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ヘアセットジレンマ

 中学生時代の私はいわゆるイケてない子だった。スポーツはできないし、勉強も平均程度、顔もカッコよくなかった。常にクラスの一軍の子達に負い目を感じていた。
 だから、クラスの半分くらいがヘアセットして登校するようになっても、からかわれるのが怖くて私はできなかった。

 ある朝、意を決して少しだけ髪の毛に整髪料をつけた。
 鏡の前で悪戦苦闘した末に完成した髪型は、シルエットも毛束もうまくできず、髪の毛が張り付いているような感じになった。
「寝グセひどくて水じゃ直らへんから、仕方なしにワックスつけてん」
 何か聞かれたらこう答えようと決めて家を出た。
 教室までの階段を上がるとき、からかわれたらどうしようという緊張で、一歩一歩が身体の芯まで響く気がした。
 スチールのドアに手をかけて教室に入る。
 一軍の子達はすでに登校していたけれど、教室に入った私を見る者はいなかった。
 そのまま、私は誰からも髪の毛について触れられることなく席についた。
 イケてる子たちからすれば、私の髪型になど興味はなかったのだ。
 一人であたふたと考えていたことが急にバカらしくなったと同時に、無意味に周りに気を使っている自分の矮小さに嫌気がさした。

 休み時間、トイレに行こうと廊下を歩いていると、クラスの一軍の男子生徒とすれ違った。 
 少し日に焼けた彼の顔は凛としていて、髪からは整髪料の甘い匂いがした。
 私が朝につけたのと同じ、青リンゴの香りだった。
 鼻の奥にゆったりとまとわりつく人工的な匂いは、私に決定的な敗北を思い知らせた。
 同じものをつけても、私は野暮ったい見た目になるだけなのに、イケてる子だとこんなにも綺麗になるのだ。
 私はそのあと卒業までヘアセットすることはなかった。
 
 社会人になった今は普通にヘアセットできるようになったし、髪型一つで何をあんなに悩んでいたんだろうと思う。
 でも、当時の私からすれば何よりも傷ついた出来事だった。
 余計な悩みを余すことなく抱え込んでいた学生時代の話だ。

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