IdP/EDR/SASEまで導入して、立ち止まる会社が多い。コストの問題に見えて、本当は「新しい運用」で止まっている
恐縮です。
今日はいつもの連載から少し離れたお話です。
RFPでも出てればいざ知らず。。。なかなか導入が進み切らない、そんなお話。
IdPを入れた。
EDRも入れた。
SASEも入れた。
ここまでは進んだ。
でも、その先が続かない。
CASBやDLPの話は出る。
ZTNAの高度化も候補には上がる。
ログ活用の必要性も、みんな何となく分かっている。
でも、実際には進まない。
ここで一回止まる。
これは珍しい話ではありません。
むしろ、かなりよくある止まり方です。
このとき、外からはこう見られがちです。
予算が尽きた。
優先度が落ちた。
やる気が続かなかった。
もちろん、それも一部はあります。
でも、現場で起きていることをもう少し正確に言うなら、話は少し違います。
IdP・EDR・SASEまでは「製品を入れる話」として進めやすい。
でも、その先は「新しい運用を引き受ける話」になる。
ここで急に腰が重くなります。
GWの頭ですが、今日はそんな話です。
まず、IdP・EDR・SASEまではなぜ進みやすいのか
ここまでは、比較的プロジェクトにしやすいです。
IdPは認証基盤の整理として説明しやすい。
EDRは端末防御や検知強化として説明しやすい。
SASEは通信制御やアクセス経路の見直しとして説明しやすい。
つまり、何を入れるかが見えやすいんです。
製品単位で予算を引きやすい。
導入範囲を切りやすい。
ベンダー提案ともつなげやすい。
社内でも「これを導入する」という形で話を通しやすい。
ここまでは、導入計画になります。
導入完了という区切りも作れます。
でも、ここで一つズレが出ます。
導入しやすいことと、運用しやすいことは別です。
このズレを放置したまま進むと、IdP・EDR・SASEまでは入る。
ただし、そのあとで止まります。
[画像①:IdP・EDR・SASEまでは進むが、その先で止まる構図]
※ 図の要素:左から「IdP導入」「EDR導入」「SASE導入」と進み、その先で「例外運用」「ログ運用」「責任分界」「判定優先順位」で詰まる流れ
※ キャプション案:止まるのは製品が足りないからではなく、導入の次に運用の本番が来るから
止まる理由は、追加予算がないだけではない
ここで、コストの意味が変わります。
導入フェーズのコストは分かりやすいです。
ライセンス費。
構築費。
移行費。
見積もりも出るし、稟議も通しやすい。
でも、運用フェーズに入ると、効いてくるのは別のコストです。
誰が判断するのか。
どこで切り分けるのか。
どこまで例外を許すのか。
どのログを何のために見るのか。
このコストは、見積書には載りにくいです。
でも、現場にはかなり重く載ります。
だから、正確には「お金が尽きた」だけではありません。
払うコストの種類が変わった。
こっちのほうが実態に近いです。
本当に増えるのは、「新しい運用」です
導入のあとに増えるのは、製品の数ではなく判断と調整です。
しかも、この負荷は派手ではありません。
静かに増えていきます。
だから見落とされやすいです。
一つ目は、判断の仕事です。
SASEで通信を止められる。
IdPで認証条件を絞れる。
EDRで端末状態も見える。
ここまでは良い話です。
でも、その瞬間から現場には判断が増えます。
この通信ブロックは正しいのか。
この端末は本当に危険なのか。
このユーザーは止めるべきか。
この例外申請は認めていいのか。
製品は信号を出してくれます。
でも、最終判断は人に残ります。
二つ目は、担当境界の調整です。
IdPはID管理。
EDRは端末管理。
SASEはネットワークとアクセス制御。
きれいに役割分担できそうに見えます。
でも、実際の障害や問い合わせは、そんなにきれいではありません。
たとえば「SaaSに入れない」という問い合わせ一つでも、原因は普通に複数ありえます。
IdPの認証ポリシー。
端末の準拠状態。
SASEの通信制御。
証明書やエージェントの状態。
接続元やブラウザ条件。
つまり、どこが悪いのかが最初から見えないんです。
三つ目は、例外の維持です。
理想論だけで言えば、全員・全端末・全通信を同じルールで扱いたい。
でも、現場はそうなりません。
古い業務システム。
委託先端末。
海外拠点。
固定IP前提の接続。
開発部門だけ必要な通信。
こうして例外が出ます。
問題は、例外があることではありません。
例外が管理されないことです。
導入直後はまだ覚えています。
これは暫定対応。
これは移行完了まで。
これはこの部署だけ。
でも、数か月経つと怪しくなる。
一年経つと、かなり危ないです。
四つ目は、ログの使い方です。
IdP・EDR・SASEまで入ると、ログはかなり取れるようになります。
ここで「可視化できた」と安心しやすい。
でも、実際にはここからが本番です。
何を見るのか。
誰が見るのか。
見た結果をどう動きにつなげるのか。
ここがないと、ログは資産ではなく保管物になります。
しかも、たくさん取れているほど厄介です。
ログ収集の成功と、ログ運用の成功は別物です。
つまり、止まっているのは失敗ではない
IdP・EDR・SASEまで進んで止まるのは、導入の失敗ではなく、運用の入口に入ったからです。
どうしても「中途半端だった」と見られがちです。
でも、現場感としてはそうではありません。
むしろその段階は、導入の入口を越えて、運用の本番に入った地点です。
だから苦しくなる。
だから止まりやすい。
ここで必要なのは、さらに新しい製品を探すことではありません。
先にやるべきなのは、今ある仕組みを回る状態に変えることです。
この順番を飛ばしてCASBやDLPを足すと、たいてい現場がさらに苦しくなります。
例外の整理がないまま、制御だけ増える。
ログの目的がないまま、監視対象だけ増える。
責任分界が曖昧なまま、判定だけ細かくなる。
これでは、守りが強くなる前に運用が詰まります。
じゃあ、次の一歩はどこか
結論から言うと、次の一歩は製品追加ではありません。
接続面の整備です。
一つ目は、例外を管理できる状態にすることです。
例外はなくせません。
なので、目標は例外ゼロではなく、例外が見えることです。
対象ユーザー。
対象端末。
対象システム。
例外理由。
承認者。
有効期限。
代替統制。
見直し日。
最低限、このあたりは持っておきたいです。
特に大事なのは、有効期限です。
期限のない例外は、だいたい恒久設定になります。
二つ目は、ログの目的を絞ることです。
最初から全部見ようとすると、だいたい重くなります。
まずは、不正アクセスの兆候を見る。
端末準拠違反の傾向を見る。
通信ブロックの誤検知を減らす。
このくらいで十分です。
そこから、どのログを見るか。
どこに集めるか。
誰が一次確認するか。
どの頻度で見るか。
ここを決める。
そのほうが回ります。
三つ目は、一次切り分けの導線を固定することです。
「つながらない」
「入れない」
「ブロックされた」
こういう問い合わせに対して、毎回ゼロから調べる。
これを続けると、担当者依存が強くなります。
なので、最低限でも最初にどこを見るかを揃えるべきです。
認証失敗なら、まずIdP。
端末準拠違反なら、まずEDRや端末管理。
通信ブロックなら、まずSASEのポリシーとログ。
明確な痕跡がなければ、証明書やエージェント状態。
完璧なフローは要りません。
でも、最初にどこを見るかは揃えたほうがいいです。
四つ目は、ID・端末・通信の判定優先順位を決めることです。
ゼロトラスト運用で迷いやすいのは、判定がぶつかったときです。
ユーザー本人性は取れているが、端末は非準拠。
端末は正常だが、アクセス先のリスクが高い。
通信は許可したいが、ユーザーのリスクスコアが高い。
こういう場面で毎回止まるのは、優先順位が決まっていないからです。
ここは、製品連携の前に運用ルールとして言語化しておくべきです。
端末非準拠は原則ブロック。
高リスクユーザーは追加認証。
特定業務だけ承認付き例外。
許可より記録を優先するケースを決める。
この程度でも十分効きます。
現場で最低限そろえたいもの
派手なPoCより先に、まず土台です。
一つ目は、例外の棚卸しです。
何が特例なのか。
誰のための特例なのか。
いつまでの特例なのか。
これが見えていないままでは、運用はすぐに崩れます。
二つ目は、見るログの絞り込みです。
全部あるけれど使えていない。
この状態を先に止めたほうがいいです。
三つ目は、一次切り分けの導線です。
問い合わせが来たときに、毎回ゼロから探さない。
ここはかなり効きます。
四つ目は、判定優先順位の文章化です。
どの条件を優先するのか。
例外は誰が認めるのか。
ここを曖昧にしない。
五つ目は、責任分界の見える化です。
情シスが持つのか。
セキュリティが持つのか。
ネットワーク側が持つのか。
ここが曖昧なままだと、障害も改善も必ず遅くなります。
現場でよくある失敗は、だいたい同じ
だいたい失敗の形は似ています。だから先に潰すべき論点も見えやすいです。
一番多いのは、一通り入れたことで安心して終わることです。
IdPもある。
EDRもある。
SASEもある。
だから前に進んだ気になる。
でも、実際には例外が見えていない。
ログも使えていない。
問い合わせの切り分けも属人化している。
これでは、導入の見た目ほど運用は強くなっていません。
次に多いのが、最初から全部つなごうとして止まることです。
全ユーザー。
全アプリ。
全例外。
全部一気に整えようとする。
これはかなりの確率で止まります。
原因は単純です。
現実が複雑すぎるからです。
さらに多いのが、前提が弱いのにルールだけ細かいことです。
誰か分からない。
端末状態も弱い。
リスク判定も薄い。
この状態でルールだけ細かくしても、だいたい空振りします。
結果として、例外が増えます。
もう一つは、ログが増えただけで終わることです。
可視化はできた。
でも、誰が見て、何を異常とし、どこまで止めるのかが決まっていない。
これでは、ログは宝の山ではなく、ただの倉庫になります。
最後に、例外が永続化することです。
最初は暫定のはずだった許可。
まだ残っている特例。
誰も見直していない接続。
これが積み上がると、せっかく整えたつもりの設計が裏から崩れます。
[画像⑤:IdP・EDR・SASE導入後によくある失敗パターン]
※ 図の要素:一通り入れて安心する、最初から全部つなごうとして止まる、前提が弱いのにルールだけ細かい、ログが増えただけで終わる、例外が永続化する
※ キャプション案:だいたい失敗の形は似る。だから先に潰すべき論点も見えやすい
ここが整うと、その先がやっと進む
この土台が整うと、やっと次の一歩が現実的になります。
CASBやDLPを足す。
ZTNAを細かくする。
ログ相関を強める。
このあたりは、土台がないままやるとだいたい苦しいです。
逆に、例外が見えている。
ログの目的が決まっている。
一次切り分けが揃っている。
判定優先順位も文章化されている。
ここまで来ると、その先の施策がやっと回り始めます。
つまり、IdP・EDR・SASEで一旦止まること自体は、失敗ではありません。
問題は、そのあとを製品追加だけで解こうとすることです。
本当に必要なのは、運用の接続面を整えることです。
まとめ
IdP・EDR・SASEまでで止まる会社が多いのは、そこで初めて運用の本番が始まるからです。
製品選定から、運用設計へ。
導入プロジェクトから、日々の判断へ。
ここで主戦場が変わります。
だから次の一歩は、CASBやDLPを急いで足すことではありません。
まずは、例外。
ログ。
切り分け。
判定優先順位。
責任分界。
このあたりを整えることです。
言い換えると、今ある仕組みを、ちゃんと回る運用に変えることです。
導入は入口です。
その先で止まるのは、やる気がないからではありません。
運用の本番が始まったからです。

恐縮でした。
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