母と短夜のラーメン
わたしも母も深夜にラーメン店に行ったことはなかった。どちらも深夜に遊ぶタイプではなく、家でゆっくりと過ごすタイプ。母と2人で外に飲みに行ったことってあったっけ?というレベルで夜は外に出ない。
黄昏時の散歩を終え、家で餃子と味噌汁とサラダを食べているとラーメンが食べたくなるという話になった。
「深夜ラーメンしてみる?」
チェーン店を調べるとオープンしたばかりの一蘭が予約制となっていて、23時に予約を入れる。
まだ時刻は21時。
東京に住む妹に電話をして何を話すわけでもなく、ダラダラと過ごす。一蘭は量が少ないから替え玉かご飯を注文したほうがいいと妹は言う。
「一蘭、なんか紙渡されてそこに書く。ネギはどっちももらったほうがいいから真ん中につけたほうがいいよ」
「え?どういうこと、真ん中ってどこ」
「真ん中は真ん中だよ」
Google検索で一蘭のオーダー用紙を見ながら不毛なやり取りが続く。
「え、ほかには濃さとかおすすめある?」
「ミチルの好きなようにすればいいよ、うちも2回しか行ったことないもん」
妹はわたしのことを「ミチル」と呼ぶ。
たぶん、小学5年生くらいに「ねぇね」から「ミチル」に変わった。大叔母には「妹に呼び捨てで呼ばれるなんておかしいんだから、お姉ちゃんとしてちゃんと言いなさい」と会うことに言われていたけれど、矯正は諦めた。
仕事の話やガチャガチャの話をして、通話を終え、一蘭に向かう。
妹の言うとおりに、たまごのトッピングとシェア用のご飯を一膳を一緒に注文した。

隣に座る母の匂いと豚骨のこってりと甘い匂いが混ざる。
「え、普通に量多くない?」
「東京料金で東京は量少ないんじゃないの?」
食べ終わると、深夜に絶対にしてはいけないくらいのお腹いっぱい。
「おいしかったけど、山形のラーメンのほうが好きだな」
母はラーメンに厳しくて、おもわず笑った。
最近、母は自分の母(わたしの祖母)との関係について、ポツポツと思うことを話してくれることが多くなった。
「ほんとうはこうしたかった」
「これが嫌だった」
祖母には祖母の考えがあったのだろうけれど、それを聞くと少女の母が顔を出しているようで、とても切なくなる。そのときのわたしは娘というより、ひとりの女性として、母の話を聞いてしまう。

きっと、それを反面教師にして、わたしと妹を育ててくれた。そんな母の本音は哀しくもあるけれど、わたしに話してくれているといううれしさもある。
わたしは学生のときは帰省が少し苦しかった。
なんだかわたしは放置されている気がしていたから。でも今、母、わたし、妹にちょうどいい距離ができたことで、それぞれを尊重できている気がする。勝手に傷つけられたと思うこともなくなった。
「今度またZINEつくるから」
帰りの車の中で母に言った。母はZINEを読んでくれるだろうか。ちょっとドキドキする。
