価値観の奥深くをえぐられる連作短篇 凪良ゆう『多類婚姻譚』
こんにちは、ララです。
今日のおすすめ本は、凪良ゆうさんの『多類婚姻譚』です。
本の基本情報
タイトル:多類婚姻譚
著者:凪良ゆう
発売日:2026.5.25
出版社:講談社
第175回 直木賞候補作。
あらすじ
一緒に生きる。わかりあえないあなたと。
一番近くにいる他人-こいびと-。どうして結婚はこんなに難しくなってしまったのだろう。
セクシュアリティ/ジェンダー、金銭感覚、世代間格差、成育環境……あらゆる価値観の対立の中で現代を生きるわたしたちの祈りと叫び。
【収録作品】
「Thank you for your understanding」
家族の期待に応え、ついに恋人と帰省する決意を固めた華。
「Beautiful Dreamer」
結婚したい。ありふれた夢のはずなのに、東京ではこんなにも遠い。
「小鳥たち」
離婚して、実家の書店を継いだ一葉。そこに偶然、初恋の人がやって来て--。
「Position Talk」
入籍を目前にした男女。性差を越え、個としてわかり合える日は来るのか。
「C'est la vie」
仕事も恋も、魂を分けあった二人。だが、夢のような時間にはいつか終わりが来る。
読後の思索
読み終えた率直な感想は「苦しかった…」だった。読んでいて胸が締めつけられるような描写や展開が多く、ページをめくるたびに気持ちが重くなっていった。
決して「楽しかった」と言える読書ではなかった。人の心の奥深くにあるものを容赦なく突きつけられるような作品だった。
本作は全5話の連作短篇集なんだけど、特に印象に残ったのは2話目と4話目。2話目もかなりつらい内容だったけど、4話目は何度も「つらぁ……」と声が漏れてしまうほどだった。
むしろ、この4話目だけをもっと深く掘り下げて、1冊の長篇として読んでみたいと思ったくらい。そして、この4話目だけが男性視点で描かれていることに大きな意味があったように感じた。
この手のテーマは、ThreadsなどのSNSでもよく目にする。もし女性視点で描かれていたなら「男ってひどい」「男って勝手だ」という印象が強く残る物語になっていたと思う。
でも、男性視点だったからこそ見えてくる景色があった。男性にも男性なりの苦しさや葛藤があり、自分ではどうにもできない感情や事情を抱えている。そんなことを改めて考えさせられた。
もちろん、それで誰かの行動が正当化されるわけではない。それでも「相手の側から世界を見る」という体験ができたことは、この作品の大きな魅力だったと思う。
この作品は、人によって感想が大きく変わると思う。自分の経験や価値観によって、共感する人物も、許せない人物も変わるはず。
だからこそ、この作品は読者の心の深いところを刺激する。読後に「面白かった」と言うよりも「考えさせられた」「心を揺さぶられた」と言いたくなる1冊だった。
この作品がおすすめな人
「正しさ」では割り切れない人間関係を描いた作品が好きな人
結婚や恋愛の「当たり前」を問い直す作品を読みたい人
人間の本質に迫る作品を読みたい人
『多類婚姻譚』は、読みやすく気軽に楽しめる短篇集というより「読む人自身を試してくる」ような作品だと感じた。
