見出し画像

とりあえず一本毛綱モン太

我が妹は執念深い。
自分が庭で育てているネギを母にうっかり雑草とともに引っこ抜かれて以来、彼女は自室から出て来ない。
もともと自室に引きこもりがちではあったが、彼女はこの度地元で働き先を見つけた。

妹は仕事が出来る。
どんな内容の仕事でも結果を残す。
だけど1つの職場に10年以上留まることはない。
我が妹ながら、彼女は一人で旅を続ける宿命を負ったスナフキンのようだ。
孤高の人。
どこか孤独な人。
ロックな生きざま。
ちょっとだけ危ういものを持っている気がして、私はそんな妹に長年つかず離れすぎず、ポイントポイントで寄り添ってきた気がする。

私が帰省する直前に仕事が決まったらしく、帰って来た私に妹から怒涛のLINEメッセージが届いた。
入社のために必要な品々を準備しなければならないらしい。
同じ屋根の下、隣の部屋にいるのにLINEのメッセージ音がやまない。

妹「楽天でスーツの下に着る薄い長そでのインナーとベルトとバッグ、室内用シューズ探して~」
さらっと一文で書いているが、タスクが多すぎないか?
妹「室内履きはスーツにも合いそうなやつがいい」
繰り出される細かな要求に応え楽天で見つけた商品URLを次々に送る私。
妹「もう少しファッション性がほしいかな」
うるせーよ!
妹「色はどれがいいかな?」
まだ帰ってから私と一言も口をきいていないくせにLINEでは饒舌だな。

妹「光沢があるのあんまり好きじゃない」
うるせーよ!(2回)
妹「医療脱毛でよさそうな病院見つけて」
い…医療脱毛出来る病院まで探せと!?

せっかくの休日にタスクが多すぎる。

妹「マイカップも探して。ふたがあるやつ」
妹「小さめがいいかも」
妹「ペンケース探して」
ペンケースぐらい自分で探してくれ。
妹「どっちの色がいいと思う?」
妹「ちょっと来て」
急に呼ばれて慌てて妹の部屋に向かう私。
ここでようやく妹の声を数カ月ぶりに拝聴させていただく機会を得た。

そんなやりとりを3日に渡り続けていたある日、スマホばっかり触っている母の姿に我が愛しの息子Tが突撃してきた。
寝そべっている私のお腹にまたがり、スマホに手を伸ばす。
「待って待って!」
息子をディフェンスしている僅かな間にも妹からのメッセージ着信音が止まらない。
「さわっちゃダメだよ」
息子は、スマホの画面を触ると画面が動くことを経験上知っており、キャッキャとLINEのメッセージ画面を触って遊ぼうとする。

なんとか息子から取り返し、画面を確認すると、なんと息子、生まれて初めてスマホでメッセージを送っていたのだ。
もちろん偶然である。

それは、サーモスの蓋つきマグカップの色とサイズについて、内心ものすごく面倒になりつつも真面目に妹とやり取りしていた時だ。

妹「白がいい。サイズは240」
私「サーモスが気に入ったってこと?」
妹「うん」
私「これでいいならプレゼントしてやろうか?」
妹「送料無料になる?」
息子「とりあえず一本毛綱モン太」

妹からの返信がピタリと止んだ。

息子が偶然たまたま打った文字が「一本毛綱モン太」だと!?
字面が強すぎる。
ツボにクリティカルヒットして私は泣きながら笑った。
妹に、これは息子が打ったんだと説明せねばと思いながら、笑いすぎて文字が打てない。

これまで数秒ごとにポンポンとLINEのメッセージを交わしていたのだ。
早く釈明せねばと気持ちが焦れは焦るほど笑いが止まらない。

い…急がねば…!
そう思い釈明文を作成し始めた瞬間、妹からのメッセージが届いた。
妹「どういう意味?」

これに何らかの意味を見出そうとしているのか?妹よ。

生真面目な妹の返信に再び笑いがこみあげてきて、私は妹の部屋に駆け込んだ。
「今の!Tが初めてスマホでメッセージ打って送ったんだよ!」
泣き笑いしながら言うと、妹はニヒルににやりと笑ってみせた。

息子よ、モン太のおかげで妹の笑顔が見れたよ。
4年に一度くらいしか見ることのできない笑顔が見れたよ。

息子とモン太に大感謝である。

ていうか、一本毛綱モン太って何&誰?


いいなと思ったら応援しよう!

たいたい サポートいただけたら、美味しいドリップコーヒー購入資金とさせていただきます!夫のカツラ資金はもう不要(笑)

この記事が参加している募集