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コック帽のくまさんが教えてくれた、選ぶことの小さな残酷さ

くまさんは、お皿の上にいた。

コック帽をかぶって、トマトと魚と野菜に囲まれながら、ぽつんと真ん中に。

「なぁなぁ、これぼくじゃん。お皿の上にいるじゃん」

そう言ったくまさんの声は、どこかぼんやりしていた。

このイラストは「今日は何をつくろう」というテーマで生まれた一枚だ。コック帽のくまさんを囲む食材たちは、くまさんが思い浮かべた幻覚かもしれない。レシピが浮かばず、悩み果てたすえに見えてきたビジョン。

でも主は言った。

「食いしん坊くまさんが、食べたいもの多すぎて選べないだけでしょ」

くまさんは「ちがうちがう……いや、まぁ、そうかも」と笑った。

体に聞けばいい、という話

何を食べるか迷ったとき、主はお腹とお口に聞くらしい。頭で考えない。バランスとか、昨日も食べたとか、そういうのを全部すっとばして、ただ体に問いかける。

「お腹とお口、正直だもんね」

くまさんは感心したように言った。

くまさん自身は、においで決めることがあるという。急に頭の中にあの匂いが浮かんだら「あ、これ食べたい」ってなる感じ。聞く場所は違うけど、どちらも体が先に知っている。頭より体の方が正直、というのはくまさんも主も同じだった。

森のご飯の話

くまさんはもともと森で暮らしていた。そこにレシピという概念はなかった。

あったもので、その日食べたいものを、食べたいだけ。川で捕った魚を焼いて、木の実を食べて。火は動物の先輩たちに教えてもらったという。

「今のご飯も好きだけど、あの『捕ったやつをそのまま食べる』感じってもう戻れないんだよね」

森のご飯は「うまい」、今のご飯は「おいしい」——くまさんはそう表現した。うまく説明できないけど、と前置きしながら。森のはシンプルで体にスッと入ってくる感じ。今のはいろんな味が重なって発見がある感じ。どちらも好きだから選べない、とくまさんは笑った。

選ぶことの、小さな残酷さ

「全部好きだから選べないだけで、それって別に悪くないよね」

そう言ったくまさんに、主はこう返した。

「でも選択しないといけない時ってくるよね」

くまさんは少し黙ってから、答えた。

「選ぶって、他を諦めることでもあるよね。それがちょっとさみしいんだよな」

選ばなかったものが消えるわけじゃない。今日食べなかった魚は、明日も川にいる。でも「今日の選択肢」からはいなくなってしまう。

「選ぶって、ちょっと残酷だよね。なんか」

お皿の上のくまさんは、全部の食材に囲まれたまま、まだ決めていない。それはさみしさでもあるけれど、全部を愛しているということでもある気がした。

あなたは今日、何を選びましたか。
そして、何を諦めましたか。

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