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共通テスト英語の問題文を,理系の観点から考えてみた

「勉強したから,こんな風に遊べる」という側面もあるかもしれないが,反対に「こんな風に遊んだから,勉強ができる/続けられる」という側面も大いにあるように思う.
本稿は「最短ルートしか興味が無い」という強迫観念に憑りつかれてしまった方には響かないが,難関大学にチャレンジしてみたいという方や勉強方法に興味のある方にはオススメの考え方が含まれている.

今年の2026年共通テスト英語を解いていて,第8問のリード文に出てくる
テニスコーチのタマラ(Tamara)の文章が気になった.

今回の問題を解く上では全く必要ない作業なのだが,化学の面から見てミスリーディングしやすく,そして物理の面から見て言語化のしがいがあるように見えたのだ.

ここでは,今年の英語の問題を解くことではなく,理系の内容を掘り下げるための題材として,Tamaraを捉えていく.

まずタマラは,木製のテニスラケット(wooden tennis rackets)からso-called “oversized” graphite onesへの変遷について述べている.

テニスラケットの進化

化学の観点

化学の観点から,このgraphiteにひっかかった人はいないだろうか(私は初読時に気になった).

高校化学を勉強してきた人は,グラファイトがダイヤモンドと比べて柔らかく,層状に剥がれるということを理解しているだろう(なお,編入試験を勉強している人は,sp3混成軌道,sp2混成軌道,$${\pi}$$結合,導電性,共有結合,ファンデルワールス力,といった用語を用いてダイヤモンドとグラファイトの違いを説明できるかチェックしておくこと).

だから,なぜそれなりにしっかりしているはずの木製から,脆いはずのグラファイトになるのか,と思う人がいたかもしれない(私は初読時にそう思った).

しかしこれは,いわゆる狭義のグラファイトではなく,カーボン繊維のことを指していると見るべきだろう(以下,後者のことを指すときは ダブルコーテーションを用いて“グラファイト”と書くようにする).

実際,機械工学辞典の「炭素繊維強化プラスチック」Carbon fiber reinforced plastic ;CFRP)(https://www.jsme.or.jp/jsme-medwiki/doku.php?id=08:1008028)の項目を見ると,「カーボン繊維(アメリカではグラファイト繊維とも呼ばれる)を強化材とし‥」という文章が見え,“グラファイト”という通称が実際にあることがわかる.

物理の観点

次に,タマラが,今や,プレーヤーはボールを一層強打できる(Players now hit the ball harder)と述べている点は,物理の点から,引っかかった.

英辞郎 on the WEBをみると,

hit a ball hard 〔野球・テニスなどで〕ボールを強打する[強く打つ]

https://eow.alc.co.jp/search?q=hit+hard

 とあるから,直訳はできるだろう.

しかし,「強打」とはどういうことだろうか.高校物理を学んでいる人は,物理の用語を用いた言語化ができるだろうか.考えてみるといい思考練習になる.

例えば速度に注目して,

壁に立てかけた木のラケットと “グラファイト”のラケットに,同じ距離,同じ角度,同じ速度で球を当てたとき,跳ね返った時点を$${t=0}$$として,初速度は後者の方が大きい.

という言い方ができるだろう.より前の時点から説明するなら,反発係数を持ち出しても良いだろう.また上の説明は実際に,人がラケットを持って動かしていることにすると,さらに説明が難しくなるはずだ.

繰り返すが,英語の問題を解く上では必要ない.しかし,入試まで余裕がある高校2年生や,あるいは1年前に共通テストを受け,今は大学生で依然テストに興味がある理系の人は,以上のようなことを考えてみるのも楽しいかもしれない.

追記

おそらく,文系の観点から見ても気になる点がある.

タマラは 木のラケットから”グラファイト”のラケットへの変遷を覚えている程度の年配 (”I am old enough to remember the transition)なのだ.ただの虚構の設定ではあるが,かなり高齢なのでは,と初読時に気になった.

以下の論文によると,炭素繊維を中心としたいわゆる複合材料の工業生産は,1970年代に始まるとされている.

小塚 興治, 2009, 複合材料とスポーツ用品への応用, 表面技術, 1991, 42(10), 997-1003. https://doi.org/10.4139/sfj.42.997

(なお英語の出題とは直接の関係はないであろうが, 「地理総合、地理探究」第4問の問2の資料1には,日本の繊維工業の歴史に関して「現在は,炭素繊維などの新素材の開発が進められている」とある.)

1970年代は,今から50年前としても,これに$${+20}$$して,タマラは若くても70代であろうか.

ところで,ちょうど今年の共通テスト世界史に出題された歴史漫画の「ベルサイユのばら」は同時期(1972年)の発表である.同じく同時期でテニス漫画「エースを狙え」に登場する女性テニスプレーヤー「お蝶夫人」が,世代的にタマラかもしれない,という想像をしてみるのも一興か.


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