失敗から始まった着付講師人生②
師と呼べる先生との出会い
前回、大手着付教室に入るところまで書きました。
その教室を知ったのは、高校時代の後輩が「昔通っていたよ」と話してくれたのがきっかけでした。
ちょうど体験教室も開催されていて、私は一番近所の教室へ申し込みをしました。
確か、7月の暑い日だった記憶があります。
教室には、私を含めて体験の生徒が6名。
みなさん、
「箪笥に眠っている着物を活用したい」
というきっかけの方ばかりでした。
(ちなみに、自宅から着物を着て参加したのは私だけでした。)
その時に担当してくれた先生が、後に看板を取るまでお世話になる先生です。
最初に教室で見かけた時、
小柄で物腰がやわらかく、
まるで“着物を着るために生まれてきた人”のように見えました。
静かに話すのに、
なぜか自然と目で追ってしまう。
今思えば、
あの瞬間から私はもう、
先生に憧れていたのかもしれません。
実際、体験教室で教わった内容もとてもわかりやすく、丁寧で、
私はたった一度の体験で「ここに通おう」と決めていました。
担当講師は、入会するまで誰になるかわかりません。
生徒側で選ぶこともできません。
でも私は運が良かったのか、
その先生がそのまま担当になりました。
名前は出せないので、
ここではY先生と呼ぶことにします。
体験教室にいた6名とY先生で、
初級クラスがスタートしました。
教室の特徴は、
「手ぶらで通える」こと。
でも私は、
どうしても祖母の仕立てた着物が着たかった。
だから、
着物を着て通うスタンスを貫きました。
当然、
今思えば着姿はぐちゃぐちゃです。
とても外を歩けるようなものではありませんでした。
それでも、
“祖母の着物を自分で着ている”
というだけで、
当時の私は嬉しかったんです。

初級クラスは全8回。
目標は、
「名古屋帯が結べるようになること」でした。
最初に学んだのは、
意外にも足袋の履き方。
足袋ひとつにも所作があり、
その通りに履くことで、
こはぜ(足袋の留め具)が綺麗に留まる。
そして、
その所作ひとつひとつに意味がある。
私はもともと、
理論で物事を考えるタイプです。
だからこそ、
Y先生の“理由を教えてくれる教え方”がとても合っていたのだと思います。
そして私は、
ここで初めて知りました。
自分の着姿がぐちゃぐちゃだった原因。
それが、
「補正」だったんです。
授業で聞いた、
「小物は大物」
という言葉は、
今でも印象に残っています。
祖母がいたので、
洋装と和装の下着の違いはなんとなく知っていました。
帯に胸が乗るとだらしなく見えるから、
和装ブラジャーを使う。
そのくらいの一般論程度です。
そして思い出したのが、
成人式の振袖。
写真を見てもわかる通り、
私はかなり細身体型です。
だから、
衿がズレやすい。
帯枕が乗りにくい。
帯を締めるとくびれる。
他装では見栄えする身体を作るために、
タオルを何枚も入れられていたのだと思います。
Y先生が教えてくれたのは、
「体型を寸胴にすること」
そして、
「補正は、足りないところに足すもの」
という考え方でした。
実は、
自分に合う補正が完成するまで、
3年もかかっています。
その間も先生はずっと一緒に考えてくれました。
そして、
初めて衿が綺麗に決まった日。
あの嬉しさは、
今でも忘れられません。
はじめての着物を着てのティーパーティー
この教室には、
初級さん向けの「お出かけ会」がありました。
着物を着て、
草履を履いて、
実際に歩いて、
食事をする。
“着物で過ごす感覚”を身につけるためのイベントです。
さて、
ここで問題が発生しました。
「あれ、私……上物なくない??」
この頃には、
多少なりとも知識も増えていました。
羽織やコートには、
“ちりよけ”としての役割があり、
外出時には必要だということも学んでいたんです。
そこで私は、
久しぶりに1コインレッスンでお世話になった着物屋さんへ向かいました。
そして出会ってしまったんです。
モダンな薔薇柄の反物に。
「これで最初の羽織を作ろう」
そう思って、
ほぼ即決でした。
しかも、
店員さんに勧められるまま、
長い期間着られるように袷仕立てにして。
……これが失敗でした。
時期は単衣、
そして夏。
当然、
袷は暑い。
今では生徒さんにも、
「お仕立ては、ちゃんと知識をつけてから選ぼうね」
と話しています。
これ、
完全に私の経験談なんです。
結局、
プレタのレース羽織を買って事なきを得ました。
そんな失敗もありましたが、
ティーパーティー自体は本当に楽しかった。
他教室の同期とも初めてゆっくり話せて、
「ここ難しいよね」
「でも着物楽しいよね」
なんて話しながら食べたパンケーキ。
今思い返しても、
幸せな一日でした。

でも、
このお出かけにはもうひとつ意味がありました。
それが、
“着崩れチェック”
です。
お太鼓が下がっていないか。
帯が緩んでいないか。
衣紋が詰まってきていないか。
お互いに確認しながら、
紐のきつさ。
衿合わせの角度。
帯の締め具合。
それぞれの課題を見つけて、
次へ活かしていく。
そして、
外出先で着崩れた時に、
「どこを直せばいいのか」
を実践で学ぶこともできました。
でも、
私にはもうひとつ大きな学びがありました。
それは、
先生方の“所作”です。
着物姿の集団は、
歩いているだけでも目立ちます。
だからこそ、
歩き方ひとつで印象が変わる。
“見られている”
その意識があるかないかで、
所作まで変わるのだと感じました。
Y先生の歩き方は、
本当に静かでした。
上前がめくれることもなく、
ただ歩いているだけなのに美しい。
私は、
「いつかこんな風になりたい」
と自然に思うようになっていました。
“憧れてもらえる先生になりたい”
その原点は、
きっとY先生だったのだと思います。
③和装という表現に出会った話
へ続く。
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