弁護士はモテるか。医師と比較して論ぜよ。
「弁護士ってモテるんでしょ」とか、言われることがある。
そう言われたとき、僕はだいたい「いやぁ~」とか「さあ~」とか言って、適当に答えている。
相手が親しい人なら「まぁ、ボチボチでんな」とか、ナニワの商人風に言ってみたりする。
多分、医師も、しばしば同じようなことを言われていると思う。
ところで、昔の司法試験や、その答案練習会では、○○と××を比較して論ぜよ、という問題がよく出た(手形と小切手とか、株式と社債とか、詐欺と錯誤とか)。
そこで、この稿では、弁護士が果たしてモテるのか、医師と比較しつつ、論じてみたいと思う。
このテの問題は「○○と××は△△という点で共通する。しかし…」という感じで書いていくのがセオリーだ。
そこでまず、共通点を考えてみると、医師と弁護士には、以下のような共通点がある。
・高収入だと思われている
・なるのが難しい
・社会的地位が高いと思われている
このうち、収入の点については、医師はどうだかよく分からないが、最近の弁護士はさほど儲からない(もしかしたら僕だけなのかも知れないが)。
特に、都会の弁護士は貧富の差が激しい。儲かっている人はものすごく儲かっているらしいが、そうでもない人はそうでもない、弁護士には退職金や企業年金がないことも考えれば、生涯年収は一流企業を定年まで勤めた人の方が多いかもしれない。
ただ、実際はどうあれ、高収入だと「思われている」ということが、モテるかどうかに関しては重要である。その意味では、弁護士が高収入と「思われている」のは、一応、真実であると言えるだろう。
さて、共通点の次は相違点である。
まず、弁護士には、医師よりもかなり「希少性」がある。
医師に会ったことがない、という人は多分いないが、弁護士に人生で一回も会ったことがない、という人は大勢いる。珍しいものが好きな人なら、医師よりも弁護士の方がいいかもしれない。
もっとも、希少であることは、多くの人にとっては馴染みがない、ということを意味する。
医師の仕事は一般の人の身近にあり、病院に行けば気さくで話しやすい医師もたくさんいる。しかし弁護士には、企業の法務担当者でもない限りは、滅多に会う機会はない。離婚や相続や多重債務といった一生に一度あるかないかのトラブルを抱えない限りは、普通の人が法律事務所を訪れることはない。
接する機会がなければイメージだけが先行し「気難しそう」「理屈っぽそう」みたいなイメージを持たれがちになる。
もっとも、それは弁護士の側から見れば「ハードルが低い」ことを意味する。
不良少年からちょっと優しくされた女子が、その不良をすごく優しい奴のように感じてしまうのと同じように、弁護士がちょっと気さくに話すと「弁護士なのに気さくな人」とか、なるかもしれない(だといいな、という僕の願望も、入っているかもしれない)。
「優しさ」「誠実さ」などに関するイメージはどうか。
この点については、弁護士は不利である。
「優しくて誠実な医師」の代表格は、白い巨塔の里見医師である。ドラマ(特に2003年版)では、彼は優しさと誠実さの塊のような人物として描かれている。さぞかし女性にもモテそうだが(顔が江口洋介なら、もはや無敵である)、こういうキャラクターは、弁護士には設定しにくい。
医師は患者という弱者を相手にする仕事であり「人助けをする人」というイメージがデフォルトである。また、医師の仕事は治療であり、それは、どこから見ても「正しいこと」である。
これに対し、弁護士の仕事には、どこか理解されにくい胡散臭さが付きまとう。弁護士は「人助け」もすることはあるが、カネをもらって悪人(に見える人)の味方をすることもある。弱者の味方をすることもあるが、強者にも弁護士はつく。依頼者にとってのいい弁護士は、裁判の相手方から見れば悪の手先かもしれない。弁護士が「なんであんな奴の弁護をするんだ!」と言われて叩かれることはあっても、医師が「なんであんな奴の治療をするんだ!」とか言われることはない。
これらの点からすると、里見医師のような、誰の目から見ても「優しくて誠実」な人物を、弁護士にイメージすることは難しい。ドラマに出てくる弁護士は、だいたい、曲者か変人か冷徹か型破りか、さもなくば悪徳弁護士である。里見医師のような人格者は、まず、出てこない。
「スマートさ」という点ではどうか。
圧倒的に医師の方がスマートである。
弁護士の仕事は泥臭い。離婚や相続、泥棒や詐欺師の弁護、普通の人は見たくもないような醜い揉め事、社会の暗部と日常的に接する。あまりスマートではない。セクハラの被害者に示談金を届けに行く弁護士を見て「素敵!」と思う女性は多分、いない。
もっとも、一般の人は「弁護士」という肩書から、泥臭さは余り想像しないらしい。
弁護士になってからしばらくして親戚の結婚式に出たら、初対面の親戚から「弁護士さんなんですって?企業法務とかですか?渉外事務所ですか?」とか言われた。
どうやら世間は「弁護士」という肩書から、もっと華やかな仕事を想像するらしい。
華やかそうな部分だけ想像してくれるのなら、弁護士はそれなりにスマートにも見えるのかもしれない。
何だかこのままだと、弁護士には、希少性以外に医師よりモテる要素はないような感じがする。
さらに畳みかけると、「モテるか」という点に関して、弁護士には医師より圧倒的に不利な点がある。
それは、「その職業に就けることが確定する時期」である。
何を言っているのかよく分からない読者も多いと思うので、説明しよう。
医師は、大学の医学部に入学した時点で、医師になれることがほぼ確定する。そして、大学に入学するのは、普通は18歳~20歳ぐらいである(例外もあるが)。
これに対し、弁護士が弁護士になれることがほぼ確定するのは、司法試験に合格したときである。それは、一般的には大学を卒業して数年以上が経過した後であり、人によっては30歳を過ぎてからだったりする(尚、僕が司法試験に合格したのも、30歳を過ぎてからである)。
そう、医師は、大学入学直後からモテるのに対し、弁護士はモテたとしても、それは早くても20代の半ばぐらいからなのである。そして、僕の場合は30歳を過ぎてからだったのである。
この違いが何をもたらすか。それは、若い頃から蓄積された、女性に対する経験値の差である。
そして、経験値の差は、女性の前での自然な振る舞い、スマートさ、気遣いやアプローチの巧拙の差をもたらす。
言葉を変えれば「女性慣れ」の程度が、医師と弁護士とでは全然、違うのである。
そして何事も、学ぶにはそれに相応しい時期というものがある。
幼少時に海外で暮らした帰国子女の語学力に、大人になってから語学の勉強をして追いつこうとしても、普通は無理である。女性との接し方、振る舞いも、それと似ている(あくまで、個人的見解です)。
18歳からモテ続けてきた奴らが、多くの女性との交流の中で学習してきたようなことを、女性にほとんど縁のなかった男が30歳過ぎてから学習しようとしても、無理なのである。20歳前後なら許されるような試行錯誤も、オッサンになってからはできないのである。
受験勉強をしている間は、弁護士になったらさぞかしモテるに違いない、と思っていた。それが勉強のモチベーションの、少なくとも一部であったことは間違いない。
しかし、受験生活が想定外に長くなって、勉強を始めた頃に気になっていた女性たちは、僕が受かる頃には全員結婚してしまっていた。
そうなると、新たな出会いを求めたいところではあるが、もともと女性とさほど縁がなかった男が、30歳過ぎてから多少、女性に興味を示してもらえるようになっても、今更何をどうしていいのか分からない。
また、結婚を考えるような年齢の医師にとっては、「医師」でも「医学生」でもなかったのは、大学入学前の、遥か昔のことである。なので、世間や女性からの扱いが、最近になって急に変わったなんてことは、ないと思う。
しかし、同じ年代の弁護士の多くは、ついこの間まで、弁護士でも司法修習生でもない、ただの人だったのである。そして、その多くは、無職の司法試験浪人だったりするのである。
そうすると、急に女性からの扱いがよくなって、時には好意を示されるようなことがあったとしても、なかなか素直には受け取れなかったりする。
修習生のときだったか弁護士になってすぐの頃だったか忘れたが、知人から紹介された女性と、何度かデートらしきことをしたことがあった。そして、そんなに深い仲でも明確な彼氏彼女でもないのに、その女性の実家に呼ばれて、家族ぐるみでの歓待を受けた。
その女性からは「お母さんはあなたのことを気に入っている」と言われた。それまでの人生で、女性からそんなことを言われたことはなかった。そもそも、女性の実家に呼ばれたこともなかった。その家の猫が妙に僕に懐いたのを見て、彼女は「○○(猫の名前)も気に入ってる」とも言った。
僕は、素直に喜ぶことはできなかった。何か違和感を感じた。歓待されているのは自分ではない誰かのようにも思えた。
もっとも、僕が拗らせていただけかもしれない。
その子は綺麗な子だったが、それ以上の進展はなかった。
その子が本当は何を思っていたのかや、内面の深いところは結局よく分からないまま、疎遠になった。
どうするのが正解だったのか、今でもよく分からない。
こんな感じでも「モテる」というのだろうか。
以上を総合すると、結論としては、どうやら、弁護士より医師の方がモテそうである。
僕の場合、猫にはモテたようではあるが。
