あとがき:『俺、空を飛ぶ』
シュン君を見送ったあと、天使ちゃんが空の上の上の、そのまた上まで昇ってきたころのことです。
天使ちゃんの羽根の動きがパタリと止まってしまいました。
「あーぁ」
また、泣きだしそうかな?
「魂をお導きすること、出来なかったなぁ・・・大天使様に何て言われるかしら・・・」
羽根の動きを止めても、天使ちゃんの体は少しずつ空のもっと上に向かっていきます。まるでシャボン玉が穏やかな風に乗って浮かんでいるように。
しばらくして、軽く体全体に力を入れると、まわりの空気が空色から真っ白い光の色に変わりました。そこは空ではない別の空間です。
気づくと天使ちゃんの目の前に、背の高い、ひげの生えた天使がいました。
ひげの天使が声をかけます。
「おかえり」
「ただいま、大天使様。・・・あのね」
と言ったまま、天使ちゃんの口から言葉が出なくなりました。
大天使様は優しい眼差しで、うつむきがちな天使ちゃんを見つめます。
「・・・ここからずっと見ていたよ。だけど、君自身の口から報告を聞きたいね」
天使ちゃんは顔を上げました。
「あのね、予定していた魂を天に導くことが出来なかったんです」
「そうだね。でも、出来なかったんじなくて、君自身の考えで〝しなかった〟んだね」
「はい・・・」
天使ちゃんはまた、下を向いてしまいそう。
「よく決断したね。よくやったと、私は思う」
戸惑うように顔を上げた天使ちゃんに、続けます。
「初めてのお遣いで、『臨機応変』を覚えたね」
「本当?」と、天使ちゃんのほっぺがほころびます。
「ああ。君の機転のおかげで、シュン君は改めて得た〝大切な時間〟をより大切にするだろうよ。そういう魂がひとつ増えた。それは喜ばしいことだ」
天使ちゃんは頷いて笑顔になりました。
「シュン君が本当の本気であたしに訴えかけたから」
「気持ちが通じて、それに応えたんだね」
大天使様が「さあ少しゆっくり休んで」と、天使ちゃんを促す雰囲気になったのを見て、僕は思わず声をかけてしまいました。
「あのぉ、それにもうひとつ」
驚いてこちらを見る二人。
「あ・・・KRKRさん、いらっしゃったのですね」
「はい。すみません、声をかけてしまって」
「いえいえ、いつでもどうぞ。あなたはこの物語を書いた人なのですから」
笑顔で迎えてくれる二人。そして大天使様が切り出します。
「それで? どうしました?」
「はい。もうひとつ嬉しいことが。シュン君のお母さんも大切なことに気づいてくれそう、てことです」
「なるほど」
大天使様が納得した様子で続けます。
「お母さんの『応援する』の一言も、シュン君の心が輝くのを後押しした・・・」
「お母さんの一言って、大きいのね」
大天使様が今度は天使ちゃんに顔を向けます。
「そうだね。お母さんだけでなく、まわりの大人の一言で、子供の心は輝くこともあれば、逆にしぼんでしまうことだってあり得る」
「シュン君も以前はそうだったわ。しぼんじゃってた」
大天使様は「うん」と答え、今度は視線を僕に移しました。それに応える僕。
「しぼんじゃった原因は(この物語では)お母さんや先生の言葉です。でも、親にしてみれば、子に『現実的な夢を持ってほしい』と願うのは、自然なことだとは思います」
二人が僕を見つめます。
「だけどそれをどう伝えるか・・・伝えるタイミングとか、親子のコミュニケーションとしてはとても難しい。じゃあ『どうすべき』みたいな答えは無い中で、そういうメッセージをそっと、この物語の中に置くことができたのでよかったなと思ってます」
「そのお手伝いができたなら、私たちも嬉しいですよ。〝そっと〟ていうのがミソですね」
「はい。裏のテーマです(笑)」
「今頃、お母さんも気づいてくれてるでしょうからね」
「ねぇKRKRさん、このお話って、Sakerartさんのイラストからインスピレーションを得たんでしょう?」
「うん。このイラストを見た時、何故かすごく惹かれてしまって。・・・きっと天使ちゃんとシュン君がイラストの中から訴えてたんじゃない?〝物語に書いて〟って」
天使ちゃんが何か言いたげな視線を、まっすぐ僕に送っています。
すぐにそれは言葉になって出てきました。
「でも大抵の人はさ、このイラスト見たら〝天使が男の子を運んでる〟って見えるんじゃない? なのに・・・なんで逆にしたのよ」
「う~ん、単に思いつき。男の子が天使を運んでるほうが、ストーリーが生まれそうだな、って。・・・あれ? 不満そう?」
「だってぇ。飛べない天使なんて、カッコ悪いじゃない」
「ごめんね。でもそのおかげてシュン君助かったし。それに、さっきの裏のテーマを盛り込むことができた。実は・・・シュン君の気持ちの半分は僕自身の経験から生まれたもの、でもあるんだ」
「そうなの・・・KRKRさんが子供の頃?」
「うん・・・だから天使ちゃんには感謝してる。そういうお話を書けたから。ありがとう」
彼女は満足そうに笑ってくれました。
ただでさえここは眩しい場所なのに、天使ちゃんの笑顔はもっと眩しいんです。ほら、イラストの中の彼女みたいに。
「じゃぁ・・・そろそろ帰ります。お邪魔しました。大天使様、天使ちゃん」
「ええ。いつでもどうぞ」
「また、会いましょう」
「ええ。また」

AIイラスト by Sakerart
『俺、空を飛ぶ』
読んでいただき、ありがとうございました。
