地下鉄の入り口がニュンと曲がっている話 ——デザインっておもしろい
京都市営地下鉄 東山駅
予備校のすぐ近くには,京都市営地下鉄の東山駅があります。
少し前に「8番出口」というゲームや映画がありましたが,私は今のところ東山駅から出られなくなったことはありません。今後もそんな事態が起きないことを切に願っています。
この東山駅では,地上から地下の改札へと向かって歩いていると,地下への階段の手前でいったん右斜めに進みます。

てくてくと歩きながら,いったん右にニュンと曲がって,それで階段をダダダと下りていきます。
結構この入口は利用するんですが,ふと疑問に思ったんです。

「なんでまっすぐじゃないの?」
他の駅を見てみると,東山駅みたいにニュンと曲がるところもありますが,全部そうなっているわけではありません。地上からまっすぐ進んでまっすぐ階段を下りる,そういう駅の方が多いと思います,数えたことがないので知りませんけど。
わざわざ右にニュン…
まァそりゃあエレベーターを設置するスペースも必要ですからねェ。写真には写っていませんが,この右手側にエレベーターがあります。スペースが限られているから仕方がないか…と初めのうちは思っていました。
でも何度も東山駅を行ったり来たりしているうちに,思うようになりました,「これって,人の行動をコントロールするデザインなんかな?」と。
いわゆる自然状態の駅
駅にはいろんな人がいろんな行動をします。自分のペースがあります。
早歩きの人。杖をついてゆっくり歩く人。
立ち止まって地図アプリを開いて,どの出口から出ればいいか探す人。その人を避けるために小気味良いステップを仕掛ける人。
8番出口を探してループしている人。
電車に間に合うかどうか,ギリギリで猛ダッシュをかましてくる人。
歩きスマホで前を見ない人(年配の方でも平気で歩きスマホしてるのを頻繁に見かけます,歩きスマホに年齢は関係ないですね)。
戦隊モノの決めポーズみたいに通路の右端から左端まで広がるヒーローたち。
こんな風にいろんなペースの人々が1ヶ所に集まると,まさにホッブズよろしく万人の万人に対する闘争状態になってしまいます。

人や物が動く経路のことを動線と言いますが,この動線がクロスしちゃうんですね。右に行ったり左にいったり,ゆっくり進んだりまっすぐ進んだり。それが改札に行く人,改札から出る人の2方向もありますから,さらにバッティング,そしてクロス。
こういう状態のとき,全員一致の社会契約を締結できればいいんでしょうけれども,舞台は空想上の前国家的な状態じゃなくて,ただの現実にある駅。
東山駅の構内は左側通行
だから東山駅では(たしか混雑時には)左側通行になっています。混雑していなければ,別に動線が重なることもありませんからね。混雑時の話しです。
うん,これなら自然状態よりも通路はスムーズに通れますね!
改札を出ると「左側通行!Keep Left!」と案内が出てい(た気がす)るので,既に知っていて慣れている人や表示に気づいた人が左側を通るにつれて,通路左半分に一方向への流れができます。うっかり右側を歩いている人,表示に気づかない人がいても,自然とその流れに乗っかっていきます。
だから改札から外に出る場合も大丈夫。
問題は構内への入り口
でも地上の入り口から,中の改札に向かう人の流れはどうでしょうか。
改札から外に出る場合には,人の流れがあります。電車が到着したタイミングでみんな一斉スタートですからね。流れができます。
でも地上の入り口から中の改札に向かうのは一斉ではありません。バラバラです。
自然状態では,右に左に右往左往(頭痛が痛い)。
「電車に乗り遅れる!!」といって勢いよく階段を下りてくる,走って下りてくる,数段飛ばしで跳び下りてくると,危ないですからね。
階段に人がいっぱいいるとき,ぶつかって倒れでもしたら,そこからドミノ倒しのようにしてたくさんの人が階段から落ちてしまいます。死のリスクと隣り合わせです。
(最初はおふざけでホッブズの万人の万人に対する闘争状態に言及したのですが,あながち間違ってなかったわ…)
そこでこのデザイン!

あなたは電車に乗るために急いでいます。走っています。
どのルートを通りますか?
最短ルートを通ろうとすると,必ず左側通行になりますね!
ゲートに入った瞬間は右にいても,この構造なら勝手に左側を通行します。
あのニュンと曲がった通路だからこそ,階段へ向かう多数の人が左側を通るように整理されます。流れが整います。
看板がなくても,言葉が通じなくても,東山駅は左側通行だと知らなくても,デザインによって人の行動をコントロールすることができます。
しかもそのコントロールは,誰にも意識されないまま,勝手に行われます。
ちなみに大屋雄裕『自由とは何か——監視社会と「個人」の消滅』(ちくま新書,2007年)では,筆者はこのことに警鐘を鳴らしています。めちゃめちゃおもしろい論点なので,興味があれば是非。
もちろんこの東山駅では,子どもから年配の方々まで,いろんな人が階段周りで衝突事故を引き起こして生命や身体に危害が及ぶことのないようにする必要があります。そういう意味で,私はこのデザインによって人々の行動をコントロールする発想がすんごいなーと感心しました。
似たような事例として,カラスの被害に悩んでいたところで「カラス侵入禁止」と書いた張り紙を貼ったところ,効果があったという話しがあります。
「カラスって賢いなァ…。侵入禁止の文字が読めるんやァ…。」というわけではありません。
ちなみに,いつのことだったかは言いませんが,つい昨日ですけれども,この東山駅で人に話し掛けられました。
「どこどこに帰りたいんだけれども,お金を持っていなくて…。〇〇円ほど貸してくれないか?」
……見るからに怪しい。いや,困っている人の発言を信用しきれない私の心が曇っているのかもしれませんが,それにしても怪しい。結構私はそういう人に声を掛けられる方です。前回は河原町のバス停での話しなんですが,午前10時頃に「貸してくれないか?」と声を掛けられました。そのときはめちゃめちゃ急いでいたので「すんませーん!」と言いながら断ったのですが,用事を済ませて15時くらいに同じところに行ったら,まだその人がいて,同じ声掛けをしていましたからね。少なくとも5時間くらい粘って,帰り賃が足りないことってあります? おウチが海外にでもあるのかな? 寸借詐欺やん(cf. 刑法246条)。
もちろん本当に困っている人かもしれません。だから私はこう勧めて差し上げました。
「警察に行きましょ,本当に困っているんなら絶対貸してくれますョ^^」
本当に困っている人なら「その手があったか!」と応じてくれますからね,本当に困っている人ならね。
でもその人の反応は案の定…
日が落ちてきて伸びてきた建物の陰の中へとスッと消えていきました。
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