【二十四節気/芒種】種を播く季節の色。芒種と、田植えの頃に日本人が見ていた色について

二十四節気 ―芒種(ぼうしゅ)― 2026年6月6日(土)〜6月20日頃
「芒(のぎ)」とは、稲や麦の穂先に生える、あの細くとがった毛のことです。
芒種——芒のある穀物の種を播く時節。田植えが始まり、麦の刈り取りも重なる、農家にとって一年でもっとも忙しい季節の入り口です。暦便覧には「芒ある穀類、稼種する時なり」と記されています。
2026年の芒種は6月6日。
梅雨のただ中に訪れるこの節気は、空がどんよりと曇る日も多く、地味に見えるかもしれません。
しかし、大地の視点から見ると、もっとも生命が動き出す季節のひとつです。
水を張った田んぼに、緑の苗が整然と植わっていく。その景色の中に、日本人が長い時間をかけて名前をつけてきた色が宿っています。
田植えの頃の色——水と緑と泥
芒種の頃の景色を支配するのは、田んぼの色です。
水が張られた田んぼは、空の色を映して青く光る。そこに手植えされた苗が、水面から細くまっすぐに伸びている。その緑の濃淡と、泥の色と、水の反射が混ざり合う風景
——日本の初夏の原風景ともいえる色彩が、この季節にあります。
早苗色(さなえいろ)

早苗色(さなえいろ)は、田植えの頃の早苗のような淡い黄緑色です。
「早苗」とは田植えのために育てた幼い苗のこと。まだ風に揺れる細い茎の、やわらかくてやさしい緑——その色合いは、生命の最も初々しい段階を映しています。
青磁色(せいじいろ)

青磁色(せいじいろ)は、中国の青磁器に似た、やや灰みを帯びた青緑色です。
梅雨の空の下で水を張った田んぼを遠くから見たとき、その色は青磁色に近い。深みがあって、静かで、どこか古びた美しさを持つ色です。
染色では藍と黄を混ぜてつくられ、江戸時代の武家の装束にも用いられてきました。
苔色(こけいろ)

苔色(こけいろ)は、古い石や木に生す苔のような、渋みのある暗い黄緑。
梅雨の湿った空気の中で、苔はいっそう鮮やかに生きています。梅雨という季節が、苔という生き物に最もふさわしい季節であることと同じように、苔色は日本の夏の湿度を映した色です。
梅雨の雨が生む色——藍と灰の世界
芒種は梅雨のさなかです。
雨の日が続くこの季節の色は、緑だけではありません。
藍白(あいじろ)

藍白(あいじろ)は、藍染めの最も淡い段階の色——白に近い、かすかな青。
藍で染めた布を水でよくすすいだような、消えそうなほど薄い青色です。梅雨の空、雨が小降りになった後の明るい灰色の空——そんな色に近いかもしれません。
煤竹色(すすたけいろ)

煤竹色(すすたけいろ)は、囲炉裏の上に長く吊るされた竹が、煙にいぶされて変化した渋い茶褐色。
梅雨の湿った空気と長い年月が重なって生まれるこの色は、和の空間に深みを与えてきました。梅雨という季節の湿度と時間を、そのまま色にしたような存在です。
「短夜」という言葉と、白の美しさ
芒種から夏至にかけての時期は、一年で最も昼が長くなる頃です。
この頃の夜を、「短夜(みじかよ)」と呼びます。日が暮れてすぐ夜が明けてしまうような、あっという間に過ぎる夜——その儚さを日本人は美しいものとして感じ、短夜という言葉に情緒を込めてきました。
梅染(うめぞめ)

梅染(うめぞめ)は、梅の樹皮や枝を煎じた汁で染めた淡い赤みの茶色。
梅の花の色ではなく、梅の木そのものの色です。梅雨という言葉が「梅の雨」に由来するとも言われる通り、梅はこの季節と深くつながっています。
染めと農耕——同じ時間の流れの中で
田植えと染色には、共通することがあります。
どちらも、時間をかけることでしか生まれないものがある、ということです。苗を水田に一本一本植えて、収穫まで何ヶ月も待つ。
染料を布に重ねて、乾かして、また重ねる。急ぐことができない過程の中に、自然との対話があります。
京都洛柿庵の手染めの作品も、そういう時間の中にあります。型を刷って、乾かして、また重ねる。ひとつとして同じ色が生まれない——それは、田んぼの苗が一本一本異なる表情を持っていることと、どこかで似ています。
「掛ける場所や光の加減によって、色が深まり、影が揺らぎ、季節の息づかいを感じさせます」
この言葉は、芒種の景色にもそのまま当てはまります。
同じ田んぼでも、朝と昼と夕方では光の色が違う。晴れた日と雨の日では、苗の緑の深さが違う——自然の色は、常に変化し続けています。
芒種の頃の、京都洛柿庵の作品たち
梅雨のしっとりとした空気の中に合わせて飾りたいのは、落ち着いた青緑や、やわらかな緑を持つ作品たちです。

ほたる——梅雨の終わりに向かう夜の水辺を映したこの細タペは、芒種の季節の湿った夜の空気に溶け込みます。深みのある青緑の地に、淡い光の表現が、梅雨の夜をそのまま切り取ったような作品です。

カワセミ——翡翠色の輝きを持つこの鳥は、この季節の水辺の主役です。豆タペや koyomiフレームのカワセミは、梅雨の晴れ間に水面を飛ぶあの青を、手染めで表現しています。

絵麻(ema)の「早乙女(芒種)」は、田植えの季節そのものを映した作品。水田に苗を植える早乙女の姿が、早苗色とともに描かれています。
色を知ることで、梅雨が変わる

梅雨は、灰色の季節と思われがちです。でも、早苗色・青磁色・苔色・藍白——これらの名前を知ると、雨の日の景色の見え方が少し変わります。
窓の外の田んぼの緑に、早苗色という言葉が重なる。雨に濡れた石畳に、苔色を見つける。梅雨を「うっとうしい季節」ではなく、「この季節にしかない色が満ちている時間」として感じられるようになる——そのための目を、色の名前は育ててくれます。
自然のうつろいを感じながら生きること。光と影、静けさと温もりが共存する空間を大切にすること——京都洛柿庵が提案する「感性がひらき、心が満ちる暮らし」は、梅雨という季節の中にも、豊かに宿っています。
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