その時間、目を開けてはいけない|短編小説
「4時44分〜!やった、ゾロ目。最近しょっちゅうこの時間に、時計に呼ばれるんだよね〜。もう何日連続かな」
母とたまご焼きを作っていると、はしゃぎながらサキはこう言った。
母は、凍りつく。
「あんた…、4時44分だって?やめてよ……ほんと」
青ざめた顔で母は、震え出した。
「何?怖いんだけど。やめてよ」
サキは、母のただならぬ様子に不安を覚えた。
「ねえ、お母さん?4時44分がどうかしたの?」
母は手にしていた卵焼き器をゆっくり置いた。
「……昔ね、うちの家系に、夜中の4時44分に“同じ夢”を見る子が続くって、話があったの。たぶん、迷信よ。けど……あんた、最近、変な夢とか見てない?」
「夢?うーん、あ、でも昨日、夢の中で“まくらのそうしき”って言葉が出てきた。なんか、おばあちゃんが枕に白い布かけて、笑ってて──」
「ちょっと待って……」
母の手がピクリと止まる。
「それ、“まくらの草子”じゃない?」
「そうなの?でも夢の中では“まくらのおそうしき”って聞こえたよ。子どもたちが、その枕を運んでて……しかも、その枕、たまご焼きの匂いがした」
母の顔から、完全に血の気が引いた。
そして、ゆっくりと言った。
「“まくらの草子”っていうのはね、うちの村に昔あった……記録の名前なの。布に包まれた枕の下にね、一人ひとりの名前と、最後に食べたもの、それと──最期に残した表情と、誰を見ていたかが記されていたのよ」
「……何それ……?」
「それが“草子”──つまり、記された子たちの物語だった。消えないように、忘れないように、ずっと記録されていたの」
「夢の中で枕を運んでた子どもたち……もしかして──」
「そう。あの子たちはね、自分の“まくらの草子”を、まだ見つけてもらえずにいるのかもしれない……」
昔、この村では、子どもが増えて大変だった。その子どもを親たちは、泣く泣く黄色い布に包んでそのまま……。
“まくら“と“たまご焼き”は、その儀式の象徴だった。
ふかふかの枕に、ほんのり甘い香りを添えて。
村では、「たまごの夢を見ているあいだに、天に還れる」と信じられていたという。
「それって、昔話でしょ?」
サキは、笑って言おうとしたが、喉が詰まった。
──笑えなかった。
思い出したのだ。
最近の夢のなかで、自分が何をしていたのか。
白い布をかけた枕を、サキはたくさんの子どもたちと一緒に重く苦しい表情で運んでいた。
その手が、あたたかかったこと。
その枕から、甘くて、懐かしい匂いがしていたこと。──たまご焼きの匂い。
サキは、自分の手のひらを見た。
黄色い何かが、うっすらと染みついているような気がした。それはただの卵液なのか、それとも……?
「……サキ。今夜は絶対に、夢を見ちゃダメよ。今日は……、4月4日だから──」
母が言い終える前に、サキは鳥肌が止まらなくなった。
「目が覚めても、絶対に時計を見ちゃダメ。とくに──4時44分だけは……絶対に。」
ピピピピピピ…
アラームをかけてないはずの目覚ましが鳴った。
サキは怖くて目を開けることができない。たまご焼きのにおいがふわっと鼻をかすめたから──。
そして、枕の下が何かで少し重くなっていた。
こちらの企画に参加しています。
やっぱりホラーになってしまう……。だけど、最近この三題噺でホラーを考えてるときが、1番たのしいかもしれない(笑)
