【エッセイ】苔が好きかと聞かれたら、そうでもないけれど。|好きと苦手。私と彼女。
(キジ)
と聞こえた気がして
ふと左前方に目をやると、黒っぽい鳥のような姿を発見。
(あれは、カラスじゃない?)
と思ったけれど、草にまみれて赤い顔が見えた。
あ。キジだ。
ようやく視覚が追いついた。
草にまみれてよく見えなかったけど
なんだかちょっと嬉しくて
(もうちょっと全体が見えたらよかったなぁ)
なんて思いながら、また助手席からガラス越しに田んぼを眺めていた。
私はこの助手席から眺める景色が好き。
田んぼのしらさぎを見たり、飛び交う鳥を目で追ったりする時間。
鳥たちは時々、雨や風の気配を教えてくれる気がして、少しワクワクする。
その後、宅配業者に立ち寄った時
車から一旦降りて、荷物を出そうとすると
「ケーンケーン」
と声がした。
あれ?なんだっけ?
と、一瞬思ったけれど
(こんなところにもキジ?!)
と思って声の方に目をやると
さっきよりはるかに大きなキジが
ピンっとまっすぐ立ってこちらを見ている。
思わず私は、懐かしい友人に会ったかのように
軽く手を上げてしまった。
まるで
「お〜い!ここだよ。」
と言われたかのような鳴き声と、堂々としたたたずまい。
背筋を伸ばしてシャンとしている。
その美しい姿に見惚れてしまった。
写真を撮るわけでもなく、近寄るでもなく
私はただただそこから見えるその姿がたまらなく嬉しくて、本当に懐かしい友人に出会ったような感覚だった。
鳴き声はその1回だけ。
荷物を出して、そこを出るときには、もうキジの姿は見えなくなっていた。
(ありがとう)と心の中でつぶやいた。
すると草むらからひょっこり顔を出した。
胸がキュッとなって思わず笑ってしまった。
大きかったなぁ。
ピンとまっすぐに立って綺麗だったなぁ。
何日かしてあのキジを思い出した。
「もっと背筋をシャンと伸ばして。
あなたらしくないね。どうした?」
とでも言われたかのようだった。
きっと遠い昔、どこかで出会った時
私はこんなに縮こまっていなかったんだろうな。
と、背中を丸め込んでいる自分に気がついた。
前屈みだった私の姿勢はスッと上に持ち上がり
胸がグッと開いた。
背筋がちょっと伸びただけなのに
自然に呼吸が深くなる。
それだけなのに
気分が少し上がった気がした。
自分にしかない
懐かしい感覚や、落ち着くものや場所。
いつもちょっとしたヒントをくれる。
忘れた感覚を思い出させてくれるような__
自分のなかの「落ち着く」や「好き」の感覚は
どこか深いところで繋がっているのかもしれない。
自分のルーツがそこにあるのかもしれない。
この話を苔好きの友人にすると
「私は苔を見ている時、心が洗われるような感覚になるよ」
と返ってきた。
どちらかというと苔が苦手な私は
少しゾッとした。
(もしかして彼女は昔、苔だった⁈)
いやいや、違う違う。
一人で首を横に振りながら、そんな想像をして笑ってしまった。
人の感覚は、それぞれ。
わかろうとすることの方が難しい。
それでも、苔を熱く語る彼女の横顔はどこか微笑ましかった。
よく行く神社に彼女の好きな苔ゾーンがある。
その話をするまでは全くそこに興味がなかった私。
それ以来、神社に行くたびにその苔ゾーンに目がいくようになった。
以前は苦手だったけど、何度か見るうちに、苦手意識が薄れていった。
確かに少し神秘的な感じするかも、と私の見え方も少しずつ変わっていった。
彼女のルーツを少し知れたような気がして、ちょっと嬉しくなった。
自分との「違い」って、その人そのものを表しているのかもしれない。
そう思えたら
以前は「違い」が少し苦手だった私も
誰かの「違い」を見つけるたびに、その人らしさに触れられたような気がして、「違い」が少し楽しみになった。
後日彼女に
「大昔、きのこだったんじゃない?」
というと
「やめてよ!(笑)」
とゲラゲラ笑われた。
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