売上はあるのに、なぜ利益が残らないのか|管理者が知っておきたい利益と人件費の基本
「今月は売上目標を達成した。だから、会社の業績も悪くないはずだ」
現場を預かる管理者であれば、このように感じることがあるかもしれません。
ところが、経営会議では、
「利益が残っていない」
「人件費が重い」
「このままでは厳しい」
と言われることがあります。
売上は伸びているのに、なぜ会社は楽にならないのか。
数字が苦手な方ほど、そこで話についていけなくなることもあるのではないでしょうか。
しかし、管理者に必要なのは、経理担当者のように決算書を細かく作れることではありません。
大切なのは、自分たちの仕事が、売上、粗利益、営業利益、人件費にどうつながっているのかを、大づかみに理解することです。
今回は、管理者が最低限知っておきたい「売上」「粗利益」「営業利益」「人件費」「労働分配率」について、できるだけわかりやすく整理します。
売上が増えても、利益が増えるとは限らない
まず押さえておきたいのは、売上と利益は同じではないということです。
売上は、お客様に商品やサービスを提供して得た金額です。
しかし、その売上をつくるためには、材料費、仕入れ、外注費、給与、家賃、水道光熱費など、さまざまな費用がかかっています。
たとえば、100万円の仕事を受注したとします。
一見すると、大きな売上に見えるかもしれません。
しかし、材料費や外注費に70万円かかれば、まず残るのは30万円です。
さらに、その30万円から社員の給与や事務所の経費などを支払う必要があります。
つまり、売上だけを見て「儲かった」と考えることはできません。
管理者が見るべきなのは、「いくら売ったか」だけではなく、「その売上から、いくら残ったか」です。
値引きをして売上をつくる。
残業を増やして納期に間に合わせる。
外注を多く使って受注をこなす。
こうした行動は、売上を増やす一方で、利益を減らしてしまうことがあります。
売上は入口です。
会社を支えるのは、最終的に残る利益です。
粗利益は、現場が生み出す「稼ぐ力」
売上から、商品やサービスを直接つくるためにかかった費用を差し引いたものが粗利益です。
一般的には、
売上高 - 売上原価 = 粗利益
と考えます。
たとえば、売上が1,000万円あり、材料費・仕入れ・外注費などの売上原価が600万円だった場合、粗利益は400万円です。
この粗利益は、会社が人件費や家賃、その他の経費を支払うための原資になります。
売上が大きくても、粗利益が少なければ、社員の給与や会社の運営を支える余力は生まれません。
管理者が現場で粗利益を改善する方法は、意外と身近にあります。
安易な値引きを減らす。
材料のロスややり直しを減らす。
採算の悪い仕事を見直す。
外注の使い方を工夫する。
付加価値の高い提案を増やす。
こうした一つひとつの判断が、粗利益に影響します。
粗利益は、経理だけがつくる数字ではありません。
現場の仕事の進め方や判断の積み重ねで決まる数字です。
粗利益率を見ると、売上の「質」がわかる
粗利益を見るときは、金額だけではなく、粗利益率も確認します。
粗利益率は、
粗利益 ÷ 売上高 × 100
で計算します。
売上が1,000万円、粗利益が400万円なら、粗利益率は40%です。
同じ売上1,000万円でも、粗利益が300万円なら、粗利益率は30%です。
この差はとても大きいです。
粗利益率40%であれば、400万円を人件費やその他の経費に使えます。
しかし、粗利益率30%であれば、300万円しか残りません。
売上が前年より増えていても、粗利益率が下がっていれば、忙しくなった割に会社にはお金が残っていない可能性があります。
「売上は上がっているのに、利益が残らない」
その背景には、値引き、原価上昇、外注費の増加、やり直し、残業などが隠れていることがあります。
管理者は、売上目標だけを見るのではなく、
「どの仕事で粗利益が取れているのか」
「どこで原価が増えているのか」
「なぜ粗利益率が下がっているのか」
まで確認することが大切です。
売上の大きさだけでなく、売上の質を見る。
その入口が、粗利益率です。
営業利益は、本業の最終成績
粗利益から、人件費、家賃、水道光熱費、広告費、通信費などの販売費および一般管理費を差し引いたものが営業利益です。
営業利益は、会社が本業でどれだけ利益を残せたかを示す数字です。
たとえば、粗利益が400万円あっても、人件費やその他の経費が380万円かかれば、営業利益は20万円です。
経費が420万円かかれば、営業赤字になります。
「仕事は多い」
「現場は忙しい」
「売上も上がっている」
それでも営業利益が残らないことはあります。
その原因は、粗利益の不足かもしれません。
残業や応援人員の増加かもしれません。
設備や車両の維持費、採用費、管理コストが増えている場合もあります。
営業利益は、現場だけでなく、管理部門も含めた会社全体の努力の結果です。
管理者には、自部門だけの都合ではなく、会社全体として利益が残るかどうかを見る視点が求められます。
人件費は「削るもの」ではなく「生かすもの」
利益の話になると、すぐに「人件費を削らなければならない」と考えてしまうことがあります。
しかし、人件費は単なるコストではありません。
社員が商品をつくり、サービスを提供し、お客様との関係を築くための投資でもあります。
大切なのは、人件費が高いか安いかだけではありません。
その人件費によって、どれだけ粗利益を生み出せているかです。
人を減らしすぎれば、品質が落ちることがあります。
残業が増えることがあります。
社員の負担が大きくなり、離職につながることもあります。
結果として、会社の利益を損なう場合もあります。
一方で、人を増やしても、仕事の進め方や役割分担が変わらなければ、人件費だけが増えてしまいます。
管理者が考えるべきことは、人件費をただ抑えることではありません。
必要な人数を見極めること。
役割を明確にすること。
社員一人ひとりが力を発揮できる状態をつくること。
人件費を削るのではなく、人件費を生かす。
この視点が、利益と働きやすさを両立させる出発点になります。
人件費には、給与以外の費用も含まれる
管理者が人件費を考えるとき、毎月の給与だけを思い浮かべることがあります。
しかし、実際の会社負担はそれだけではありません。
賞与、社会保険料の会社負担分、各種手当、退職金の負担、福利厚生費なども、人を雇用するために必要な費用です。
さらに、採用、教育、制服、備品など、社員が働くために必要な関連費用も発生します。
一人を採用すれば、その人の月給だけが増えるわけではありません。
会社全体では、月給以上の負担が発生します。
だからこそ、増員を考えるときは、
「人が足りないから採る」
だけでは不十分です。
どの仕事が増えているのか。
今いる人の役割分担を変えられないか。
業務の廃止や簡素化はできないか。
増員によって、どれだけ粗利益が増えるのか。
こうした点を検討したうえで人を採ることが、管理者に求められる人件費管理です。
労働分配率は、成果と人件費のバランスを見る数字
労働分配率とは、会社が生み出した付加価値のうち、どれくらいを人件費として分配しているかを見る指標です。
中小企業の現場では、わかりやすく、
人件費 ÷ 粗利益 × 100
で確認することがあります。
たとえば、粗利益が1,000万円、人件費が600万円なら、労働分配率は60%です。
この数字が高すぎると、人件費を支払った後に、家賃や設備費、その他の経費を支払う余力が少なくなります。
反対に低すぎれば、社員への還元が十分ではない可能性や、人手不足による無理な運営が疑われる場合もあります。
ただし、何%なら必ず正解というものではありません。
業種、事業構造、設備投資の大きさによって、適正な水準は異なります。
労働分配率は、人件費を責めるための数字ではありません。
会社が生み出した成果と、社員への配分のバランスを見る数字です。
労働分配率が上がる理由を見誤らない
労働分配率が上がる理由は、人件費の増加だけではありません。
大きく分けると、3つのパターンがあります。
1つ目は、人件費が増えた場合です。
増員、昇給、賞与、残業の増加などが該当します。
2つ目は、粗利益が減った場合です。
売上の低下、値引き、材料費の上昇、外注費の増加、やり直しなどによって粗利益が減れば、人件費が同じでも労働分配率は上がります。
3つ目は、人件費が増える一方で、粗利益がそれほど増えない場合です。
人を増やした直後や、新規事業の立ち上げ時に起こりやすい状態です。
労働分配率が高いとき、すぐに「人件費が高すぎる」と決めつけてはいけません。
まずは、粗利益がなぜ減ったのか。
人員配置は適切か。
残業や手戻りが増えていないか。
増員に見合う仕事の設計ができているか。
こうした点を確認する必要があります。
原因によって、打つべき対策はまったく変わります。
管理者が毎月見たい数字
数字が苦手な管理者が、決算書のすべてを理解しようとすると続きません。
まずは、毎月見る数字を絞ることが大切です。
最初に確認したいのは、売上です。
目標や前年と比べてどうだったかを確認します。
次に、粗利益です。
売上からどれだけ残ったかを見ます。
あわせて、粗利益率も確認します。
値引きや原価上昇によって、売上の質が落ちていないかを見るためです。
次に、人件費です。
人数、残業、応援、賞与など、増減の理由を確認します。
そして、営業利益です。
最終的に本業で利益が残ったかを見ます。
可能であれば、労働分配率も確認します。
数字を見るときは、単月だけで判断しないことも大切です。
前年同月、計画、直近3か月などと比較すると、変化の理由が見えやすくなります。
数字は、良い悪いを判定するだけのものではありません。
「なぜ変わったのか」を考えるための入口です。
数字を部下にどう伝えるか
管理者が数字を理解しても、それを部下に
「利益が出ていないから頑張れ」
と伝えるだけでは、行動は変わりません。
部下には、自分の仕事と数字のつながりが見えるように伝える必要があります。
たとえば、
「材料の廃棄を月5万円減らせば、その分は粗利益として残る」
「一件のやり直しに3人で2時間かかると、合計6時間分の人件費が余計に発生する」
このように、現場の行動に置き換えて伝えることが大切です。
売上目標だけでなく、値引き、ロス、残業、手戻り、稼働率など、現場が動かせる数字にすることで、部下は行動を変えやすくなります。
また、数字を使って部下を追い詰めないことも重要です。
数字が悪いときは、誰が悪いかを探すのではなく、どの工程に問題があるかを一緒に考える。
数字は人を責めるための武器ではありません。
仕事を改善するための共通言語です。
利益を残すために、管理者が変えられること
管理者が会社の利益のすべてをコントロールできるわけではありません。
材料価格や市場環境など、現場だけでは変えられないものもあります。
それでも、管理者が変えられることは多くあります。
仕事の優先順位を決める。
手戻りやミスの原因をなくす。
残業が発生する工程を見直す。
役割分担を明確にする。
値引きや追加作業の判断基準を決める。
採算の悪い仕事を上司へ報告する。
部下に必要な知識や技術を教える。
利益改善というと、大きな改革を想像しがちです。
しかし実際には、日々の小さなムダを減らし、同じ人数、同じ時間で、より高い価値を生み出すことの積み重ねです。
管理者は、売上をつくる人であると同時に、利益が残る仕事の仕方をつくる人でもあります。
数字を見るときに避けたい3つの誤解
管理者が数字を見るときには、避けたい誤解があります。
1つ目は、「売上が増えれば利益も増える」という誤解です。
原価や残業が増えれば、売上が増えても利益は減ることがあります。
2つ目は、「人件費は低いほどよい」という誤解です。
必要な人員や教育まで削れば、品質、納期、定着率を悪化させます。
見るべきなのは、人件費と粗利益のバランスです。
3つ目は、「数字は経営者や経理だけが見るもの」という誤解です。
値引き、材料ロス、残業、配置、やり直しなど、数字の多くは現場で生まれています。
管理者が数字を読めるようになると、会社から示された目標を、現場の具体的な行動に変えられるようになります。
細かい会計処理よりも、数字の変化と現場の出来事を結びつける力。
それが、管理者に必要な数字の読み方です。
売上を追う組織から、利益を残せる組織へ
売上があるのに利益が残らないとき、そこには必ず理由があります。
売上から原価を差し引いた粗利益が十分に残っているか。
粗利益から人件費やその他の経費を支払った後、営業利益が残っているか。
人件費と粗利益のバランスを示す労働分配率が、どのように変化しているか。
管理者が最低限押さえたいのは、次の視点です。
売上と利益は同じではない。
粗利益は、人件費や経費を支える原資である。
営業利益は、本業の最終成績である。
人件費は、削るだけでなく生かす視点が必要である。
労働分配率は、成果と配分のバランスを見る指標である。
数字が読めるとは、難しい計算ができることではありません。
数字の変化を見て、現場で何が起きたのかを考え、次の行動を決められることです。
管理者一人ひとりがこの視点を持つと、売上を追うだけの組織から、利益を残せる組織へ少しずつ変わっていきます。
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管理職研修、数字に強い管理者育成、賃金制度設計、人事評価制度設計など、企業の状況に応じて内容をご提案いたします。
管理者に利益意識を持ってほしい。
売上だけでなく、粗利益や人件費を意識できる管理職を育てたい。
人件費と利益のバランスを見直したい。
賃金制度や評価制度を、会社の業績とつながる形に整えたい。
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