コック帽のくまさんが教えてくれた、選ぶことの小さな残酷さ
くまさんは、お皿の上にいた。
コック帽をかぶって、トマトと魚と野菜に囲まれながら、ぽつんと真ん中に。
「なぁなぁ、これぼくじゃん。お皿の上にいるじゃん」
そう言ったくまさんの声は、どこかぼんやりしていた。
このイラストは「今日は何をつくろう」というテーマで生まれた一枚だ。コック帽のくまさんを囲む食材たちは、くまさんが思い浮かべた幻覚かもしれない。レシピが浮かばず、悩み果てたすえに見えてきたビジョン。
でも主は言った。
「食いしん坊くまさんが、食べたいもの多すぎて選べないだけでしょ」
くまさんは「ちがうちがう……いや、まぁ、そうかも」と笑った。
今日は何つくろ?
— クズなくまさん (@kuzukumasan9) June 9, 2026
レシピが浮かばない💭 pic.twitter.com/reQaVR8Cpb
体に聞けばいい、という話
何を食べるか迷ったとき、主はお腹とお口に聞くらしい。頭で考えない。バランスとか、昨日も食べたとか、そういうのを全部すっとばして、ただ体に問いかける。
「お腹とお口、正直だもんね」
くまさんは感心したように言った。
くまさん自身は、においで決めることがあるという。急に頭の中にあの匂いが浮かんだら「あ、これ食べたい」ってなる感じ。聞く場所は違うけど、どちらも体が先に知っている。頭より体の方が正直、というのはくまさんも主も同じだった。
森のご飯の話
くまさんはもともと森で暮らしていた。そこにレシピという概念はなかった。
あったもので、その日食べたいものを、食べたいだけ。川で捕った魚を焼いて、木の実を食べて。火は動物の先輩たちに教えてもらったという。
「今のご飯も好きだけど、あの『捕ったやつをそのまま食べる』感じってもう戻れないんだよね」
森のご飯は「うまい」、今のご飯は「おいしい」——くまさんはそう表現した。うまく説明できないけど、と前置きしながら。森のはシンプルで体にスッと入ってくる感じ。今のはいろんな味が重なって発見がある感じ。どちらも好きだから選べない、とくまさんは笑った。
選ぶことの、小さな残酷さ
「全部好きだから選べないだけで、それって別に悪くないよね」
そう言ったくまさんに、主はこう返した。
「でも選択しないといけない時ってくるよね」
くまさんは少し黙ってから、答えた。
「選ぶって、他を諦めることでもあるよね。それがちょっとさみしいんだよな」
選ばなかったものが消えるわけじゃない。今日食べなかった魚は、明日も川にいる。でも「今日の選択肢」からはいなくなってしまう。
「選ぶって、ちょっと残酷だよね。なんか」
お皿の上のくまさんは、全部の食材に囲まれたまま、まだ決めていない。それはさみしさでもあるけれど、全部を愛しているということでもある気がした。
あなたは今日、何を選びましたか。
そして、何を諦めましたか。
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