「のんのんびより」① 「れんげとほのかちゃんとの関係性」
⓪はじめに
日常を題材にした作品をたくさん見てきた中で、「のんのんびより」は特に好きな作品の一つだ。あまりにも好きで、いつでも脳内再生できるように何度も何度もリピートした。この作品の良さはあまりに多岐に渡る。シュールなギャグや独特のワードセンス、ボケの渋滞など下手なお笑い番組を見るよりこっちのほうがよっぽど面白い。登場人物たちも一人一人非常に魅力的で、彼女たちの関係性が実に美しい。毎日が楽しいであふれていて、永遠に続く夏休みのような日々が続いていく。幼いころの懐かしい時間が蘇ってくるようなそんな作品で、とてもではないが良さを語り切れない。
そこで、僕個人としてはこの作品の最大の魅力は優しい世界観にあると思っているので、その点を強く感じるエピソードを紹介していきたい。
具体的には、①れんげとほのかちゃんについて、②れんげとだがしやについて(2期第10話などを中心に)、③こまちゃんとぬいぐるみについて、④こまちゃんと料理について、⑤単話として好きなエピソードについて(2期第6話、第7話など)の全5回に分けて紹介していく。ただし、ところどころ誤りを含んだ記述をしてしまうかもしれないが、ご容赦いただきたい。
なお、テレビアニメ「のんのんびより」は「のんのんびより」「のんのんびより りぴーと」「のんのんびより のんすとっぷ」の3部作で構成されるが、以下それぞれ1期、2期、3期と呼ぶことにする。
①れんげとほのかちゃんのひと夏
様々な登場人物同士の関係性が描かれる中で、特に言及したいのがれんげとほのかちゃんとの関係性だ(1期第4話・3期第10話)。
まず、1期第4話「夏休みがはじまった」でれんげが、夏休みにおばちゃんの家に里帰りしていたほのかちゃんと橋の上で出会うところから始まる。ほのかちゃんはお父さんからカメラを借りて、村の風景を撮影しているところだった。そこで、れんげはほのかちゃんに写真を撮るのにいい場所があると言ってそこまで案内することを申し出る。どうやら、この橋から目的地まではそこそこ距離が離れているようで、どこに連れていかれるのだろうかとほのかちゃんは不安そうにれんげの後をついていく(かなり距離を置いて後ろの方を歩いている描写があるのでたぶん間違いないだろう)。そして、たどり着いたのが鄙びた水車の前だった。ほのかちゃんは水車を見たのが初めてで、水車の写真を何枚も取って非常に喜んでいた。ほのかちゃんはれんげが写真を撮りたそうにしているのを見て、カメラを貸してあげる(ここを含めいくつかのシーンから、ほのかちゃんは恐らく相手の感情を読み取るのが上手い人物として描かれているように思われる)。れんげも水車の写真を何枚も取った。カメラ魂に火がついたらしい(ここの「もっと光を。ライチングを」ってセリフが演出も相まって何気に面白い)。
れんげにとっては日常の風景であっても、ほのかちゃんにとって田舎の風景はとても目新しいもので、そんなほのかちゃんの反応はれんげにとっても、とても新鮮なものだったのだろう。自分が紹介した場所を気にいってくれたのももちろん嬉しかっただろう。そして、ほのかちゃんとれんげは同学年だった。こうして、2人は互いに打ち解けあい友達になった。年上しかいない環境で過ごしてきたれんげにとって、ほのかちゃんは初めての同学年の友達であった。
次の日、れんげはほのかちゃんを村の色々なところに連れていく。ひまわり畑を駆けていき、小川でカニを捕まえたところを再現し(たぶん、こんな風にカニを取ったんだよって会話が直前にあったのではないかと推測→同じ話の一番最初の方に小川でカニを捕まえるシーンがある)、お地蔵さんのいる石段で休憩して、野良猫と遊んで、具(タヌキ)を呼び出して、雨に降られて木の下で雨宿りをして、水たまりのある畦道を二人並んで歩いて…(ここで流れるBGMが個人的にはすごく好き)。そして、次の日は小さな滝を見に行くと約束して、二人は別れる。
翌日、ほのかちゃんと遊べると思って朝早くから張り切って家を飛び出したれんげは、ほのかちゃんのおばあちゃん(石川のおばあちゃん)の家まで息を切らせて駆けていく。そこで、石川のおばあちゃんからほのかちゃんが帰ってしまったことを告げられる。ほのかちゃんはお父さんの仕事の関係で急遽帰ることになり、れんげに挨拶できず、昨晩のうちに村を離れてしまっていたのだ。
このシーンにおいて、石川のおばあちゃんが家の扉を閉めてから①外の音が消えて、ここから30秒近くれんげの顔のアップが映し出される。その後、②外の音が再び入ってきて20秒近くれんげが泣く様子がアップで描かれる。そして、③ほのかちゃんと一緒に周った水車や石段、小川の風景が映し出され、最後に二人が出会った橋の上をれんげが一人でとぼとぼと歩いて帰っていく様子が流れる。
この一連の演出が本当に素晴らしいと思っていて、まず、①のシーンについて、外の音が遮断され、表情が変わらないれんげの顔をアップで映すという演出は、ほのかちゃんが帰ってしまったという状況をれんげがうまく理解できない様子を上手く描いている。そして、②のシーンで外の音が戻ってくるのはれんげが状況を理解したからであり、そしてもうほのかちゃんとは遊べなくなったということを実感したから涙が溢れてきたのだろう。そして、このシーンを20秒近く使って描くことで、れんげにとっていかにほのかちゃんと過ごした時間が楽しかったのか、その時間が唐突に終わってしまったことがどんなにショックだったかを描き出すことに成功している。そして、③のシーンでほのかちゃんとの思い出を想起させる場所を描き、最後に二人が出会った橋の上をれんげが一人でとぼとぼ帰っていく様子を描くことで、ほのかちゃんが帰ってしまったことがより強調される。
あまり感情を表に出さないれんげがここまで感情を露にするのは珍しい。特に、小学生になったれんげが泣くシーンは本作品を通してこの1回限りではないだろうか。それほど悲しかったということだろう。その理由として、3期第10話の発言を素直に受け取るなら、ちゃんとほのかちゃんにさよならが言えなかったことを指摘できるだろう。また、単純に考えれば突然楽しい時間が終わってしまったことへのショックが原因だろう。しかし、これだけでは涙した理由としては弱いように思う(さらにこのあとれんげは1週間近くいじけることになること、決して幼稚な性格ではないことを併せて考えれば、この理由だけでは説明が難しい)。もっと、別の理由もあるのだろう。それは、むしろほのかちゃんにさよならを言ってもらえなかったから、言い換えれば、自分にとってほのかちゃんと遊ぶ時間はとても楽しくて特別だったけど、ほのかちゃんにとってはそこまで自分と遊ぶ時間が特別ではなかったのではないかと不安に思ってしまったことではないだろうか。
れんげには年上の友達しかいなくて、一番年が近いほたるんとも4学年離れている。そんな中、れんげにとってほのかちゃんは初めてできたたった一人の同い年の友達なのであって、やはり年上の友達とは違う特別な思いをほのかちゃんに対して抱いていたはずだ。しかし、ほのかちゃんはきっとここより田舎ではないところに住んでいて、そこにはたくさんの同学年の友達がいるのだろう。そうだとしたら、ほのかちゃんにとってれんげはたくさんいる友達のなかの一人にすぎない。れんげにとってほのかちゃんと遊んだ時間はとても楽しくて特別なものだったから、ほのかちゃんも同じ思いでいてくれるはずと信じていたけど、実はそうではなかった。だから挨拶もせずに帰ったのだと思ってしまったのではないか。そのショックで涙を流したと考えると色々と説明をつけやすい。こういう経過を辿っていたら綺麗だなって主観が働いてしまっているし、れんげはまだ小学1年生だということを考えれば(天才肌の1年生ではあるけど)深読みのし過ぎかもしれないが、少なくともれんげにとってほのかちゃんはかなり特別な存在であったことは間違いない。
故に、ほのかちゃんが帰ってから1週間近くいじけていたれんげはほのかちゃんからお礼の手紙が届いた途端、ものすごくはしゃいで、お昼ご飯も後回しにして、すぐに返事を書こうとしているのだろう。つまり、ほのかちゃんからお礼の手紙が届いたということは、ほのかちゃんにとってもれんげと過ごしたひと夏は楽しくて特別だったということを意味し、れんげはほのかちゃんも自分と同じ気持ちでいてくれたことを実感できて、安心し、心の底から嬉しい気持ちになって、そのことを自分も早くほのかちゃんに伝えたいと思ったのだろう(ほのかちゃんから届いた手紙の中に2人が映った写真が入っていたことからも、ほのかちゃんにとってれんげと過ごした時間が大切だったことが分かる)。
②正月に帰省したほのかちゃん
3期第10話ではお正月を描いているが、れんげはどうやら誰から年賀状が届くのを待っているらしい。分校の友達から年賀状が届いても、物足りないような表情を浮かべ、それでも年賀状が来るのを期待している様子からしてほのかちゃんからの年賀状を待っているということだろう。そこへ、ほのかちゃんの家から電話がかかってきて、ほのかちゃんがこちらに里帰りしていることが明らかになる。そして、れんげはほのかちゃんと会いにすぐに家から飛び出していく。
れんげとほのかちゃんは再会して、いろんなところを回る約束をする(このときの嬉しそうな様子で不覚にも涙)。れんげはまず、ほのかちゃんを駄菓子屋に連れて行く(ほのかちゃんを一番最初に連れて行きたかった場所が駄菓子屋だというのも、れんげとだがしやとの関係性を考えれば感動する)。そこで、たくさんの駄菓子を目にしてはしゃいでいるほのかちゃんを見てれんげがとても嬉しそうにしている(夏休みのときもこんな気持ちがしたと思い出してもいるのだろう)。ここで、ほのかちゃんにいつ帰るのか聞いたのはふと、この楽しい時間はいつまで続くのか不安になったからだろう。ほのかちゃんは明後日には帰ってしまうらしく、始まったばかりなのにすぐに終わりが来る寂しさをれんげは感じている(ここで、だがしやが何かに気づいている様子が映されているが、これは後にれんげに福袋と称して駄菓子の詰め合わせを渡しているシーンにつなげるためだと思う)。2人はヨーグルトの駄菓子を一緒に買って食べる。日が暮れるまで遊んで、二人は橋の上で別れる。
次の日、二人は雪だるまを作って、ちょっとした斜面を滑って、雪山を見て…、たくさんの思い出を作った(小さな滝にも見える風景も描かれているので、夏休みのときの約束も果たせたのかもしれない)。この日は、れんげがほのかちゃんを家の所まで送っていくのは、明日ほのかちゃんが帰ってしまうということで、少しでも長く一緒にいたかったからだろう。家のところに着いて、明日にはお別れであることを改めて実感し、悲しい気持ちが表情に出てしまったところ、そのことに気づき、そんな表情をほのかちゃんには見せたくないと思ったのだろうか、さよならもそこそこにれんげは走って帰ってしまった。その夜、れんげは寝付けなかった。
次の日の朝、家にはだがしやが来ていて、れんげに福袋といって駄菓子の詰め合わせを渡す。これを受け取ったれんげは、ほのかちゃんが帰る前にこれを渡したいと思って家を出ていく(このシーンにおいて、だがしやがいかにれんげのことを大切に思っているかが如実に表れているように思う。先ほどの駄菓子屋のシーンでほのかちゃんがれんげにとって大切な友達であること、そして明後日帰ってしまうことをだがしやは把握し、お別れのときにほのかちゃんに渡すお土産として駄菓子をれんげに持たせてやりたいと思ったのだろう。はじめからその目的で渡したことは、袋の一番上に2人が買って食べたヨーグルトの駄菓子を入れていること、さらにれんげがだがしやにこれを誰かにあげてもいいのかと尋ねたところ、驚く様子もなく、誰にあげるのかとかも問わずに、れんげのものなんだから好きにしろと答えているあたりから伺える)。
ほのかちゃんは帰る直前になってもれんげが来るのを待っていた。母親からもう行くよと言われていよいよ車に向かおうとしたとき、れんげがやってきた(この時のほのかちゃんの振り向きざまの笑顔に二度目の涙)。れんげはほのかちゃんに駄菓子の詰め合わせを渡す。これを受けてほのかちゃんは身につけていたお気に入りのネコの髪飾りの片方をれんげにあげる。
ほのかちゃんがネコの髪飾りをれんげにあげたのは、駄菓子に対する単なるお礼の意味に留まらないだろう。駄菓子はほのかちゃんにとって、もらって嬉しいものだが、れんげにとっても欲しいものであったはずであり、そんなものを自分にくれる以上、自分も何か大切なものをれんげに渡したいと思ったのではないか。大切なものだからこそれんげに渡したかったのであって、さらにこの髪飾りは2つあるのでお揃いにもなる。同じ体験をした時に同じ思いを共有してくれるのが親友ならば、まさしく2人は親友になったと言え、その証としてネコの髪飾りが渡されたのだと理解する。
その後、れんげはほのかちゃんとちゃんとさよならを言い合って、明るい気持ちでほのかちゃんを見送っている。夏休みのときはさよならを言えず見送ることができなかったが、今回はちゃんとさよならを言えたのだった(れんげの最後のセリフについて、今度はちゃんと明るい気持ちで見送ることができてよかったという意味合いもあるような気もする→ほのかちゃんの表情に注目すると、このシーンより前に、ほのかちゃんが帰ることを想起させるようなセリフが出てきたとき、れんげは恐らく悲しい顔をしていて、それを見たほのかちゃんがはっとしたような表情をするところが描かれていたが(2度ほど)、このシーンにおいてはれんげがさよならを言った後に、ほのかちゃんはしばらく真顔になって、それから笑顔でさよならを言っている。れんげが悲しがっていないか、暗い気持ちになっていないかを確認した上で、そうではないと判断して笑顔でさよならを言っているのだろう。だとすれば、れんげが明るい気持ちでさよならを言えたのも今回が初めてであってそのような意味もあるのではないかと考えた)。
なお、以降れんげはずっとこのネコの髪飾りを付けている。
注1:加賀山楓をあだ名で呼ぶときの表記は「駄菓子屋」と漢字で書くことが一般的だが、実店舗としての駄菓子屋と表記の上で混同するおそれがあるので、あえてだがしやとひらがなで書いている。
③まとめ
れんげとほのかちゃんとの関係性はあまりに尊く、現実世界に汚染された心が浄化されていくような心地さえする。現実はあまりにも醜く、アニメの世界は現実ではないが、このような世界を描き出せる人が現実にいることは確かで、心の中にこのような世界を留めておくことは現実でもできる。それだけが救いだ。このような登場人物同士の関係性を緻密に美しく描き出していけるのは、むしろ劇的な展開がないからこそとも言え、日常を題材にした作品の真骨頂だと思う。
「のんのんびより」のキャラクター同士の関係性を丁寧にかつ美しく描き出すという良さがとてもよく表れているのがこの2人の物語であると思う。そして、この2人の物語が描かれるのは1期第4話と3期第10話の2話のみなので、作品の入り口としてもハードルが低い。ぜひここから見始めてほしい。もし、いいなと思えば1期の第1話から順番にぜひ見ていってほしい。きっと、もっとこの作品の良さに気づくことができるだろう。
作品の案内
のんのんびより (アニメ) | 無料動画・見逃し配信を見るなら | ABEMA
TVアニメ『のんのんびより のんすとっぷ』公式サイト
