明け方の大淀川長治
映画製作の裏話が物語に
トリュフォーの情熱が生んだ奇跡の名作
『映画に愛をこめて アメリカの夜』
1973年フランス映画
監督フランソワ・トリュフォー
上映時間115分
女優ジャクリーン・ビセットの転機
日本人好みの栗色の髪、ハッとするほど深く青い瞳のジャクリーン・ビセット。彼女は、知性と華やかさを持ち、70年代の洋画専門雑誌の人気投票では必ず上位に名前が挙がった。彼女の素質に早くから目を留めていたフランソワ・トリュフォー監督。オードリー・ヘプバーン主演「いつも二人で」の脇役として出演していた彼女をオードリーと交代させたバージョンを観てみたいとまで言った。マイナーだが才能ある監督だった彼が、映画製作を題材にした作品を作るに当たり、ハリウッドをイメージさせる女優としてジャクリーン・ビセットを選んだ。彼女はハリウッドからフランス映画の現場に呼ばれた女優を演じ、作品の成功は女優としての大きな一歩に。ただし低予算で作られた作品のため衣装はほとんど自前。ミッソーニの服をこの作品のために初めて購入したとインタビューで答えている。
映画作りのためなら何でもあり
思い思いに街を歩く人々。カメラは登場人物らしい男性を追っていく。エキストラたちはどこか不自然。観客が違和感を持ち始めるころ、「カット!」の声がかかり、この作品が1本の映画を撮りながら進む映画なのだということがわかる。ドキュメンタリーではなく、映画イン映画。目もくらむほど高所のセットに一本のはしごだけで登る女優、セリフ覚えの悪い俳優がセットを動き周りながらカンニングペーパーを読む。カメラの位置や映し方でバラックの建物が古代の趣を残した街並みになり、晴れた日がどしゃぶりの大雨に変わる。昼間の撮影に特殊なフィルターを掛け夜のように見せる。そう、これは、本作のタイトルになっている「アメリカの夜」と呼ばれる撮影方法である。映画製作の裏側を知るとなお一層面白い。トリュフォー監督は、映画を作る作業までも物語に変えた。
映画よもやま話
この作品は、トリュフォー監督の経験をもとに作られている。宿泊施設の装備品を映画に使えそうだからと拝借するシーンがある。拝借は装備品だけではない。監督と以前恋人同士だったカトリーヌ・ドヌーブの告白を、別れたあとにファニー・アルダンの主演作でセリフとして使った。そのエピソードをなんと彼は、本作中にも使っている。
ジャクリーン・ビセットの話題をもう一つ。彼女は人気女優アンジェリーナ・ジョリーの名付け親。この作品一本で意外な相関図が出来上がる。
