さくらは食べるものじゃなくて見るもの
カッフェーでバイトして10何年か経つ。コーヒーを飲まないのに(体調が悪い時に飲むとお腹が痛くなるから)カッフェーで働き続けているのは生活リズム(深夜働くのが無理だから早朝から昼過ぎまで働く)に合っているから、という理由だけである。まぁそれは良いとして。
カッフェーではこのぐらいの季節になると決まって“さくらオレ”なり”さくらラテ”なり、さくら味の新商品が出る。またこの季節か…と日々の移ろいを感じつつ、何とも言えない微妙な気持ちになる。さくら味って美味いか?いやもちろん、まずくはないけど、あぁ〜アレ食べたい!ってなる味ではないと思う。そもそもさくら味ってなんだ。
桜餅に代表されるさくら味とは、桜の葉に含まれる「クマリン」という物質なのだそうだ。桜の葉を塩漬けしたり乾燥させることによってクマリンの味は出てくる。だから、桜の葉をそのまま齧ったところでさくら味はしないし、桜の花を食べても尚更さくら味などしないのだ。そりゃそうだ。さくら味など知らない。我々は桜を食べないもの。
もうすぐ冬から春になるけどそろそろさくら味が食いてえなと思う人が果たしてどれくらいいるのかしらと思う。春になったら花見がしたいなは分かる。いちご食べたいなこれもわかる。春はいちごが美味しいもんね。春が近いからさくら食べたいはちょっと分からない。お前さくら食ったことないだろ。
期間限定で出す商品は出している間、それが美味しくて期間中はそればっかり売れる、というのを目指すものだと思う。さくら味はそれに見合ってない。もちろん不味くはないが、期間中に一回でも食べれば十分だ。何故ならさくら味は美味しいから食べるものではなく、春が待ち遠しい気持ちを晴らすべくなんちゃって春景色を味わうためのものだからである。
上記の通り、本来は桜に味は存在しない。しかし、さくら味に桜の香りを閉じ込めることによって、それを食べることで桜の景色を思い起こすことは出来る。さくら味はいわば概念味(がいねんあじ)である。景色を味で表現したいという日本人独特の感性が炸裂したものだ。桜の味を再現したのでなく、これを食べることで桜の香りと情景をふわっと思い起こしてください、という。
もみじ饅頭、雪見だいふくも似たような発想だろうか。夏の花火を味にしたらなんだ、かやくごはんか?と思って調べたけど、かやくごはんのかやくは火薬じゃなくて加薬という字で、元々漢方の言葉で補助的に付け足す薬のことをさして、それが次第に料理で味を足すための薬味や香辛料、細かく切った具材などに対しても使われるようになったそうな。もみじ饅頭にもみじは使われていないし、雪見だいふくはその名の通り雪を想って食うより雪が降ってる時に食いたくなるし、さくら味に相当するような、夏・秋・冬の概念味は思いつかないけど、さくら味が本物の桜の代替品にすぎないのはある種の真理のはずだ。なぜなら、さくら味は本物の桜が咲くちょっと前の今ぐらいの時期に販売していて、本物の桜が咲き出したらあんまり売ってない。気がする!
そのように、さくら味は本物の桜が咲くまでの中継ぎにすぎないので、存在自体がぼんやりしている癖に毎年この時期になると期間限定で出てくる。ぶっちゃけ大して人気でもないのに毎年出てくるのは何故か。
恐らく、ピンクに引っ張られ過ぎている。日本人にとって春は桜のイメージが強すぎるので春を打ち出すのにピンクは必須だ。ピンクで春に味が旬のものとしてはいちごがベスト解答を叩き出しているのだが、さくら味には季節限定商品担当者の変な意地を感じる。王道のいちごに対しての変わり種のさくら。いちごなんてシンプルすぎますよ!さくら味の方が斬新じゃないですか!!雰囲気で押すのではなく美味しさが想像できる方が良いと言っても、突っ走る若者は聞く耳を持たない。
ピンクで春っぽさを出すのであれば、さくらに名前の近いさくらんぼはどうか。さくらんぼは桜の果実なのかとたまに思ったりもするが、ちゃんと調べると桜の一種ではあるが少し違うらしい。日本で代表的な花を咲かす桜はソメイヨシノであるが、代表的なさくらんぼの実をつけるのはセイヨウミザクラ、日本に最初に入ってきたのは中国からでこれはカラミザクラという種類でいわゆる桜桃と呼ばれるものである。いずれにせよさくらんぼと桜は別物であり、なによりさくらんぼの旬は5〜7月!春の果物ではなかった。
では代表的ピンクの果物、桃はどうかと言われたら旬は7〜8月。完全に夏である。Peachboysを毎年春にやっていたせいで、すっかり春の果物のつもりでいたけどてんで違いました。春の桃色男子、看板に偽りあり。
では春に旬を迎える果物は何か。いちご、キウイに加えて、柑橘類。デコポン、はっさく、甘夏などである。甘夏!夏て!
柑橘類は黄色、キウイは黄緑、どれも色は綺麗だし春っぽさを感じなくもないけど、やっぱりピンクを表現できるいちごが王道かと。しかし、いちごもそのまま赤の主張が強すぎると、むしろ冬っぽく感じられてくるから難しいところ。生クリームといちごのコンボでようやく春のピンクが完成する。
ただまぁ、さくら味は概念味なので、どうにもカッフェーには似合わないと個人的に思っている。概念味は日本人のセンスが炸裂して生まれたものだから、やっぱり合うのは和菓子だと思う。毎年、小癪にも色々工夫をしてラテだのオレだのくず餅だの抹茶だのとやっていたりするけど、所詮は存在しないふわっとした味。美味しい味で勝負したいのであれば、素直にいちごでガツンとしたものを作れば良いと思う。冬にいちごのメニューを出しちゃってたとしても、メニュー写真の背景を赤からピンクに変更すれば春っぽくなるから大丈夫だ!
とまあ、ゴチャゴチャ書いてきたけど都会の喧騒の中で生活していたら桜が咲いても見に行く暇もなくて、さくらラテでお手軽に春を感じられるのが良いのかも知れないですね。自分もここ10何年かは春は舞台の本番があってゆっくり花見をするような時間は取れなかった。
でもやっぱり春を感じるのであれば、さくら味を飲むよりも桜の下で焼き鳥食べる方が良い。今まで春の風物詩といえばPeachboysであったが、去年最終公演を迎えたから今年からはもうそれもない。今年は久々に花見をしたいなあ。

