ダニング=クルーガー丼
今日、仕事の会議中に「ダニング=クルーガー効果」という言葉が出てきた。
その言葉に聞き覚えはあったのだが、意味を思い出すことはできなかった。
そこでこっそり意味を調べたところ、「自身の知識や能力が不足しているにもかかわらず、それを過大に評価してしまう心理現象」のことだという。
またひとつ勉強になったなと思うと同時に、私は今日の社食での出来事を思い出していた。
先輩と社食に行ったのだが、先輩が食べたチーズ牛丼の実物が、写真と比べると少し「あれ…?」という感じだったらしく、寂しそうな顔を浮かべていたのである。
私はここにダニング=クルーガー効果を感じた。
すなわち、写真の中のチーズ牛丼は自信満々に見えて期待が高まっていたのだが、それは過大評価で、実物は思ったほどではなかったという意味で、ダニング=クルーガー効果と結び付けられると思った。
そこで、私はダニング=クルーガー効果を忘れないように、今日先輩が食べていた少し写真映えしないチーズ牛丼を「ダニング=クルーガー丼」と名付けることとした。
これでもうダニング=クルーガー効果を忘れることはないだろう。
そこで私はあることを思いついた。
それは、
覚えにくい用語を丼に結び付けることで、それらの用語を記憶に定着させることができるのではないか?
ということである。
思い立ったらさっそくやってみよう。
私が毎回忘れてしまう用語、「ウィドマンシュテッテン構造」で試してみる。
ウィドマンシュテッテン構造とは、雑に説明すると、鉄とニッケルの合金が数百万年かけてゆっっっっっくりと冷やされることで作り出される結晶構造である。
現在の技術では人工的に作り出すことが不可能なため、この構造が現れていると本物の隕石であることの証明にもなる。
そんなロマン溢れる用語だが、如何せん名前が覚えにくい。
そこで、丼に結び付けてみる。
ウィドマンシュテッテン構造。
「テン」という2文字があることから、「天丼」と結び付けるのがいいだろう。
私は、誰にも食べてもらえずにゆっっっっっくりと冷めていった天丼を思い浮かべた。
「ウィドマンシュテッテン丼」である。
これなら覚えられるかもしれない。
丼(どんぶり)記憶法に可能性を見出し始めた。
では「シミュラクラ現象」はどうか。
これは、3つの点や線が逆三角形に配置されていると顔に見えてしまうという現象だ。
「クラ」という2文字があることから、「イクラ丼」と結び付けるのがいいだろう。
私は、イクラを逆三角形に配置した丼をイメージし、「シミュラクラ丼」と名付けた。
これで記憶に定着したぞ!
私は興奮してきた。
これですべての用語を覚えることができるかもしれない。
この勝負、もらった。
全能感に溢れてきたそのとき、ある言葉が脳裏に浮かんだ。
「自身の知識や能力が不足しているにもかかわらず、それを過大に評価してしまう心理現象」
あ、あれ?
なんかそんな用語があったな…
なんだっけ…
必死で思い出そうとする。
たしか丼と結び付けて…なんか期待はずれみたいな丼…
イクラが3粒だけ乗った丼だったか…?
いや違う…
冷めてしなしなになった天丼だったかも…
いやそれも違うな…
そこで、私は気付いてしまった。
丼を概念に無理やり当てはめた結果、特定の丼が複数の概念を表すことになってしまったのだ。
写真で自らを過大評価している丼は「ダニング=クルーガー丼」のはずだったのだが、「ウィドマンシュテッテン丼」もがっかり感は同じだし、それは「シミュラクラ丼」にも当てはまってしまう。
丼と概念が一対一対応でないため、記憶に定着するはずがないのだ。
すっかり自信を失ってしまった私の頭には、みすぼらしい丼ばかりが残っていた。
