれていた方も、はじめましての方も。 私が17年かけてたどり着いた「一番身近な冒険の物語」を、楽しんでいただけたら嬉しいです。

▼一人出版社の生存戦略シリーズはこちら

【 書籍情報 】
『少年探偵のデジタル・スケッチパッド』
(舞台:埼玉県加須市)

  • 著者: 楠 柾(くすのき まさき)

  • Kindle版 / ペーパーバック版 発売中 ※Kindle Unlimited会員なら0円で読めます。

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