『ゴーゴーブラザーズ』(物語)
こんちは。僕は犬。トイプードルって犬種らしい。
名前は──
「クリン!」
そう、名前はクリン。・・・って、何? ご主人様、僕のこと呼んだ?
振り返ると、そこに犬がいた。
「今日からクリンの弟になる、きんとん君だよ」
え・・・。おとうと。
(あの・・・よろしく)
突然の出会い。僕に弟ができるなんて。
(そっか、お前、今日から僕たちの家族になるんだな)
(うん、そうみたい)
(それにしてもお前、新入りにしては体デカいな)
(そうかな・・・ペットショップでの生活が長かったから成長しちゃったのかなぁ)
(売れ残り組だったのか? そんじゃ、ここのご主人様に拾ってもらってよかったな)
僕はきんとんの体の匂いを嗅ぎながら話を続けた。
(僕たちのご主人様は二人、若い夫婦だ。あかりママと、まことパパ。ごはんをくれるのもこの二人だし、散歩に連れてってくれるのもこの二人)
(散歩って?)
そっか、まだ散歩を知らないんだな。
そのときだ。
きんとんが素早い動きで窓際に体を寄せた。
僕も、何かを察知して同じようにした。
プ〜。
「ちょっと、まこと、なに今の、オナラ?」
あかりママが「くさいんだから」と言いながら、窓を少し開けた。
僕たちにも「くさかったよねー」と顔を近づけてきた。
(おい、お前さっき、オナラより前に窓際に行ったよな)
(うん)
(どうしてだ?)
(なんか・・・察知したっていうか)
(〝動物の勘〟だよな? よし! お前いいぞ)
(何が?)
(いま説明してやる。僕たちは、ご主人様に色々とお世話になってる。だから、いつも昼寝してりゃいい、ってわけじゃないんだ)
(うんうん)
(ちゃぁんと、仕事をしなきゃなんないんだぞ)
(仕事・・・)
(そうだ。仕事その1。それは、愛嬌をふりまくこと。ご主人様に癒しを感じてもらうためだ)
(うん、それならできるよ)
(そして、仕事その2。動物の勘を使って、ご主人様を守ること。お前は動物の勘を持ってるから、僕のことアニキって呼んでもいいぞ)
(うん、わかった。アニキ、そんで動物の勘を使ってどんな仕事するの?)
(じゃ、実践といくか・・・)
僕は、あかりママを見た。
(いいか、きんとん。あかりママが今キッチンに行こうとしてるよな)
(うん、でも、あのまま冷蔵庫のほうに行くと・・・)
(足の小指を柱に打ちつけちゃうだろ?)
(うん、動物の勘で察知できるよ)
(小指打つのって、めっちゃ痛いんだ。さ、それを防ぐんだ。きんとん、あかりママに抱っこをせがんでこい。すぐに!)
きんとんが、あかりママの足元に飛んでいった。
それを抱き上げるあかりママ。
「まぁ、きんとんくんは甘えん坊なのかしら」
きんとんを抱き上げることで、あかりママの足の位置が変わった。
よし・・・作戦成功。
僕は、きんとんにアイコンタクトした。
(やったな、きんとん。初仕事、成功だ)
(うん)
僕もあかりママのところに走っていくと、きんとんを床におろした。
(な、こうやって、日々ご主人様の無事を守るんだ。怪我しそうになったり、二人が喧嘩しそうになったり、色んなことを察知しては問題を防ぐ行動をとるんだぞ。それが二人への恩返しだ)
(うん、ボク、できるよ)
あかりママが、まことパパに声をかけた。
「ね、雨上がってるから、散歩行こっか」
「そうだね。きんとんの初散歩、行こっか」
(やったな、きんとん。さっそく散歩に行けるぞ)
そのとき、僕の頭にピーンと来たものがあった。
動物の勘だ。
──このまま散歩に行くと、あかりママが何か受難する!
きんとんも、同じものを感じたらしい。目を見合わせる。
(おい、感じたよな)
(うん。阻止しなきゃ、だよね)
(この流れだと、いくら散歩イヤイヤしても、散歩に出るタイミングが変わるだけだな・・・。直観によると、受難するのは散歩の終わりのほうだから、散歩しながら対策を考えることにしよう)
僕たちは抱っこされて、外に出た。
雨上がりの道路は、少し湿ってる。
いつもの散歩コースなら、川沿いの土手を通って公園に行く。そしてまた同じ道を通って帰る。
(おや、新入りかい、クリン)
ブロック塀の上にいつも座ってる猫が声をかけてきた。
(家族が増えたんだ)
(可愛い子だね。賢そうな目をしてる)
僕はきんとんに説明した。
(いつもここにいる猫のハナさんだよ)
(こんにちは。よろしく、きんとんです)
(二人合わせて、栗きんとんかい。ますます可愛いじゃないかい)
(じゃぁね、散歩行ってくるよ)
僕たちは案の定、川沿いの土手に向かった。
そのときだ。
ピーン!
──水難!
あかりママが、ずぶ濡れになる映像が脳裏に見えた。
まさか、土手から川に落ちたりしないよな。
直感によると、受難は散歩の終わり頃だから、帰り道はなんとか他の道に誘導したいな。
土手を歩くとき、あかりママが何気なく会話を始めた。
「仕事、そろそろどうするか決めないと、とは思ってるんだけど・・・」
「慌てて決めることはないよ、なにか〝これ〟っていう想いが出てくるまでは」
散歩は、僕たちの運動と社交の場である。加えて、ご主人様二人にとっては、夫婦の会話の時間でもある。と、僕は感じてる。
あかりママは看護師さん。だけど、何かの理由で今は休職してる。
数週間前、マンションも引っ越したんだ。前の部屋だとアレルギーがどうとかって話してたな。
引っ越したあとは、それについては解決したみたい。
そんで、復職のタイミングについて決めかねてるようだ。
でもそういう話は、僕らには出番なし。
あかりママとまことパパなら、二人話し合いながら前に進んでいけると思う。
(ここが、公園ってとこ?)
川沿いを何事もなく通り過ぎて、僕たちは公園にたどり着いた。
(そうだぞ。今日は雨上がりだから静かだけど、晴れの日はもっと人で賑やかなんだ)
「地面、けっこう湿ってるね。公園には入らずこのまま帰ろっか」
「そうだね〜」
今だ。川沿いではなく、別の道に誘導・・・。
「なぁに、クリン、きんとん。こっちに行きたいの?」
そうそう。こっちがいいよ。
(アニキ、誘導成功だね)
そのとき、後ろから声がかかった。
「あれ、クリンちゃんのパパママ。二匹目、飼ったの?」
「あ、コジロウちゃんのママ。そうなの。きんとん、て言いまぁす」
「あらぁ、二匹合わせて栗きんとん。可愛いっ」
(きんとん、この飼い主さんはいい人だぞ。覚えとけよ。たまにおやつくれるし)
だけど・・・このコジロウっていうフレンチブル、こいつは何ていうか・・・無口だしイマイチ何考えてるのかわかんないんだよなぁ。だから、ほとんど喋ったことない。
飼い主同士のおしゃべりが終わり、「じゃあね」と別れた。
・・・あれ? また川沿いを帰ろうとしてる。こっちじゃないんだよぅ。
そのときだ。
「あれ、コジロウちゃん」
「なんだか、まだ別れたくないみたいで・・・。きんとんちゃんが気に入ったのかな?」
「じゃ、一緒の道、行こうか」
ホッ・・・。川沿いじゃなくて、住宅地の道を通って帰ることになりそうだ。
そう思っていると、コジロウが話しかけてきた。
(こっち通って帰りたいんだろ。なんだか知らねえけど)
なんだ! コジロウ・・・。
(協力してくれたの!)
(お前、さっき俺のご主人様、褒めてくれたから。お礼だ)
こいつ、いい奴じゃないか。
(あ、次の角で自転車飛び出して来る。俺ちょっと走ってくるわ)
あいつも、ご主人様を守ってんだな・・・。
僕も頑張ろう。
その後、コジロウとも別れて、もうすぐ散歩も終わり。
僕は川沿いの帰り道を回避したことで、水難のことはすっかり頭から消えていた。
ぼんやりと歩いていた、次の瞬間。
猫のハナさんが、あかりママの前を横切って僕の目の前に飛んできた。
キャっと小さい声をあげるあかりママ。
(危なかった。あたしが横切らなきゃ、あんたのご主人さん、つまずいてそこの大きな水たまりに手をつくところだったよ、クリン。あんた、今日は新入りの世話で集中を欠いてたんじゃないかい?)
そう言ってハナさんはどこかへ消えていった。
そうだったのかぁ、ありがとうハナさん。
と、思ったときだった。
一台のバイクが僕たちの横を通り過ぎ、水たまりの水を派手に跳ね上げていった。
それを体いっぱいに受け止めた、あかりママ。
えー!!!
・・・防ぎきれなかった。ショック。
あぁあ〜、久々の自己嫌悪。
あぁぁ。
あぁ。
(アニキ、そんなに落ち込まないで)
(そう言われても・・・落ち込むぜ)
ハナさんの言う通り、こいつ(きんとん)がいなけりゃ集中できてたのかな。
そうだ、きっとこいつのせいだ。こいつのせいで、あかりママがずぶ濡れに・・・。
(でもボク思うんだ。これはまだ結果じゃないんじゃないかな)
ん? なんだって?
(だって、川に落ちるより全然よかったし、ほら何か、あかりママ考えてるよ。これはボクの直感だけど、これを機に変わる未来もあると思う。〝わざわいてんじてふくとなす〟って言うじゃない?)
(お前、難しい言葉知ってるな。だてにペットショップで長く過ごしてねぇんだな)
そうだな。まだ結果じゃない。あかりママの人生は続いてるんだ。
ごめん、きんとん。さっき僕、お前のせいにしてしまったよ。
いい弟分を持ったんだな・・・僕。
あかりママとまことパパが、僕たちを抱えてマンションに戻っていった。
「初めての散歩で疲れたかしら」
「そうだね、二人とも、お昼寝タイムだね」
「・・・ねえ、まこと。私やっぱり獣医の看護師の勉強することにした。いい?」
「あかりが決めたなら、うん」
「さっきね、ずぶ濡れになったとき、感じたの。獣医の看護師さん、目指そうって」
「えー、水しぶきかぶったときに? すごいタイミングだね」
「なんかね、早く目を覚ませって言われた気がして。それに・・・なぜだかそのとき、この子たちからすっごい愛情を感じたのよね。だからやっぱり犬や動物の役に立ちたいって思う」
「うん。・・・じゃぁ、あのバイクに感謝だ」
「そう、なのかな」
ふふ。感謝は僕たちにしてくれよ、まことパパ。
(な、きんとん)
・・・って、きんとんは本気でぐっすり昼寝してんだな。
僕は、見守るよ。お昼寝してても二人のことを。
いつも、ありがとう。
おわり
