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「心理的安全性のあるチーム」が、なぜ凡庸な仕事しか生まないのか|元Googleデザイナーが見た"責任の空席"

「シリコンバレーの会社は、意思決定が速くて、無駄な会議なんてないんでしょう?」

日本の人と話すと、よくこう言われる。正直に言う。あれは幻想だ。

GoogleだろうがMetaだろうが、人が増えれば政治が生まれる。誰かの顔色をうかがい、全員が納得する答えを探し始める。そうやって生まれるのが、誰の心も動かさないプロダクトだ。

ここで多くの人は「会議が多いのが悪い」「合議制が悪い」で話を終わらせる。でも、それは表面でしかない。問題は会議の数じゃない。意見を言うのは全員安全なのに、その意見に責任を取る人間が一人もいない、という状態そのものだ。意見が安全に飛び交うだけで、誰も結果を引き受けない場所。それを私たちは、立派な名前で呼んでいる。「心理的安全性のあるチーム」と。

この言葉の意味を、私たちはたぶん、取り違えたまま使っている。

会議が生む「キメラ」

わかりやすい例が、たぶんあなたの家のリビングにある。テレビのリモコンだ。

ボタンが50個以上あって、半分は一度も押したことがない。なぜこうなるか。営業部は「Netflixのボタンを目立たせろ」と言う。技術部は「詳細設定へのボタンが要る」と言う。サポート部門は「高齢のお客様のために文字を大きく」と言う。その全部に「はい」と答えて、誰も責任を持って「いりません」と言わなかった。結果がこれだ。

ユーザーのことなんて、本当は誰も見ていない。社内の会議を丸くおさめること。それだけを目的に組み上がった、プラスチックの塊だ。

これは家電だけの話じゃない。同じ力学が国の規模で働くと、今度は政策になる。少し前の定額減税がそうだった。「国民の手取りを増やす」というシンプルな目的が、選挙向けのアピール、財政規律への配慮、自治体の事務負担への遠慮、と全員の顔色を順番に立てていくうちに、給与明細にわざわざ減税額を書かせる謎ルールに化けた。誰の意見も無視しなかった結果、経理は疲弊し、国民の多くは「結局、自分がいくら得したのかよくわからない」という虚無だけを受け取った。

これが、合議制の正体だ。悪人は一人もいない。なのに、誰も幸せにならないものが完成する。

なぜ「責任の椅子」はいつも空いているのか

ここで一つ、問いを立てたい。誰も悪意がないのに、なぜゴミができあがるのか。

答えはシンプルだ。「これは入れません。もし失敗したら私が責任を取ります」と言う人間が、その部屋に一人もいないからだ。

どんな組織にも、いつも一つだけ空いている椅子がある。意見を言う椅子じゃない。結果を引き受ける椅子だ。意見を言う椅子はいつも満席なのに、こっちの椅子だけ、なぜか永遠に空いている。

なぜ空いているのか。私はずっと、これは個人の勇気の問題だと思っていた。でも違った。もっと構造的な理由がある。私たちは、その椅子に座らなくていい理由を、立派な言葉で正当化してしまっている。その言葉が「心理的安全性」だ。

心理的安全性を、半分しか輸入していない

先日、AMAの動画にこんなコメントをもらった。

特に印象に残ったのは、Googleの文化として語られていた、「心理的安全性」と「率直な議論」を両立させるという部分です。日本では、心理的安全性という言葉が、「できるだけ波風を立てないこと」のように受け取られてしまう場面も多い気がします。でも、本来はむしろ逆で、相手へのリスペクトを保ったまま、異なる意見や違和感をきちんと出せることが、本当の意味での心理的安全性なのだと感じました。

このコメントは、核心を突いている。

心理的安全性という概念を最初に体系立てたのは、ハーバードのエイミー・エドモンドソンという研究者だ。彼女の定義はこうだ。「対人関係でリスクを取っても、罰せられたり恥をかかされたりしない、という安心感」。つまり、空気を読んで黙ることの、逆だ。違う意見や、まだうまく言葉にならない違和感を、リスペクトを保ったまま口に出せること。Googleが社内で大規模にチームを分析した「プロジェクト・アリストテレス」でも、成果を出すチームの最大の要因として浮かび上がったのが、これだった。

ところが日本に輸入されるとき、この概念は半分になった。「安心して意見を言える」の部分が、いつのまにか「波風を立てない」「みんなが心地よくいられる」にすり替わった。リスペクトある反論、という一番大事な部分が抜け落ちて、ただのぬるま湯になった。

そして、もっと致命的なのは、輸入すらされなかったもう半分のほうだ。

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