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【文脈開発 プロローグ】広報は事業に資する ── なぜ私は『文脈開発』を書くのか

私は15年間、広報という仕事の可能性を追い続けてきました。

最初は違和感でした。次に仮説になり、行動になり、実験になった。

そして、その15年間を振り返ったとき、一つの問いにたどり着きました。

「広報は、本当に事業に資するのか。」

そして数年前、ある人にこう言われました。

「広報にスペシャリストなんていないでしょ。」

私は、その言葉に反論しませんでした。

でも確信がありました。ただ、それを他人に伝えられる言葉がなかったのです。

私は、その一言を何度も反芻しました。誰でもできる仕事だと思われている。経営から戦略的に位置づけられていない。SNSマーケと混同される。
広報という仕事は、まだ十分に理解されていない。

一方で、私はこう考えます。広報を本気で活用すれば、事業には目に見える追い風が吹く。それを実感してもらうことから、広報の評価は変わっていくはずだと。

広報は、人々が事業を選ぶ理由を社会の中につくり出せます。これは、広報にこそできる仕事だと思います。

この連載は、そのための方法論をまとめたものです。

問いの出発点


私が広報の世界に入ったのは、2011年。最初の現場は、開業前夜の東京スカイツリーでした。

メディアからの問い合わせが毎日のように殺到する。料金発表会、開業記者発表、季節企画、危機管理対応。広報の仕事量としては充実していました。やりがいもありました。

ただ、同時に引っかかりもありました。広報は重要と言われながら、事業が決まったあとに降りてくる。上流にいられない。広報はスピーカーであって、設計者ではなかった。

それが、問いの出発点でした。

問いは深くなった

次の会社で、私は広報の限界を見ました。

IRと社内報しか機能がなく、事業広報には触れられない。提案しても動かない。やりがいのない日々の中で、私は広報の本に逃げるようになりました。
逃げながら、確認していたのです。

「広報という仕事には、もっと可能性があるはずだ。」

読めば読むほど、確信が深まりました。この会社がやっていることは広報の一部にすぎない。本来の広報には、もっと大きな射程がある。その過程でPRプランナーの資格に挑戦しました。資格が欲しかったというより、体系として広報を理解したかった。

次の現場では、広報の立ち上げに挑みました。社内報を立ち上げ、採用広報を整え、表彰制度を作った。自分のアイデアで広報の居場所を作っていく手応えがありました。

ただそこでも、広報を事業の根幹に置く発想は経営になかった。

会社が広報を必要としていないなら、自分で広報の役割を作ればいい。それだけではなく、広報を事業の起点に置く会社を、自分で作ればいい。

同僚と株式会社アノニギワヰを立ち上げたのは、その実験でした。広報発想を起点に事業を作れるのか。広報は、本当に事業に資するのか。

問いは、行動になっていきました。

なぜ私は書くのか

広報を本気で活用すれば、事業に追い風が吹く。その確信が、私の中にあります。一方で、その射程が経営に理解されないまま、広報担当者だけが疲弊していく現場を、私は何度も見てきました。

何となく広報を任され、自分の役割が見えずにいる方に、広報の射程はここまで広いということを伝えたい。社内で広報の価値が低く扱われている広報担当者に、論理武装を提供したい。経営者・事業責任者には、広報が売上・採用・事業成長に効く具体的な道筋を、論理として届けたい。

そして、「広報にスペシャリストなんていない」という言葉が、過去のものになる日を、一緒につくりたい。

「文脈開発」という方法論

この連載で私が書くのは、「文脈開発」を起点にした広報活動です。

文脈開発とは、社会の中に、自社の事業が「選ばれる文脈」を意図的に立ち上げる方法論。7つのステップに分解した、再現可能なフレームワークです。

「戦略PRと何が違うのか」と聞かれることがあります。

日本における戦略PRの第一人者である本田哲也氏が紹介した戦略PRは、このフレームワークの根底にあります。戦略PRが「社会の関心を呼び起こすこと」に重きを置いているとすれば、私の言う文脈開発は、その先にある「人々がその事業を選ぶ理由そのもの」を、社会の中に立ち上げることを目指して発展させたものです。

具体例を3つ挙げます。

たとえば、電力業界。電力は長らく「会社で選ぶもの」「料金プランで選ぶもの」でした。しかし、「どこで、誰が、どんな想いで作った電気か」で選ぶ──そんな新しい選び方の文脈の中で事業を伸ばしている会社があります。
たとえば、ウイスキー。2007年にはピーク時の約6分の1まで落ち込んでいた市場が、「居酒屋で一杯目に気軽に楽しむ酒」という新しい文脈の中で復活しました。

たとえば、投資信託。長らく「投資は専門家やお金持ちがやるもの」という空気の中にありましたが、ある時「老後難民」という言葉が世に問われました。「このままでは老後に難民のように暮らすことになる」という新しい文脈の中で、投資信託は「普通の人が自分ごととして考えるもの」へと変わっていきました(フィデリティ投信。本田哲也『戦略PR』所収)。

事業が選ばれるかどうかは、商品スペックや価格だけで決まるのではありません。社会の中に、その事業が選ばれる文脈を立ち上げることで、人々の選択肢に入りやすい環境をつくることができます。そして、その文脈に、方法論があるのではと考えたのが、この広報論のスタートです。

この連載で書くこと

中核となる命題は、「広報は事業に資する」です。

思考軸は、「露出ではなく、選択肢になるか」。露出数やPV数ではなく、自社の事業が人々の選択肢に入っているかを問う。これが、広報担当者が日々持つべき判断基準と定義しています。

そのための方法を「戦略広報」「戦術広報」の2つにわけてご紹介します。

戦略広報のテーマは、「文脈開発」。社会の中に、選ばれる文脈を意図的に立ち上げる方法論。

戦術広報のテーマは、「プッシュで仕込み、プルで引き込む」。マスメディアとオピニオンリーダーの両輪を、メディア効果論の蓄積に基づいて意図的に駆動する戦術です。

これらを、全12回の連載で展開します。

連載の構成(全12回)

背景 ── 広報の中心は、広報に戻ってくる
戦略広報 ── 「事業に資する」とは何か / 思考軸:選択肢になるか / 文脈開発の方法論
戦術広報 ── プッシュで仕込み、プルで引き込む / メディア効果論を駆動する
展望 ── AI時代の広報と、広報の社会的価値

次回は、私が広報の社会的価値の低さを最初に体感した日──「広報にスペシャリストなんていない」と言われた日のことを、もう少し深く書きます。

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