ブリッジウォーターの投資委員会を率いる若き女性リーダー:カレン・カルニオル=タンブール氏(Part 1)
ブリッジウォーターといえば、世界最大のヘッジファンドであり、その創業者レイ・ダリオ氏の顔がすぐに浮かぶと思いますが、今回は同社の共同最高投資責任者であるカレン・カルニオル=タンブール氏の直近に行われたゴールドマンサックスのインタビューを紹介します。
この約50分にわたるロングインタビューでは、米国経済、中国経済、世界の通貨市場、大統領選挙、AIといったテーマを中心に話が進められ、「FRBの金融政策が経済成長や家計に与える影響」、「成長より国家安全保障を優先する中国の政策シフト」、「通貨市場におけるアルファ機会」、「AI投資における留意点」などが議論されました。また、インタビューの内容は「ブリッジウォーターの投資哲学や企業文化」、「女性リーダーシップの重要性」、「ESG投資の現状」へも話が広がり、レイ・ダリオ氏の話よりも、割と手触り感のある考え方や見解が示され、非常に示唆に富む内容となっているのではないかと思います。尚、今回は、このロング・インタビューのうち、約半分を紹介したいと思います。
「インタビュー内容におけるサブテーマ」
<Part 1.>(今回)
1. 米経済:マクロ状況とFRB金融政策
2. 中国のイデオロギーと景気刺激策
3. 通貨市場と投資機会
4. 大統領選後に重要な単長期目線
5. AI投資における心得
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<Part 2.>(紹介予定)
6. ブリッジウォーターの投資哲学と文化
7. 女性リーダーシップと投資業界におけるダイバーシティ
8. サステナブル投資とESG
0. イントロ
[トニー・パスカリエロ](ゴールドマン・サックス)
ゴールドマン・サックスのトニー・パスカリエロです。グローバル・バンキング&マーケット部門でヘッジファンド担当の責任者を務めています。今日は、友人でもあるブリッジウォーター・アソシエイツの共同最高投資責任者、カレン・カルニオル=タンブールさんをお迎えしています。
ブリッジウォーターは世界最大のヘッジファンドですが、カレンさんは、研究結果をシステム化して取引戦略に取り込むことを監督し、独自の投資モデルの開発と管理、そして、クライアントの投資戦略の設計と実行を指揮されています。さらに、同社のサステナブル投資のイニシアティブも共同でリードされています。
今日は、カレンさんのブリッジウォーターでの長年にわたるキャリアや、現在の投資を形作るマクロ要因、投資文化や優れたチーム作りのためのノウハウについてお話を伺いたいと思います。
カレンさん、番組にようこそ。

[カレン・カルニオル=タンブール](ブリッジウォーター、共同最高投資責任者)
お招きいただきありがとうございます。

1. 米経済:マクロ状況とFRB金融政策
[トニー・パスカリエロ]
まず、現在の米国のマクロ状況について少しお話ししたいと思います。状況は好調ですね。米国のGDP成長率は約3%に達しており、FRBも先日50ベーシスポイントの利下げを行いました。では、米国経済がこの成長水準を維持できるかどうか、あなたの見解をお聞かせください。
[カレン・カルニオル=タンブール]
この成長水準を維持できると思います。今の状況は非常にユニークです。拡大のかなり後期に入ってからFRBは利上げを行いました。その結果、民間セクターでの借り入れはほぼ止まって、通常ならそれがリセッションを引き起こします。今回は、COVIDの財政政策が功を奏したことに加え、所得サイクルが軌道に乗った時期だったこともあり、相殺されて、支出が収入を増やし、それがさらに支出を増やすという自己強化サイクルができ始めたのです。このことは、その勢いはゆっくりと衰えてはいきますが、より持続可能な拡大の形で進んでいくはずです。
雇用市場は弱まっていますが、その多くは供給側の問題で、需要側からの弱さではありません。それを考慮に入れたうえで、さらにFRBの緩和策があります。FRBが行おうとしている緩和策は、民間セクターでの借り入れを再開させることで、これは家計部門にとってかなりの追い風と思います。
次に、ビジネス部門では、設備投資のサイクルが始まったばかりで、さらに拡大する可能性があると思います。マグニフィセント・セブンたちは、投資しないリスクが投資しすぎるリスクよりもはるかに大きいと話していますが、彼らは、もっと投資しなければならないと考えています。マグニフィセント・セブンはもちろん、大手企業で資金も豊富ですが、それが他の企業にも広がるシナリオも十分に考えられます。AIを活用したスタートアップが1社でも出てくれば、私たちもAIに大きな投資をしなければならないと感じるでしょう。
1990年代の中期サイクルの緩和や、インターネットブームの中での設備投資サイクルを振り返れば、その後の成長の原動力となったのは非常に大きかったです。これほど長く拡大が続く中で、成長を維持するための良い背景がそろっていると思いますし、インフレが今の水準であれば、FRBも必要に応じてさらに手を打つ用意があると考えています。
[トニー・パスカリエロ]
金融サイクルは次の段階に入りましたが、最終的にはどのような状況になるとお考えですか?つまり、FF金利の最終水準はどこに着地するのでしょうか?その達成までに、どのようなペースと期間が予想されますか?
[カレン・カルニオル=タンブール]
適切な金利水準とは何か、というのは非常に哲学的な質問です。ただ、誰もがわかっていることは、数年前と今では、正しい金利水準が全く異なるということです。リーマンショック後の時代を振り返れば、10年以上もの間、実質的にマイナス金利が続きましたが、それは非常に特殊な状況でした。もうそのような水準が適切ではなくなっていることは明らかです。今は、デレバレッジ(債務削減)が必要な時期ではありませんし、先ほど話したような構造的な支出圧力、例えばAI投資を必要とする企業や、まだ触れていない政府の産業政策への支出など、現実的な支出の必要性があります。ですので、適切な金利水準はゼロやマイナスではありません。
FRBの見方を見てみると、彼らはおおよそ3%が適切だと考えているようです。その内訳は、インフレが約2%程度、そして75ベーシスポイントから1%程度が実質金利です。私もそれが妥当だと思います。しかし、実際に進んでみないと確実なことはわかりません。FRBの計画は、25ベーシスポイントずつ引き下げて、最終的に3%に到達するようなものだと思います。非常に合理的な計画です。ただし、経済がかなり強固であれば、むしろそれよりも少ない引き下げ、またはペースが遅くなる可能性もあるでしょう。今のところ中立金利は3%かもしれませんが、それ以上になる可能性もありますし、景気サイクルがさらに進んで、仮に中立金利が3%でも、そこからもう少し高めに設定する必要があるかもしれません。インフレが少し上昇するかもしれませんし、実質金利を1%以下に抑えることは避けたいですね。ですから、私の考えでは、予想よりも緩和は少なくなるリスクが高いと思いますが、25ベーシスポイントずつで3%に到達する計画は大体正しいように思えます。状況を見ながら進めることが重要です。
[トニー・パスカリエロ]
もし6月までに3.38%程度に達するという予想があり、それには今後のFOMCごとに25ベーシスポイントの引き下げが必要だとしたら、それは正しいと思いますか?
[カレン・カルニオル=タンブール]
正しいと思います。先ほど申し上げた通り、大きなサプライズがなければ、大きく引き下げるよりも引き下げないリスクの方が高いと思います。しかし私は、彼らが「よし、今は2025年の真ん中だが、最善の状態は、中立よりも少し厳しいレベルにある」のような状況になると思います。
その中立水準がどれくらいかは、インフレ率が本当に2%か、それとも少し上回っているかによりますが、それはおおよそ正しい感覚だと思います。しかし、景気拡大がかなり進んでいるので、中立金利が3%であっても、「引き締めが必要だから、4%にすべきだ」とするシナリオも十分考えられます。
2. 中国のイデオロギーと景気刺激策
[トニー・パスカリエロ]
次に中国について少し話しましょう。ここ数週間、かなり力強い政策発表が続いており、市場でも大きな期待感が高まっているようです。これらの発表をどのように見ていますか?
[カレン・カルニオル=タンブール]
私は、中国が「何があってもやり抜く」と考えていることを願っていますが、実際には「車をクラッシュさせないために、何があってもやる」と決意しているのだと考えています。このこととは、「車をクラッシュさせない」という意味であって、「何があってもすべてを良くする」とは違います。今回は、中国の過去の景気刺激策とは根本的に違うものだと思います。たとえば、世界金融危機からの回復期に当時の指導者たちが考えていたのは、最も重要なのは成長を実現することであって、何があってもそれを達成するとということです。
[カレン・カルニオル=タンブール]
しかし、今はその時とは違います。現在の指導者たちは、最も重要な目標は安全保障、つまり国家の安全保障や経済的な安全だと考えています。彼らは、アメリカやその他の世界からの圧力に対抗しながら、“中所得国の罠”を克服するためには生産性を高めるための高度な技術が必要だと認識しており、経済をその方向に向けて調整しようとしています。成長はその一部にすぎません。戦争中はタフでなければなりません。しかし今は、「これは行き過ぎで弱くなりすぎている。これ以上悪化させてはいけない。」と考えているのです。これは非常に重要な変化です。つまり、「今の状態は行き過ぎで、刺激策が必要だ」と認識し始めたのです。
もう一つ重要なのは、彼らは、多くの刺激策に対し、強いイデオロギー的な抵抗感を抱えていることです。例えば、米国のように全員に小切手を配るといったタイプの刺激策は、彼らにとってイデオロギー的に許容できないのです。しかし、彼らは新しいことに挑戦し始めています。まだ小規模な実験にすぎませんが、少なくとも実験しており、例えば貧困層や特定の消費を促進するためにターゲットを絞った刺激策を導入しています。たとえば、古い車を買い替えるための補助金を出したり、子どもがいる家庭に対するクレジットを与えるといった取り組みです。これらは、イデオロギー的に許容できる範囲での試験的な刺激策であり、「これ以上悪化させない」という強い決意を感じることができます。
これらの刺激策がどのくらい効果を発揮するかは、今後次第です。債務削減には時間がかかるもので、ヨーロッパや日本のケースを見ればわかるように、マリオ・ドラギの『何があってもやり抜く』時代があっても、実際には多くの浮き沈みがありました。中国もこれからさらに多くの債務削減を進めなければなりません。うまく削減するためには、まだ多くのことを実行する必要があります。しかし、極端に悪化やデフレの深刻化を避けられる可能性が高まっていることは確かです。
[トニー・パスカリエロ]
では、中国の資産市場の文脈において、具体的に強い確信を持った取引があるということですか?
[カレン・カルニオル=タンブール]
さまざまな債務削減の結果を見ると、非常に興味深いことが分かります。中国の資産ミックスは非常に良いポジションにあると思います。というのも、株の評価が非常に低いため、まだ緩和の余地があり、政策担当者ができることはたくさんあります。また、「車をクラッシュさせない」という確信もある程度あります。私は、バランスの取れたミックスを保持するのを好んでいます。数週間前に比べれば、株式に重きを置くことが良いとは思いますし、もし失望が発生しても、株式市場が大きく下がるとは思いません。債券や通貨をショートすること、あるいはコモディティのような実物資産をその通貨で持つことも、それほど悪くないと考えています。
3. 通貨市場と投資機会
[トニー・パスカリエロ]
それでは、引き続いてアジア全体に目を向けると、日本ではここ数ヶ月で非常に波乱があり、新しい首相が選出されました。今の日本の資産市場について、どのような機会があるとお考えですか?
[カレン・カルニオル=タンブール]
日本についての結論としては、金融政策を引き締める方法を見つけなければならないということです。長い間ゼロ金利が妥当だった時期がありましたが、あれは債務削減が必要な状況でした。しかし、今の現実を見ると、インフレ率は2%で安定しているように見えます。労働市場も良好で、労働参加率も高い。この状況では、今の金利水準やマイナス2%の実質金利は合理的ではありません。彼らもそれを理解しています。急ぎすぎることへの恐れは強く、7月末の出来事は「急ぐべきではない」という深い傷を残しましたが、7月末から8月初めの出来事の一部は、投資家のポジショニングが原因でもあり、多くの人が円のキャリートレードに携わっていたことも影響しています。そのため、彼らは慎重になるでしょうし、急ぎ過ぎるリスクは現実のものですが、政策を正常化する必要があります。今の状況が続くのは理にかなっていません。
新しい首相もそれを強く感じていると思います。彼の発言のすべてにそれが表れています。だから、私の一番のお気に入りは、引き続き金利をショートすることです。これは日本で最も理にかなったポジションだと思います。株式も引き続き中程度に魅力的だと考えています。企業統治において良い変化が見られますし、円もおおむねバランスが取れていると考えています。
[トニー・パスカリエロ]
今そこに少し触れましたが、もう少し包括的に世界の通貨市場における機会についてお話しいただけますか。通貨市場はあなたにとって重要な分野だと思いますが、今でも強い確信を持っていますか? もしそうであれば、どのあたりが注目されますか?
[カレン・カルニオル=タンブール]
通貨市場は非常に優れた資産クラスだと思います。これまであまり活用されてこなかったのは、通貨がそれほど動いていなかったからです。COVID後の世界は非常に同期していました。長年、ゼロ金利のもとで世界が同期し、その後は緩和や引き締めも一斉に行われていました。しかし今は、世界がそれほど同期していない状況にあり、実際に動きが発生しています。国ごとにインフレが異なり、政策の正常化も国によって異なっています。これこそが通貨の動きを生み出す要因です。異なる国の間に差異がなければ、通貨の動きは生まれません。全てがゼロ、インフレもゼロ、金利もゼロの状態では、通貨の動きは期待できません。そのため、今は久しぶりに大きなアルファの機会があると感じています。
また、ポートフォリオの中で通貨をどう扱うか、構造的に再考する非常に重要な時期でもあります。資産をヘッジすべきか、そうでないかという議論になります。ドルの構造的な特性は何か?リスクオフ資産としてドルを持つべきか?なぜその選択肢があるのか、ないのか?といった興味深い話に繋がります。個人的には、ユーロが最も魅力的な通貨だと思っています。というのも、ユーロ圏の貿易黒字の規模が非常に大きいからです。ユーロが下落しないためには膨大なお金が流通する必要があります。ヨーロッパの経済見通しは、アメリカや他の多くの国よりも確かに弱いですが、それは既に価格に織り込まれていますし、構造的な黒字の大きさを考えると、依然としてユーロは最も魅力的です。オーストラリアやカナダのような貿易黒字が弱まっている国と比べると、特にカナダは低迷しており、アメリカと比べても明らかに差が出ています。このように、各国の魅力度に大きな違いが出てきています。
[トニー・パスカリエロ]
ユーロ以外では、ドルに対してどのような見解をお持ちですか?
[カレン・カルニオル=タンブール]
私はドルに対してもやや強気な姿勢を取っています。ユーロの方が魅力的ですが、他の多くの通貨と比べるとドルも依然として魅力的です。今の世界では、ほとんどの資産市場や金融資産はアメリカにあります。つまり、海外で貯蓄するということは、実質的にアメリカに投資することを意味します。たとえば、オイルを買う時、サウジアラビアが好きだから買うわけではなく、給油所にあるものを選ぶ感覚に似ています。金融資産を買う時も同じで、アメリカの資産を買っていることが多いのです。世界の市場インデックスの約3分の2がアメリカ関連ですし、構造的なお金がアメリカに循環していく流れは止まりません。
アメリカは巨額の貿易赤字を抱えているわけではありませんが、保護主義が強まり、その赤字を縮小しようとする動きが見られます。特にトランプ氏が再び大統領になれば、その圧力は強まるでしょう。しかし、アメリカに資金が流入する量は減らないため、結果的にドルが上昇し続けるのです。リザーブ資産を分散させる選択肢は多くなく、ドルの構造的な特性は、リスクを低減するものとして何度も証明されています。したがって、ドルへのエクスポージャーを持つことは、多くの人にとって理にかなっています。
4. 大統領選後に重要な単長期目線
[トニー・パスカリエロ]
今ちょうど触れましたが、アメリカの選挙まであと1ヶ月です。市場への影響についてはどのようにお考えですか?
[カレン・カルニオル=タンブール]
まず、ちょっと意外かもしれませんが、あまり聞かれないような答えから始めたいと思います。二人の候補者には、よく見逃されがちな共通点が実は多いと感じています。市場への影響という観点で言うと、まず両者とも赤字削減には本気ではないという点です。歴史的に高い赤字水準を引き下げることが必要なのに、その点について積極的に取り組もうとしている候補者はいません。もちろん、ハリス氏の計画は少し、ほんの少しだけ赤字に配慮しているように見えます。彼女の計画をできる限り忠実に解釈すると、GDPの1%ほど赤字が削減される可能性があります。これは決して無視できる数字ではありませんが、その中身を見ると、新たな支出が多く含まれています。具体的には、年収40万ドル以下の人々への税額控除の延長や、子供税額控除、勤労所得税額控除などの新しい税額控除です。さらに、彼女は企業や初めて住宅を購入する人々への支援も検討しています。
そして、もう一方では、財源として税金を増やそうという意欲があります。具体的には、富裕層への減税延長をやめたり、法人税を引き上げたり、あるいは未実現のキャピタルゲインに関する問題を扱おうとしています。これらをすべて考えると、確かに多少は赤字削減につながるかもしれません。ただ、大統領選挙の賭け市場の動向を見ていると、実際には選挙の結果は50-50だと予想されているようです。しかし、もしカマラが勝った場合、分割された政府になる可能性が高いとされています。
これが意味するのは、彼女がすべての政策を実現するのは難しいということです。特に、税金の引き上げや、過去に議論された未実現キャピタルゲインに関する改革など、大きな変更は実現が困難でしょう。法人税の実際の引き上げも、コンセンサスを得るのは難しいかもしれません。ですので、彼女が当選して分割された議会を持つことになった場合、何らかの成果は得られるかもしれませんが、それは赤字を現状維持か、むしろ拡大させる結果になる可能性が高いと思われます。
トランプ氏の計画は、明らかに赤字をさらに拡大させようとしています。すべての関税が、減税の延長や法人税のさらなる引き下げを相殺できるような状況は存在しません。ですので、両者の間には共通点が多いのです。ただし、もちろん違いもあります。赤字支出が企業の減税に向かうのか、あるいは低所得者層に向かうのかで、多少の違いはあります。低所得者層は経済において消費の割合が高いので、その分経済を支える効果が大きくなります。
一方、企業側に目を向けると、これは株式市場を直接支援することにつながります。企業が税金をあまり払わなくなることで、その恩恵を受けるわけです。これは、トランプ氏の第1期で見られた通り、シンプルな計算がそれを裏付けています。
株式市場にとって何が良くて何が悪いのかを考えると、実際それほど大きな差はありません。そして、貿易や保護主義に関して言えば、確かにトランプ氏のレトリックは強いですが、共通点も多くあります。たとえば、中国が大きな戦略的課題であり、それに対抗するために保護主義的な措置を取るべきだという点では、超党派で一致しているのです。確かに、民主党は「小さな庭、高いフェンス」と言いながらも、その庭がどんどん大きくなっているという現実があります。また、中国に対して産業政策を保護主義的に活用する必要があるという合意も広がっています。
ですから、トランプ氏がカマラ氏よりも積極的になる可能性は高いですが、全体的な流れとしては、今後何年、何十年にわたって進んでいく方向性は同じです。つまり、かつての自由貿易や「産業政策は悪」という世界から、一定の方法で壁を築いていく方向へとシフトしているのです。これが投資家にとって重要な点です。もちろん、その中でリスクもあります。トランプ氏が極端な方向に加速させる可能性もありますが、私は多くの人が思っている以上に両者には共通点が多いと感じています。
[トニー・パスカリエロ]
興味深いです。今夏の時点では少し過激な見方に感じられたかもしれませんが、マーケットの動きを見る限り、実際には似たような結論に達しているようです。もちろん、グリーンエネルギー関連や特定の分野における民主党支持のプレイなど、いくつかの明確な例外はありますが、全体的にはマーケットがこの話題を前面に出している感じはしません。
クライアントと話していても、この話題がほとんど出てこないことに驚いています。会話の後半でやっと触れられる、今回もそのパターンでした。バイナリーイベントまであと1、2週間という段階でどのように感じるかはわかりませんが、私もあなたと同じように、株式市場が賭けのオッズを見て、共和党の全勝やハリス氏と分裂した議会のいずれかの結果になっても、リスクという観点では「それで問題ない」という見方をしていると思います。
[カレン・カルニオル=タンブール]
リスク管理の考え方についてお話しするとき、投資家にとって大きな違いがあるのは、単発の出来事と数年間にわたって市場に影響を与えるダイナミクスです。単発の出来事の場合、適切な視点は、まさにおっしゃるように「AかBか」という選択をすることです。典型的な例としては、ブレグジットがあります。これはリスク管理の問題で、リスクをどう保護するかを考える必要があります。
自分のリスクを守り、ブレグジットのようなリスクコントロールの問題であるという強い見解を持つにはどうしたらいいのか。市場の動きを見れば、AになるかBになるかによって、起こり得る意味のある何かを確認することが重要です。
一方で、数年間にわたって市場に影響を与えるような事象については、無視することはできません。これについては、リスク管理の観点で捉えることはできず、投資活動のさまざまな側面に影響を与えます。現在の選挙でも同じような状況が見られます。単発の出来事としての選挙は、それほど大きなリスク管理の必要性を感じさせるものではないようです。この選挙の結果を予測しようとするのはあまり現実的ではなく、ほぼ五分五分の結果になる可能性が高いでしょう。予測に関して優位性を持つ人はほとんどいないように思われますし、何か大きなリスク回避策を講じるべきというほど明確なシグナルは見えていません。
このことが示しているのは、より重要なのは長期的な影響を与える大きなトレンドであるという点です。政府の役割の拡大、財政赤字の増加、産業政策の強化、保護主義の拡大など、こうした要素は誰が選挙に勝利しようとも今後も続いて行くでしょう。
5. AI投資における心得
[トニー・パスカリエロ]
過去1年ほど、私はBridgewaterが執筆したAIに関する多くの著作を読んできましたので、この文脈で2つの項目について話したいと思います。1つ目は、AIが将来的に経済や労働市場にどのような影響を与えると考えているかという点。このことは、難しい課題だとは思いますが、あなたも私たちも多くの時間を費やしてきたテーマですよ。2つ目は、現在の市場でそれらの見解をどのように表現していくべきだと考えているかという点です。
[カレン・カルニオル=タンブール]
まず、AIについて話す際に必ず言わなければならないことは、過度に自信のある意見を聞いたら疑うべきだということです。AIには本質的に多くの不確実性があるからです。ただ、短期的には、以前も話したように、需要を見越して投資が行われている現状やAIに大量の資金が投入されているにもかかわらず、今のところ生産性が向上していないという点で、AIは非常にインフレ圧力を高めていると考えています。
次に、将来を見据えると、最も良いアナロジーは1990年代から2000年代のアメリカの製造業で起きたことです。数十年の間に、労働市場の約10%が消失しました。これは、グローバリゼーションによって安価な海外に仕事が移ったり、自動化によって工場の現場にロボットが導入されたりしたためです。今日、アメリカの製造工場を訪れると、働く労働者は以前よりも少ないですが、残った労働者は非常に生産的です。この10%の労働力の削減は、「これが市場の転換点だ」と言えるような特定のイベントではありませんでしたが、数十年にわたり、社会的・政治的な影響を与えただけでなく、資本コストや競争のあり方、利益率などにも大きな影響を与えています。
AIは少なくともそれと同程度の影響を与える可能性が高いと思いますし、それ以上のインパクト、労働市場の10%以上に影響を与えるかもしれません。また、影響が出るまでの時間が短いかもしれませんし、逆に長いかもしれません。どちらの可能性も議論できますが、少なくともこのように構造的な変化をもたらすという点では、過去の製造業は適切な例だと思います。
そして、投資家として現在注目すべき点はいくつかあります。まず、大きな問題は、資本コストが上昇し続けるこの圧力がいつ終わるのかということです。いつ、この圧力が後退し、デフレ的な影響が現れるのか。そして、それが実際に重要になり始めるのはいつなのか、まだその段階には達していませんが、注視していく必要があります。私はこれを、業界ごとにどのようにAIを取り入れているのかを見ることで監視しています。もう一つは、現在の株式指数に固執しないことです。AIの進展がどこまでいくか分からない以上、市場の時価総額にそのまま依存するのは中立的な見方ではないからです。
[トニー・パスカリエロ]
このテーマについては、望むかどうかにかかわらず、非常に大きなエクスポージャーとレバレッジがかかっている状況です。
[カレン・カルニオル=タンブール]
AIから利益が生まれる可能性があるすべての方法を考えたとき、特定のエクスポージャーがそのことに適したものになっているかどうかは分かりません。これは、保有すべきではないと言っているのではなく、「自分の中立的な立場は何なのか?どう構築すべきか?」と疑問を持って考える必要があるということを言っています。
人によっては、AIにまったく関連のないプライベートなエクスポージャーを多く持っていて、「私はAIに対するエクスポージャーがない」と気づくこともあります。そのため、「プライベート資産には指数がなく、パブリック資産には指数を使っているからそれでいい」と単純化するのではなく、その前提を積極的に問い直す必要があるということです。
(Part2へ続く)
6. オリジナル・コンテンツ
オリジナル・コンテンツは、以下リンクからお聞きになれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。
Bloomberg Televisionより
(Original Published date : 2024/10/12 EST)
[出演]
ブリッジウォーター
カレン・カルニオル=タンブール(Karen Karniol-Tambour)
共同最高投資責任者
ゴールドマン・サックス
トニー・パスカリエロ(Tony Pasquariello)
グローバル・バンキング&マーケット部門
ヘッジファンド担当責任者
御礼
最後までお読み頂きまして誠に有難うございます。
役に立ちましたら、スキ、フォロー頂けると大変喜び、モチベーションにもつながりますので、是非よろしくお願いいたします。
だうじょん
免責事項
本執筆内容は、執筆者個人の備忘録を情報提供のみを目的として公開するものであり、いかなる金融商品や個別株への投資勧誘や投資手法を推奨するものではありません。また、本執筆によって提供される情報は、個々の読者の方々にとって適切であるとは限らず、またその真実性、完全性、正確性、いかなる特定の目的への適時性について保証されるものではありません。 投資を行う際は、株式への投資は大きなリスクを伴うものであることをご認識の上、読者の皆様ご自身の判断と責任で投資なされるようお願い申し上げます。
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