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白石孝が語る韓国の民主勢力

 「日韓市民交流を進める希望連帯」代表、NPO法人「官製ワーキングプア研究会」理事長などを務める白石孝さんが2026年3月22日(日)、東久留米コミュニティセンターで行われた「週刊金曜日」北多摩読者会で「韓国の民主・進歩勢力の運動」と題して講演を行った。
 日本で今年2月に行われた衆議院選挙では自民党が圧勝し、左派勢力がほぼ壊滅する結果だった。世界を見渡してみても「おそらく日本しかない現象」だと白石さんは話して、「一番身近なモデルの韓国を紹介して、日本の参考にしてもらいたい」とこの講演の狙いについて語った。
 韓国ではそれまでの軍事政権が終わりを告げ、民主化がなされたのは1987年のこと。白石さんは「87年6月に大民主抗争があって、同12月に大統領選挙で初めての民政が誕生しました。民主化の夜明けでした。それまでは大統領権限が絶対的な軍事政権だったのです」と話す。
 6回目の国の形を大きく変えるという意味で「第六共和国憲法」といわれるそこで大統領権限が弱められ、国会、司法の権限が強化された。
 さらに、白石さんは特に「憲法裁判所」と「国家人権委員会」という独立組織が作られて、いずれも大統領権限の外に置かれたことを強調した。
 97年には金大中大統領が誕生した。白石さんにいわせれば、金大中氏は「人格者ではあったが、完全なる進歩派ではなく中道よりやや左だった」。次の廬武鉉氏は「政策的に完全に左だった最初の大統領でした」。

社会福祉政策全般にわたる分岐点
 2002年、アメリカの車両が道を歩いていた女子中学生2人をひき殺してしまう。それに対して初の「キャンドル行進」が抗議運動として行われた。2010年には「オーガニック無償給食全国大会」が開催される。
 「社会福祉政策全般にわたる分岐点となりました」と白石さん。
 そして2024年、尹錫悦大統領が突如、非常戒厳令を布告したのに対して、一日で200万人を超える市民が集結して抗議運動を展開した。国会では戒厳令解除決議がなされ、大統領罷免決議もされた。
 政権交代を生んだ韓国の一連の「キャンドル革命」は「「市民民主主義=Kデモクラシー」であり、日本以外の国々ではすごく高い評価を受けています」と白石さんはいう。「政党政治と直接民主主義が融合したのです」。
 「「アラブの春」などの市民革命においては流血の衝突が起こるのが常でしたが、韓国では少なくとも2016年から2025年まで一人も死者も出していませんし、一人の逮捕者も出していません」と白石さんはいう。
 90年代までは衝突や催涙弾を使う弾圧などは普通だったが、「2000年代に入るとそういうことを意図的に止めたのです。多くの団体からなる全国連絡会で運動をどのようにするべきかという申し合わせをしました。そこでは非暴力また他人を誹謗中傷しないことを決めました」。
 「2回の無血革命が起きました。現代世界の中でそうした血が流れない政権交代を実現できたのは不思議なこと」だと白石さん。
 「87年の民主化とキャンドル革命は相似形だった。そのことはすごく意味を持っているのです」。

韓国の極右と米トランプ支持層
 「韓国において、極右や反ジェンダーは圧倒的に少ない。牙城は中部大邱(テグ)で、そこから日当で動員されてくるおじいちゃん、おばあちゃんたちなんです。それはちょうど米トランプ支持層と全く同じで、プロテスタント極右集団なのです」。
 白石さんが現地で眼にしたキャンドル革命では、若い女性たちが赤いボード(冒頭の写真で白石さんが持っている)を持って歩いていたという。
 「韓国は大民主化の実績がある一方で日本は与えられた民主主義」という違いがあって、簡単には比較できないとよくいわれる。
 韓国では普通の市民たちがテレビなどのインタビューに出てくるが、「日本では世間話では政治の話をしますが、公には、例えば、会社の人たちとは関係を維持するため政治の話を避ける。忖度をします。意見を出し合うというのが本当ですが、そうした民主的な空気を作れない」と白石さんは見る。
 日本でもかつて学生運動が活発だった。とはいえ、内ゲバと連合赤軍事件によって「内部から潰れてしまった」(白石さん)。
 「70年の国鉄ストを見ていると、日本の政界、財界が危機感を持って、それが日本経済団体連合会会長の土光敏夫=中曽根康弘首相(いずれも当時)による、社会党と総評をつぶすためことが’(裏の狙いだった)第2臨時臨時行政調査会(第2臨調)となった」。
 ただ、日本の市民運動が全くなくなってしまったわけではない。最近でも安倍内閣による安保法制に抗議する国会前の集会に10万人もの人々が集まった例もあると白石さんは指摘した。
 「韓国の戒厳令布告といったような民主主義にチャレンジするような事態が起きたら、日本人も韓国同様に通りにみんなが出て抗議するのだろうか」という問いに白石さんは直接は答えずに上記のような過去を語ったうえで、次のように話した「若い人たちが新しい知識と感覚を積み上げて行くと、それなりの動きになっていくと思います」。

韓国でいう「親日」「反日」とは?
 キャンドル革命の後、2025年6月に誕生した李在明大統領。「李大統領のことは日本ではほとんど紹介されていません。ただ、大統領に当選した時には「反日大統領」が誕生したと日本のマスコミは報道しました」。
 日本のマスコミは韓国の政治家を「反日」か「親日」かとよくいうが、「韓国でいう「親日」とは、日本帝国主義に協力した人のことを指すのです。日本で親日というと日本に友好的だと捉えられますが・・・」と白石さんは説明した。「日本のメディア報道はとんでもなく浅い」。
 李大統領は2025年6月4日に就任演説、翌1月1日の新年の辞の中で、「実用」外交を打ち出すとともに、「戦争脅威を抱いて生きるこの不安な成長」から「平和が支える安定的成長」への大転換を唱えた。
 「実用」外交に関しては、李大統領は今年1月に国賓として訪中し、首脳会談を開いた。「韓米日」という軍事協力関係が「現実でありながら、それだけではないときっちり行動で示したということです。自由主義社会にいながら、中国との関係も作っている。それが実用外交なのです」
 「台湾で事が起きたらそれは日本にとって「存立危機事態」に当たるとの発言をして中国を怒らせた高市さんとは明らかに違う。訪米してトランプさんと関係を結んだ高市さんとは違う」
 そして忘れてはならないのは朝鮮戦争はまだ終わっておらず停戦しただけの「戦争状態」にあるのが朝鮮半島であるということだ。
 白石さんは「軍隊があって徴兵制を敷いている国でありながら、軍事力を使わないことこそ平和だと韓国は言っている。それは、日本で「憲法9条を守れ」と言うよりもっと重い言葉です」と話す。
 李大統領の国内政策については「日本の立憲民主党よりも左で、共産党などに近い」という見方を白石さんは示した。

5200万人口の韓国から800万人が訪日
 白石さんは李大統領の内政について、「成長は大企業に還元されるだけでなく、国民にも均等に分かち合えるように」「現場仕事こそ一番大事で、同じ仕事をしている正規、非正規は同賃金であるべきで、非正規労働者の賃金は引き上げられる方向になっている」と話した。
 さらには「Kポップ」や「Kビューティ」といわれるような韓国の人気コンテンツにも白石さんは言及し、そうしたことへのお互いの関心の高まりなどもあって市民の行き来が激増していると指摘した。人口が5200万人の韓国から年800万人が日本を訪れているという。
 「それをきちんと経済に反映させていこうとしている」のが李大統領の政権だと白石さんは話した。
 ちなみに韓国の人気ポップグループBTSがこのほど久方ぶりに開いたコンサートの会場となったのはキャンドル革命の舞台ともなった、朝鮮王朝時代の王宮「景福宮」前の光化門広場である。
 象徴的ではないか。

白石孝さんが編著を務めた「ソウルの市民民主主義」(コモンズ)



 

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