これが、あなたに対する愛だから。
出会った頃からあなたは、ずっとがんばり続けていた。わたしといっしょになってからは、家族を守るために、ますます深いところまで潜っていくように働いた。
あなたが毎日、息が続くかどうかもわからないほど深く潜っていくのを見て、わたしはいつも胸がぎゅっとした。
「そんなに潜ったら、もう息がもたないよ」
「体、もうボロボロだよ」
泣きながら訴えるわたしの声も、深い海へ潜ってしまったあなたには届かない。
一体、海の底で何を探しているのだろう。何と戦っているんだろう。わたしには、ずっとわからなかった。
だから、あなたをひとりにしておけなくて、わたしも海に入るようになった。
あなたが潜る前に、体力が持つようにご飯を作って食べさせて、上がってきたら呼吸が整うまでそばにいて、疲れた体をさすって、夜は子守唄まで歌った。
でも、目を離すとすぐ海に潜ってしまう。何日も何日も帰ってこない。足が痛くても、腕が動かなくても、あなたは必死に海に潜り続けた。
「家族のため──」
そう言うあなたに、何度も、何千回も訴えた。
「お金なんかいらない。何にもいらない。
ただ元気なあなたに、そばにいてほしい」
それでも、あなたは海に潜ることをやめなかった。
いっしょに潜り続けたわたしは、
いつしか海がだいきらいになった。
あんなに大好きだったのに。
もう、見るのもいやになるほど。
だから、言った。
「海のない世界に行きたい」
「あなたはどうする?」
その答えがほしくて、
その言葉をやっとの思いで差し出したのに、
あなたはまた、海に潜っていった。
わたしは諦めない。
たとえ深く潜ったとしても、
絶対に引き上げてみせる。
あなたのこと置いていったりしない。
もしかして、
海に潜る以外の人生を知らない?
ずっとひとりで、戦っていたの?
こんなに長くいっしょにいるのに、
あなたのこと、わかっていなかったのかもしれない。
ほんとうは毎日、泣きながら潜っていた?
濡れてるのは海水じゃなくて、あなたの涙だったの?
ほんとうは足が痛くて、海にも行きたくなかった?
腕が痛んで動かせなくて、潜るのが怖かった?
ごめんね。
わたし、わかっていなかった。
あなたもずっとつらかったんだね。
もう、いいよ。
休もう。
「男だから」とか「女だから」とか、
「家族を守るため」とか。
そんなの、もうどうでもいいよ。
そんなボロボロなあなたを見ていて、
わたしが毎日を楽しめると思う?
ねえ、あっちには海がないんだって。なくてもみんな暮らしていけてる。大丈夫だよ。
海にだって潜ることができるあなた。だから、なんでもできるって。ほら、手、出して。もう、離さないよ。ずっと、離さないから。
「もう、あなたががんばるのは、おしまい」
これが、わたしの愛だから。
あなたが毎日、どこも痛くなくて、
なんの心配もしないで、笑ってるの。
わたしは、それが見たい。
もしも、
あなたががんばり続ける理由に、
わたしがいるのなら──
やっぱり、
わたしの手、
離してもいいよ。
手をつないでない方が、
あなたが息がしやすいなら、さ。
うん……。
ちょっと寂しいけれど、わたしはその方がいい。
これが、わたしの愛だから。
あなたの笑顔のためなら、
わたしはいつでも、笑っていられるよ。
あなたのすこやかな生活のためなら、
わたし、ちょっと離れても大丈夫だよ。
いつも、いつまでも、あなたを想っているから。
ずっと、ずーーーーっと、大好きだよ。
愛しているよ。
愛をたくさんくれて、ありがとう。
あなたの手、あたたかいね。
いつも、そのあたたかさを感じていたいな。
やっぱり。
……ね。
その手は離したくないよ。
もうすこし、握らせて。
もう、濡れてないね。
冷たくない。
あたたかいよ。
……ありがとう。
音羽しーなさんが、朗読してくれました。
