#16 最終講義~あの朝の違和感~
戒告処分を受けてから数年経ちました。
教え子との距離感も、処分を受ける前とは全く変わっていました。
表面的には、少しずつ日常に戻っていっていたのだと思います。
よくもわるくも、”ふつうの”教員になっていました。
授業をして、部活動を見て、校務分掌の仕事をこなす。
以前と同じように一日が始まり、同じように時間が過ぎていく。
でも、自分の中にはずっと、言葉にしづらい違和感のようなものが残っていました。
「また何か起きるのではないか」
そんな感覚です。
根拠はありません。
もちろん、思い当たるような事態は全く排除できるくらいに、おとなしい生活をしていました。
今思えば、この頃にはもう、完全に“怯えながら働く状態”になっていたのだと思います。
そして、その違和感は、ある日の朝、現実のものになります。
その日も、いつも通り出勤しました。
特別な予定があったわけでもなく、特別な気配があったわけでもありません。
ただ、職員室に入った瞬間、どこか空気が違ったのです。
気のせいと言えば、それまでだったのかもしれません。
でも、人は本当に嫌な予感がするとき、理由より先に空気で察するのだと思います。
しばらくして、一本の声をかけられました。
「先生、少しお時間よろしいでしょうか。」
その瞬間、自分の中で何かが沈む感覚がありました。
まったくあの時と一緒でした。
ふつう、人は用事があるときには、その時に少しでも内容を伝えるものです。
それがないということは、”そこでは伝えられない内容”を抱えているのです。
指定された時間に、指定された場所に行きました。
そこには依然見たのと同じような景色が広がっていました。
第一声は、
「我々は、もう先生のことを庇うことはできません」
その一言を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になりました。
「庇う」という言葉が、特に強く残っています。
自分の中では、教育者としての線を越えないように、あれほど慎重に過ごしてきたつもりでした。
教え子との距離感も変えた。関わり方も変えた。
怖くなるくらい、自分を抑えて働いていました。
それでも、またこの場所に呼ばれている。
つまり、自分が積み重ねてきた「気をつける」は、何も意味を持たなかったのだと、その瞬間に理解してしまいました。
正直、この時点では、まだ何が起きているのか完全には分かっていませんでした。
ただひとつだけ、はっきり感じていたことがあります。
今回は、前回とは違う。
そんな感覚でした。
そして、その予感は、最悪の形で現実になっていきます。
次回は、この呼び出しの場で、次に何を告げられたのかについて、書いてみたいと思います。
